アートを暮らしに取り入れたい!でも、どこでどう手に入れる?
日本人は、世界で最も美術館に足を運ぶけれど、最もアートにお金を使わないなどといわれているそうですが…、実際、アートは観るもので、買うという発想はない。そういう人、実は多いのではないでしょうか。
そこで、コンテンポラリーアートを中心に展開する、世界的な老舗オークション会社の日本代表・服部今日子さんに「アートを買う」ことについてじっくりうかがってみました。
「アートを『買う』って、どういうことですか」
「自分にとって心地よいものは何か。自己との対話の結果、手に入れたアートは、プロセスを含めて人生の日記のようなものです」(服部さん)
「私も、かつては『アートを買う』という発想はありませんでした。抽象絵画の先駆者といわれるカンディンスキーの作品が好きで、もともとコンテンポラリーアートに興味はありました。
ですから、気になるテーマの展覧会があるときは、国内外を問わず、美術館に足繁く通っていたんです。そもそも、アートは観に行くもの。そう思っていました」
15年ほど前、食事会で偶然、同席したのがアートコレクター。
「アート話で盛り上がっていたら『好きなら、買うといいよ!』とあっけらかんと言われて(笑)。そうか、アートって買うものなのか、と…」
いざ、買うと決めたら何から始めればいいのか。コレクターの方にアドバイスをもらったとか。
「まず、おすすめのギャラリーやアートフェアを教えてもらい、リストにして片っ端から通いました。
銀座の『ギャラリー小柳』や『東京画廊』、上野の『SCAI』、六本木の『OTAFINE ARTS』、『WAKOWORKS OF ART』、『Taka Ishii Gallery』、『小山登美夫ギャラリー』、『Shugo Arts』『TARO NASU』、『Perrotin』…。東京には世界クラスのギャラリーが驚くほどある。
アートと出合い、手に入れる機会が身近に転がっているんです」
ただしギャラリーを訪れる際は「アートを買う」という意思をもつこと。
「心からこれが欲しい と思える作品に出合うまでは焦らなくてもいいんです。ただ、アートを買うつもりで見るとより深く作品を理解できます。
実際私は、気になる作品があったら、見るだけでなく値段を聞いたり、作品の背景を聞いたりしました。そのやりとりを通してアーティストや作品について勉強し、ギャラリーの方と知り合いになりました」
「アートを買うことで、世界は広がります。好奇心や興味、知識、経験の幅がぐっと広がるからです」(服部さん)
ギャラリーに通いつめて半年後。服部さんが初めて買ったアートとは?
「さわ ひらきさんの映像作品です。家の中をラクダが旅する作品で、非日常な世界観ですが、愛らしくて。DVDとモニター、手描きのイラスト付きの証明書がセットになっていました。今思うと、初めて買ったアートが映像作品というのはややマニアックかもしれません(笑)。
実際、絵画やオブジェのように部屋に飾って、自然と目に触れるわけではないので、たまにしか観ていませんが、15年前のそのときの私は、心から欲しい、そばに置いておきたいと思ったんですよね。アートを買うって、そういうことだと思います」
自分にとって心地よいもの、本当に好きなものは何か。他人は関係ない。それは、自分との対話であり、結果として手に入れたアートは、プロセスを含めて人生の日記のようなもの、と服部さんは言います。
「どんな気持ちで、どういう状況で買ったのか、購入した作品ひとつひとつが当時の思い出と結びついています。ときどき、インテリアとしてアートを買いたい、と相談されます。それもひとつのアートの買い方かもしれません。
でも私は、空間に合うアートを選ぶのではなく、なによりも『好き』を大事にしてほしいと思っています。好きを最優先にした結果、部屋のインテリアに合っていなくてもいいじゃないですか。家や空間は替えられますが、好きな作品は変わりませんから」
では、自分の好きを知る、その目を養うためにするべきこととは?
「やはり数です。できるだけ多くの作品を観ることです。美術館やギャラリー、アートフェアなどで生で観て感じることがいちばんですが、世界各地へ頻繁に行くことは難しい。
そこで今、便利なのが、インスタグラムです。世界の名だたる美術館やメガギャラリーが名作を惜しげもなく公開しています。これは本当にありがたいこと。
多くの名作に触れることで、自分が好きな作品の傾向がわかってきます。気になる作家や作品があったら、その背景や歴史を調べてみるといいでしょう」
アートの「目」を養うために服部さんおすすめ!インスタグラムアカウント4選
■1:LARRY’S LIST(@larrys_list)
アートコレクターへのインタビューやマーケット情報などを発信するWEBサイトのインスタグラムアカウント。「世界中のコレクター宅がのぞけます。アートを暮らしに取り入れるヒントが満載!」(服部さん)
■2:Hauser&Wirth(@hauserwirth)
1992年設立。香港、ロンドン、ロサンゼルス、N.Y.など世界中にスペースをもつメガギャラリー。「スイス・チューリッヒ発祥の、世界を代表する画廊。各地で行われる美術館クオリティの展覧会は必見」(服部さん)
■3:Tate(@tate)
イギリス・ロンドンのテムズ川沿いにある人気の近現代美術館のアカウント。
「N.Y.のMOMAと双璧をなす美術館です。ピカソやダリなどの巨匠だけでなく、新しい作家の展覧会も楽しめます」(服部さん)
■4:Perrotin Gallery(@galerieperrotin)
フランス人のエマニュエル・ペロタン氏が創立。
「村上隆、Mr.、ソフィ・カルなど世界的アーティストが多数所属。東京・六本木のピラミデビルにもギャラリーがあります」(服部さん)
また、実際にギャラリーを訪れた際、いいな、欲しいなと思う作品を見つけたら、ぜひレセプションパーティーに参加してみてください、と服部さん。
「個展のオープニングや最終日も、作家が在廊していることが多いので、作品のコンセプトなど直接聞いてみると、もっと興味がわくと思います。もちろん、話しかける勇気がなくても、プライスリストを確認できますし、同じ趣味をもつ友人ができるチャンスと捉えてみては?
そういう意味で、コンテンポラリーアートの魅力は、作家が同じ時代を生きているという点です。彼らがどう進歩していくかを追いかけるのも楽しいですし、作品を買うことで、世界中の作家やコレクターともつながっていくおもしろさがあります。また、欲しいものが明確になったら、オークションにもぜひトライを。
今はアプリやオンラインでも気軽に参加できます。アートを買うことは、自分の世界が広がるということ。長く一緒に暮らす同居人=作品を手に入れるだけでなく、好奇心や興味、知識、経験の幅もぐっと広がるからです」
問い合わせ先
- Phillips Auctioneers(フィリップス・オークショニアズ)
- 世界的な老舗オークション会社。1796年ロンドンで設立。ニューヨーク、香港などにオフィスが。コンテンポラリーアートをメインに、デザイン、写真、エディション、ウォッチ&ジュエリーの分野に注力。2019年4月、六本木に東京オフィスを移転・オープン。公式インスタグラム
- 住所/東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル4F
- PHOTO :
- 篠 あゆみ
- EDIT&WRITING :
- 田中美保、古里典子(Precious)