吹きガラスの器やグラスたち

ガラスは、いちばん好きな素材かもしれません。学生時代、吹きガラスを習っていました。ガラスがドロドロに溶けたるつぼに竿を入れてからめとり、固まらないうちにふくらませながら形を整える作業は、あの涼やかなガラスの表情からは想像もつかないほどの蒸し風呂状態でした。熱との戦い、時間との戦い、直接触れられないもどかしさ。なかなか上達せず、3年続けて「使ってもいいかな?」と思える作品は10 点に満たない程度でした。だからか、ガラス作家さんの、均整の取れた形や、見事に薄く仕上げた作品を目にすると感動して、ついつい手にとってしまいます。

ガラスは、偶然の産物としてつくり出されたものだそうですが、同時にそれは、人類が初めてつくった物質ともいわれています。日本に渡来した西欧ガラスは、江戸時代には「ビードロ」や「ギヤマン」と呼ばれ、大いに珍重されました。ビードロは、ポルトガル語で主に吹きガラスを意味する「vidro」に由来します。涼しげなガラスのおもちゃのビードロ( =ぽっぴん)を吹く様子は、まさに、吹きガラスを吹く姿そのものです。

どんより雲に気持ちが沈みがちな日は、荒井由実の『海を見ていた午後』を思い浮かべます。透き通った、静かな歌からイメージするのは、気泡が入った、揺らぎや危うさのあるアンティークグラスにみっちりついた水滴が、時間の経過と共に大きな雫となって、側面をつーっと伝っていく様子。それがまた、梅雨時の窓ガラスを伝う雨雫を連想させ、6月はガラスが合う季節だなと感じるのです。

今日は男の晩酌ならぬ、女の“ひとりウィスキーソーダ”。吹きガラスの器に入れたアテは、2日前につくったひたし豆と、昨日つくったエスカベッシュ。ソーダのぷちぷちと弾ける炭酸に、澄んだ出汁や甘酸っぱい酢の風味が、シトシト雨の鬱陶しさもいやなことも、すーっと浄化してくれるようです。

<今回のアイテム:吹きガラス>吹きガラスとは、高温で溶かしたガラスを吹き竿に巻き取り、息を吹き入れて成形する技法。古代ローマ時代に発明され、ステンドグラスやベネチアングラスなど西洋のガラス工芸の基なった。西欧ガラスは宣教師のフランシスコ・ザビエルによって日本に初めてもたらされた。後に吹きガラスの技法が伝えられると、徳利や風鈴、彩色ガラスの灯ろうなど、国内でもガラス工芸が盛んに。

佐藤玲朗さんの小皿とジャー

左から/モール小皿[直径14.5㎝]¥2,600・ジャー[高さ約14㎝]¥6,000(ともに税抜)

沖縄や長崎でガラスづくりを学んだ佐藤玲朗(れいろう)さんは、再生ガラスなども併用して製作。吹きガラスらしい揺らぎやぽってり感のあるシンプルな形は使いやすい。

辻野 剛さんのタンブラー

“Olive stained”タンブラー[高さ11.5㎝]¥6,000(税抜)

アメリカで吹きガラスを学んだ後、大阪にスタジオ「fresco」を設立した辻野 剛(たけし)さんは、ベネチアングラス職人のような精巧な技術とセンスで日本人の生活に沿う作品を提案。

アンティークのグラス

アンティークショップで購入

かつてフランスのビストロで使われていたグラス。量産品でありながら、職人の手づくりならではの味がある。飲み物だけでなく、上の写真のように料理を入れても素敵。「アンティークス タミゼ」などのアンティークショップで購入。

問い合わせ先

  • イン マイ バスケット TEL:03-3722-9660
  • fresco TEL:0725-90-2408

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この記事の執筆者
1978年生まれ。デザイン事務所、スタイリストのアシスタントを経て独立。主に食まわりのスタイリングを中心に、雑誌や書籍で活動。2008年から1年間、ベルギー・アントワープのレストランで、食ともてなしを学ぶ。将来の夢は、おばあさんになったら、小さな食堂のマダムをやること。 好きなもの:食べること、つくること、旅行、器、古いもの、食に関する学術書、職人
クレジット :
撮影/濱松朋子 スタイリング・料理・文/城 素穂 
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