アートを暮らしに取り入れたい!でも、どこでどう手に入れる?

日本人は、世界で最も美術館に足を運ぶけれど、最もアートにお金を使わないなどといわれているそうですが…、実際、アートは観るもので、買うという発想はない。そういう人、実は多いのではないでしょうか。

そこで、コンテンポラリーアートを中心に展開する、世界的な老舗オークション会社の日本代表・服部今日子さんに「アートを買う」ことについてじっくりうかがってみました。

服部今日子さん
「フィリップス・オークショニアズ」日本代表・ディレクター
(はっとり きょうこ)東京大学卒業後、マッキンゼー&カンパニーに勤務。金融、ヘルスケア、不動産等の業界を対象に戦略立案プロジェクトに従事。その後、不動産投資ファンド、ヘッドハンターを経て、趣味のコンテンポラリーアートコレクションが興じ、2016年よりフィリップス日本代表に就任。

「アートを『買う』って、どういうことですか」

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この日、オフィスでは『迷子か家出かポケモンかもしれない Got Lost, Runaway or Maybe Pokemon』(2019年 oil on canvas 227.3×181.8cm @Makiko Kudo)など、アートバーゼル香港のために制作された新作を中心に、工藤麻紀子の作品が展示されていた。

「自分にとって心地よいものは何か。自己との対話の結果、手に入れたアートは、プロセスを含めて人生の日記のようなものです」(服部さん)

「私も、かつては『アートを買う』という発想はありませんでした。抽象絵画の先駆者といわれるカンディンスキーの作品が好きで、もともとコンテンポラリーアートに興味はありました。

ですから、気になるテーマの展覧会があるときは、国内外を問わず、美術館に足繁く通っていたんです。そもそも、アートは観に行くもの。そう思っていました」

15年ほど前、食事会で偶然、同席したのがアートコレクター。

「アート話で盛り上がっていたら『好きなら、買うといいよ!』とあっけらかんと言われて(笑)。そうか、アートって買うものなのか、と…」

いざ、買うと決めたら何から始めればいいのか。コレクターの方にアドバイスをもらったとか。

「まず、おすすめのギャラリーやアートフェアを教えてもらい、リストにして片っ端から通いました。

銀座の『ギャラリー小柳』や『東京画廊』、上野の『SCAI』、六本木の『OTAFINE ARTS』、『WAKOWORKS OF ART』、『Taka Ishii Gallery』、『小山登美夫ギャラリー』、『Shugo Arts』『TARO NASU』、『Perrotin』…。東京には世界クラスのギャラリーが驚くほどある。

アートと出合い、手に入れる機会が身近に転がっているんです」

ただしギャラリーを訪れる際は「アートを買う」という意思をもつこと。

「心からこれが欲しい と思える作品に出合うまでは焦らなくてもいいんです。ただ、アートを買うつもりで見るとより深く作品を理解できます。

実際私は、気になる作品があったら、見るだけでなく値段を聞いたり、作品の背景を聞いたりしました。そのやりとりを通してアーティストや作品について勉強し、ギャラリーの方と知り合いになりました」

「アートを買うことで、世界は広がります。好奇心や興味、知識、経験の幅がぐっと広がるからです」(服部さん)

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フィリップスでは「コンテンポラリー」をキーワードに分野を絞ってオークションを開催。20世紀およびコンテンポラリーアート、エディション(版画作品)、写真、デザイン(家具など)、時計、ジュエリーの6分野。カタログにはEstimate(落札予想価格)も記されているので目安となる。すべてのカタログはオンラインでも見ることができる。

ギャラリーに通いつめて半年後。服部さんが初めて買ったアートとは?

「さわ ひらきさんの映像作品です。家の中をラクダが旅する作品で、非日常な世界観ですが、愛らしくて。DVDとモニター、手描きのイラスト付きの証明書がセットになっていました。今思うと、初めて買ったアートが映像作品というのはややマニアックかもしれません(笑)。

実際、絵画やオブジェのように部屋に飾って、自然と目に触れるわけではないので、たまにしか観ていませんが、15年前のそのときの私は、心から欲しい、そばに置いておきたいと思ったんですよね。アートを買うって、そういうことだと思います」

自分にとって心地よいもの、本当に好きなものは何か。他人は関係ない。それは、自分との対話であり、結果として手に入れたアートは、プロセスを含めて人生の日記のようなもの、と服部さんは言います。

「どんな気持ちで、どういう状況で買ったのか、購入した作品ひとつひとつが当時の思い出と結びついています。ときどき、インテリアとしてアートを買いたい、と相談されます。それもひとつのアートの買い方かもしれません。

でも私は、空間に合うアートを選ぶのではなく、なによりも『好き』を大事にしてほしいと思っています。好きを最優先にした結果、部屋のインテリアに合っていなくてもいいじゃないですか。家や空間は替えられますが、好きな作品は変わりませんから」

では、自分の好きを知る、その目を養うためにするべきこととは?

