35歳から、私の人生は「矢切の渡し」

Vol.1では「悩みを仕分けよ」、Vol.2では「欲望をなめるな」、Vol.3では「常識を更新せよ」などなど、これからの私たちの生き方について、たくさんの金言を授けてくれたジェーン・スーさん。そんな彼女はどんな人生を歩み、ここまでたどり着いたのでしょうか。Vol.4ではスーさん自身について、紐解いていきます。

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ジェーン・スーさん

——今では、ラジオパーソナリティ、エッセイストとして活躍されているスーさんですが、どんなキャリアを経て、今に至るのでしょうか。

最初に入ったのは音楽業界、それも大手のレコード会社でした。

希望の宣伝担当となり、忙しいながらも毎日充実している、そんな日々。ならば自分の力がどこまで通用するのか試してみようと、同業種で転職しました。さらに次は異業種のベンチャーへ転職。川上から川下まで幅広い仕事を担当。ますますやり甲斐を感じていました。

転機といえば、35歳で父親の事業を手伝うことになってから。同時期に友人が音楽マネジメント事務所を立ち上げることになり、ある程度自由に時間が使えるようになったので、そのお手伝いもしていたんです。

そうしたら突然、「歌詞、書いてみない?」と。もちろん最初は「は? 私が?」と思いましたよ。歌詞を書いたことなんてないし、もちろん書こうなどと考えたこともない。でも、その依頼をしてきた人が、ものすごく信頼できる人だったんです。だから思い切ってやってみました。

目の前に来たよさげな船に乗る。それが私のスタイル

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ジェーン・スーさん

それ以来、私の人生は矢切の渡し。気のいい船頭がやってきて「乗ってく?」と言ったら、乗ってみる。ラジオもそうです。信頼している人が「出ない?」と言ってくれたから、信用して出た。

繰り返しになりますが、重要なのは、「その船頭が信頼できる人だった」ということ。仕事のセンスのある人が「やらない? できるよ」と言ってくれたら、「ウケる!」と思いながら、素直に「やる」。そうやって波止場に着いた船に乗って行ったら、思ってもみないところに着いちゃった。それが今の私なんです。

最近ではポッドキャストも始めました。その名も『OVER THE SUN』。同世代のTBSアナウンサー・堀井美香さんと“離婚”から“お墓”まで、幅広いテーマでトークしてますから、ぜひ聴いてみてください。

——これからの未来予想図はあるのでしょうか。

そんなものはありません。描いたこともないし、描いていたらこんなふうになってない。いつかはアメリカに移住したいとも思っていましたが、お騒がせな大統領の政策のせいで、しばらくビザがおりそうにない事態が続きました。

そう考えると、自分でコントロールできることなんてほとんどない。だから目の前に来たよさげな船に乗る。それが私のスタイルになりました。

悩みと欲望は背中合わせ。だから悩みは次の扉となる

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ジェーン・スーさん

——『女のお悩み動物園』にて、40代になり「あきらめ上手になった」「悔しがることも忘れてしまった」と書かれていたのが、心に響きました。

年齢を重ねると、執着する筋肉が衰えるんですよね。人との距離の取り方を覚えて、事を荒立てない術を身につけて、いつの間にか平和に生きているように見えるのが40代。それはそれで幸せだけれど、だからこそvol.2で伝えた「欲望を健やかに把握すること」が、40代をもっと幸せに導いてくれる気がするんです。

私自身、Vol.3で語った「常識の更新」「意識のアップデート」を欠かさないようにしています。

音楽好きの私は、仕事がひと段落着くと、早い時間に友人のバーを訪れ、下戸なのでコーヒーを頼み、そこで新譜をガンガンかけてもらいます。それをSpotifyに読ませて翌日聴く。何を歌ってるのか、だれが流行ってるのか、やっぱり知っておきたいですから。

私にとっての音楽のようなものがない人は、つねに意識をアップデートしてる人をそばに置いておくのも有効。また、情報交換の場に呼ばれやすい“フットワークの軽いおばさん”でいることも、すごく大切だと思いますよ。

それでも悩みは絶えないことでしょう。そうしたら、Vol.1で伝えた悩みの仕分けをさっそく実践してみてください。もしそれが本当の悩みなのだとしたら、あなたには欲望があるということ。それは祝福すべきことではないでしょうか。

“早い・安い・うまい”が推奨されがちな昨今ですが、悩みに解決の近道はない。もしあったとしたらそれは危ない道。どうぞ遠回りして、ゆっくり自分の周辺を耕してみてください。するとその先に、次の生き方が見えてくる。私はそんなふうに思うのです。

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『女のお悩み動物園』著=ジェーン・スー 小学館 ¥1,500(税抜)

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ヨドバシカメラ 

ジェーン・スーさん
作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ
1973年、東京生まれの日本人。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)、『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)、『これでもいいのだ』(中央公論新社)、中野信子との共著に『女に生まれてモヤってる!』(小学館)ほか、著書多数。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』放送中(2020年現在)。TBSアナウンサー・堀井美香さんとのポッドキャスト『OVER THE SUN』(毎週金曜17時配信)も好評配信中。
この記事の執筆者
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