最近書店では『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』『物欲なき世界』など、「さらば消費社会」的な本が目立つ。「これからはモノではなく人と心の時代」「必要最小限で暮らす」など、いいことがいっぱい書いてある。でもこれ、できます?
ブームの背景には、中国人の爆買いがあると思う。著者たちには「いまだ不況のわが国。経済的にはありがたいが、あの光景は見苦しい!」という思いがあるのだろう。しかしあれは景気の絶頂期、日本人が海外でやらかしてきたこと。あと30年もすれば、中国でも「清貧」「ミニマリズム(必要最小限生活)」が流行りだすに違いない。
ミニマリストには「ムダ」としか映らないかもしれないけど、私たちは旅をするとき、「どこの店に行こうか」とショッピングの計画が欠かせない。さらに日常で落ち込んだとき、思いきって手に入れた美しいジュエリーやティーカップに慰められた女性は多いはず。
少し意地悪な見方をすると「買わない、いらない」ブームって、かつて物量で競ったオトコたちが、今度は「俺のほうがもってないゾ」と自慢しだしたみたい。「爆買いか無欲か」ではなく、モノの技術の高さがその人を変える。そんな買い物ができたら。
『僕たちは、なぜ腕時計に数千万円を注ぎ込むのか?』は、高級時計ブランド“リシャール・ミル”の仕事と愛好者たちの本。読みどころは後半「腕時計をつけてプレイはしない」というテニスプレイヤー・ナダルのために、ブランドは究極の軽さを実現。サッカー監督・マンチーニの愛用品は、文字盤で45分ハーフのプレイ時間とロスタイムを表示する。注目すべきは愛好者たちの「財力」ではなく、時間とスピードを仕事にしている男たちがリスペクトする最高の職人技。シビれます。
- TEXT :
- 間室道子さん 代官山 蔦屋書店コンシェルジュ
- クレジット :
- 撮影/田村昌裕(FREAKS) 文/間室道子