キャリアアップしていくと、部下や後輩も増えてきます。自分自身で進めるべき仕事をこなす一方で、部下や後輩への教育や指示、報告を受けるのも日常的な業務になっていくものですよね。

そんなとき、意外と困るのが部下や後輩とのコミュニケーション。ふとした話し方の違いで信頼度やモチベーションを下げると、日常業務に支障が出てしまいます。

そこで、7,200名以上の受講者に向けたコミュニケーションセミナーを主宰している栗原典裕さんに、上長や先輩がやってしまいがちなNG例と、その改善策を5つ教えていただきました。もしあなたが以下のようなコミュニケーションが習慣になっていたら、すぐにでも改善していきましょう。

■1:「教科書どおり」のことを言う

一般論では部下に伝わらない
一般論では部下に伝わらない

最もやりがちなのが、的外れな発言。部下に対して、どうも自分の言葉が響いていない。反応が悪いのは、教科書どおりのことを言ってしまっている場合が多いのです。そんなとき、栗原さんは「自分の経験を伝えるのが重要」だといいます。

例えば、部下が何かに悩んでいたり、失敗してしまったりしたときは「自分が同じ年齢だったとき」「自分が同じ立場だったとき」と前置きして、経験を伝えるのが大切。いい上司とは「自分を育ててくれる」と思わせてくれる人だとする栗原さんは「成功体験だけではなく、失敗した体験も交えて話す」ことが、部下からの信頼を高めるポイントだといいます。

教科書のような言葉ばかり並べられても、相手の心に届きづらいのも事実。包み隠さずに経験を伝えれば、部下からの尊敬度もぐんとアップするでしょう。

■2:相手の「本音」を理解しないまま進める

部下が本音を語ってくれない。上司と部下の力関係もあるからか、どうにも建前ばかりの報告しか受けられないときもありますよね。これはそのまま放置してしまうと、すれ違いを招きやすいです。

そんなとき、栗原さんは「サンプルを提示してみる」という話し方が有効だといいます。

本音を語らないということは、部下の心のなかに「これを言ったらまずいかもしれない」という自己防衛本能が働いている可能性もあります。大手学習塾チェーンでブロック長を務めていた経験もある栗原さんは「当時、生徒の数が減っている教室があり、指摘をすると『広告を頑張ります』と、建前でしか話してもらえないときがありました」と振り返ります。

その当時、栗原さんが行ったのは「もしかして、近隣の塾が原因なのでは?」といった内容を、こちらから提示するという方法。たとえ話やサンプルは、いわば会話の叩き台。イメージを共有することで、部下が真に思っていることを引き出してあげるのも、上司の役目です。

■3:話の内容に「優先順位」をつけずに話す

ただ漫然と話すだけでは伝わりにくい
ただ漫然と話すだけでは伝わりにくい

何かを話していたと思いきや、別な話題にいつの間にか切り替わっていた。上司がそんな話し方をしていても、部下としてはなかなか途中で割り込みづらいもの。伝わりやすい話し方で心がけたいのは「ルール・オブ・スリー」という方法です。

ルール・オブ・スリーとは、話の内容を3つに区切り、最初か最後に印象的な言葉を持ってくるという方法です。とくに、強調すべき項目をはじめに持ってくる方法は「仕事がデキると思える人に多い」と、栗原さんは印象を語ります。

また、部下に対してこの方法を使う前提として、さらに上役からの指示を、自分なりの言葉で理解しておくことも肝心。話の内容を3つに区切るというのは「情報を見える化しやすい」と話す栗原さんですが、さらに「言葉だけではなく図でイメージしやすく、さらに時系列的に整理して伝えるのがポイント」とのこと。

部下と向き合う時は、事前に少しでも時間を取り、優先順位をしっかり決めてから話すようにしていきましょう。

■4:同じ話を「何回も」する

大事なことを繰り返し伝えるのは必要です。ただ、一方では「あれ、この話って前にも聞いたような……」と部下に思われてしまうと、聞いている方としては辟易してしまうのも事実。そんなときは、栗原さんのすすめる「OREO話法」を使ってみましょう。方法は簡単で、話の内容を以下の4つに区切ります。

・意見(OPINION)
・理由(REASON)
・事例(EXAMPLE)
・意見(OPINION)

例えば、心理学の本を相手にすすめたい場合、単純に「この本いいですよ」とすすめるだけではなく、以下のように会話を切り分けてみます。

・この話し方の本はお勧めです
・ドイツの有名な心理学に基づいたアドバイスが満載なんです
・有名落語家の◯◯さんの愛読書のひとつだそうです
・ですので、ぜひこの本を一度読んでみてください

大切なのは、伝えたいことだけを相手に伝えるのではなく「切り口を変えて伝える」ということ。さらに、この方法は「部下の話を引き出すときにも役立つ」と栗原さんはいいます。部下が焦りながら何かを伝えようとしている場合などに「なぜ?」「具体的に何があったの?」などをはさめば、部下の話を整理して聞いてあげることができますよ。

■5:失敗にただダメ出しをする

ダメ出しだけだと伝わらない
ダメ出しだけだと伝わらない

部下の成長を促すためには、日常の叱咤激励も必要です。ときには、失敗を指摘しなければならない場面もありますよね。どうすればうまく導いていけるのでしょうか? 実は、指摘する際には「前向きな言葉から働きかけてあげるのが大切」だと栗原さんはいいます。

栗原さんが大手学習塾チェーンで働いていた当時、塾講師を育てるために生徒役となり、模擬授業を評価するという経験があったそうです。授業中にも講師に対する意見が飛び交いますが、その際に「初めに『いい声だね』などと褒めた人は、授業もスムーズに進んでいった」と経験を振り返ります。

例えば、部下の失敗を怒るときも「今回はこういう失敗があった。こないだは頑張っていたのに……」と言われてしまえば、モチベーションも下がってしまいます。心がけるべきなのは「こないだは頑張っていたよね。今回はこんな結果になっちゃったけどさ」と、話しかける順番を変えるということ。

言葉は「人の刺激になる」と話す栗原さんですが、部下の「失敗を受け入れる」というのも必要だと教えてくれます。

以上、相手にうまく伝わらない5つのNGコミュニケーション習慣を紹介しました。会社の中では上司と部下といっても、やはりそこは人間同士。会話のちょっとしたコツを抑えて、日々の業務もさらに効率よく進めていきましょう。

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PROFILE
栗原典裕(くりはら のりひろ)さん
1963年埼玉県生まれ。青山学院大学法学部卒業後、証券会社に就職するも営業成績最下位の連続記録を更新。しかし、新聞社社長M氏との出会いにより「話し方」に目覚めて以降、一躍トップセールスマンに。その後、大手学習塾チェーンへ転職し、10年間で5,000名以上の面接や面談を行う。2007年に青山コミュニケーションセミナーを設立し、口コミで評判となり受講者7,200名以上を誇る人気講師に。雑誌コラム、新聞連載、テレビ出演など幅広く活躍中。
『稼げる人が大切にしている話し方』栗原典裕・著 明日香出版社刊
この記事の執筆者
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WRITING :
カネコシュウヘイ