やはり数です。できるだけ多くの作品を観ることです。美術館やギャラリー、アートフェアなどで生で観て感じることがいちばんですが、世界各地へ頻繁に行くことは難しい。

そこで今、便利なのが、インスタグラムです。世界の名だたる美術館やメガギャラリーが名作を惜しげもなく公開しています。これは本当にありがたいこと。

多くの名作に触れることで、自分が好きな作品の傾向がわかってきます。気になる作家や作品があったら、その背景や歴史を調べてみるといいでしょう」

アートの「目」を養うために服部さんおすすめ!インスタグラムアカウント4選

1:LARRY’S LIST(@larrys_list

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LARRY’S LISTのインスタグラム

アートコレクターへのインタビューやマーケット情報などを発信するWEBサイトのインスタグラムアカウント。「世界中のコレクター宅がのぞけます。アートを暮らしに取り入れるヒントが満載!」(服部さん)

2:Hauser&Wirth(@hauserwirth

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Hauser&Wirthのインスタグラム

1992年設立。香港、ロンドン、ロサンゼルス、N.Y.など世界中にスペースをもつメガギャラリー。「スイス・チューリッヒ発祥の、世界を代表する画廊。各地で行われる美術館クオリティの展覧会は必見」(服部さん)

3:Tate(@tate

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Tateのインスタグラム

イギリス・ロンドンのテムズ川沿いにある人気の近現代美術館のアカウント。

「N.Y.のMOMAと双璧をなす美術館です。ピカソやダリなどの巨匠だけでなく、新しい作家の展覧会も楽しめます」(服部さん)

4:Perrotin Gallery(@galerieperrotin

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Perrotin Galleryのインスタグラム

フランス人のエマニュエル・ペロタン氏が創立。

「村上隆、Mr.、ソフィ・カルなど世界的アーティストが多数所属。東京・六本木のピラミデビルにもギャラリーがあります」(服部さん)

また、実際にギャラリーを訪れた際、いいな、欲しいなと思う作品を見つけたら、ぜひレセプションパーティーに参加してみてください、と服部さん。

個展のオープニングや最終日も、作家が在廊していることが多いので、作品のコンセプトなど直接聞いてみると、もっと興味がわくと思います。もちろん、話しかける勇気がなくても、プライスリストを確認できますし、同じ趣味をもつ友人ができるチャンスと捉えてみては?

そういう意味で、コンテンポラリーアートの魅力は、作家が同じ時代を生きているという点です。彼らがどう進歩していくかを追いかけるのも楽しいですし、作品を買うことで、世界中の作家やコレクターともつながっていくおもしろさがあります。また、欲しいものが明確になったら、オークションにもぜひトライを。

今はアプリやオンラインでも気軽に参加できます。アートを買うことは、自分の世界が広がるということ。長く一緒に暮らす同居人=作品を手に入れるだけでなく、好奇心や興味、知識、経験の幅もぐっと広がるからです

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森美術館や国立美術館ほか、世界的ギャラリーが多い六本木。なかでもピラミデビルはコンテンポラリーアートのハブ的存在。移転により、ギャラリースペースが併設され、コレクターやアーティストらの交流の場に。この日は工藤麻紀子の作品を展示中。 

問い合わせ先

  • Phillips Auctioneers(フィリップス・オークショニアズ)
  • 世界的な老舗オークション会社。1796年ロンドンで設立。ニューヨーク、香港などにオフィスが。コンテンポラリーアートをメインに、デザイン、写真、エディション、ウォッチ&ジュエリーの分野に注力。2019年4月、六本木に東京オフィスを移転・オープン。公式インスタグラム
  • 住所/東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル4F

 

PHOTO :
篠 あゆみ
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)