フランス・パリ在住のライター&エディター安田薫子さんが、世界一おしゃれな街・パリの最新ラグジュアリーファッション情報をお届け! 第1回は2017年10月にオープンしたばかりのイヴ・サンローラン・ミュージアムをリポートします。

天才ファッション・デザイナーの功績を体感できる!

10月3日、パリの、かつてイヴ・サンローランのメゾンがあった場所にイヴ・サンローラン・ミュージアムが誕生しました。所縁の深いモロッコのマラケッシュにもふたつ目が2週間遅れの19日にオープン。比類ないクリエーションを目にして、伝説のクチュリエ、イヴ・サンローランの世界に浸ってみてはいかがでしょうか。

Musée Yves Saint Laurent Paris
Musée Yves Saint Laurent Paris

偉大な天才ファッション・デザイナー、イヴ・サンローランは、サファリ・ルック、タキシード・ルック、モンドリアン・ドレスなど、数々の傑作を生み出しファッション史上に多くの金字塔を打ち立てました。

パリにできたこのミュージアムに来ると、現代ではスタンダードになったアイテムも彼がクリエートしたのものだとわかります。今、「次の時代のスタンダードを生み出したい」と語るクリエイターやそのようなブランドを取りそろえていると公言するショップは多いですが、サンローランくらい才能がないと実現できないものだなあと改めて感じさせます。

時代が彼を後押しした面もあったのかもしれません。自分のメゾンを設立したのが1962年。'60、'70年代、フランスは反伝統で、新しいものが誕生する機運に満ちていました。若きカール・ラガーフェルド、高田賢三ら、素晴らしい才能が割拠していた、輝くような時代です。サンローランにとってはソウルメイトでありミューズ的存在だったジャック・ド・バシェもいました(カール・ラガーフェルドの恋人でもあった)。退廃的な生活を送りながら、次々と傑作を生み出していったのです。

サンローランは2002年に引退し、2008年に72歳でこの世を去りました。ちなみに、クリエイションのストレスに反して、ファッション・デザイナーは意外に長生きです。カルメン・カルヴェンは106歳の大往生、ユベール・ド・ジバンシィは現在90歳で健在ですし、ピエール・カルダンに至っては、95歳の現在でもコレクションショーを南仏で開催していますので、まさにギネスものです。公私ともにサンローランのパートナーだったピエール・ベルジェはミュージアムの完成直前に亡くなりました。私は東京でインタビューをしたことがありますが、彼は気難しいことで有名でインタビュー中に怒り出すこともあると聞いていたので、ビクビクしながら質問したのですが、意外にきちんと答えてくださったことを覚えています。ベルジェ氏は、サンローランの死後、自分の名前とサンローランの名前を冠した財団を設立。この財団がミュージアムを運営しています。

いざ、イヴ・サンローラン・ミュージアムの中へ!

ミュージアムは、まずサンローランのスタイルを説明するフロアからスタート。

タキシード・ルック。好評を博し、発展系としてドレスも登場しました。
タキシード・ルック。好評を博し、発展系としてドレスも登場しました。
サファリ・ルック。サンローランのミューズだったベティ・カトルーが着用した写真が有名ですね。
サファリ・ルック。サンローランのミューズだったベティ・カトルーが着用した写真が有名ですね。
サンローランは、ソワレのドレスを中世の服など、ファッションの歴史から着想したそうです。
サンローランは、ソワレのドレスを中世の服など、ファッションの歴史から着想したそうです。
ヴァン・ゴッホの「ひまわり」から着想。
ヴァン・ゴッホの「ひまわり」から着想。
ウエディングドレス。ポエティックですが、花嫁がこの装いなら、花婿はどんな服を着ればいいのか…。
ウエディングドレス。ポエティックですが、花嫁がこの装いなら、花婿はどんな服を着ればいいのか…。

 

アーカイブ・ピース、舞台衣装のデザイン画、アクセサリーを展示し、貴重なプライベート写真も混じえながら彼の生涯をたどるフィルムを上映。製作の裏側も紹介しているのが興味深いところ。サンローランの下で働いていた職人たちが「彼はこのように仕事をした」と“舞台裏”を証言しているビデオが流されています。サンローランは流れるような簡潔な線でデザイン画を描いていましたが、一見抽象的に見えるそれが実は具体的でかつ緻密な指示書だったことがわかります。

 

オートクチュール製作の裏側を元スタッフが語るビデオを上映。
オートクチュール製作の裏側を元スタッフが語るビデオを上映。
デザイン画に使用する生地を貼り付けて職人たちに指示していました。
デザイン画に使用する生地を貼り付けて職人たちに指示していました。
中央のピンクの羽つきドレスは、ジジ・ジャンメールのためにデザインしたもの。
中央のピンクの羽つきドレスは、ジジ・ジャンメールのためにデザインしたもの。

 

圧巻なのは彼が実際に仕事をしていたアトリエ。当時の様子が再現されていて、「ああ、ここからあの名作が生まれたのね」と思うと感動で震えてしまいます。あまりの感動で、ミュージアムを出てから、ヴィンテージショップにサンローラン自身がデザインしていたころのコレクションを買いに行く衝動に駆られてしまいました(ほとんどプレタポルテの「リヴ・ゴーシュ」ですが、まだギリギリ見つかります)。

 

サンローランがデザインしたデスクの後ろには、画家 ベルナール・ビュフェが描いたサンローランの肖像画が。
サンローランがデザインしたデスクの後ろには、画家 ベルナール・ビュフェが描いたサンローランの肖像画が。
サファリ・ルックの試作がトルソーに。
サファリ・ルックの試作がトルソーに。
アトリエには色々な仕事道具が置かれていますが、仕事であっても美しさを感じますね。
アトリエには色々な仕事道具が置かれていますが、仕事であっても美しさを感じますね。

パリを訪れたら、マスト・ゴーな新アドレスが誕生しました。訪れた際にはぜひ立ち寄ってみてください。

問い合わせ先

  • Musée Yves Saint Laurent Paris 
  • 開館時間/11 :00〜18 :00(火〜木、土、日) 最終入場時間 17:15、
    11:00〜21:00(金) 最終入場時間 20:15 ※12/24、12/31は16:30まで。
    休館日/月曜、1/1、5/1、12/25
    料金/€10
    TEL:+33(0)1-44-31-64-00
  • 住所/5 avenue Marceau 75116 Paris

この記事の執筆者
某女性誌編集者を経て2003年に渡仏。東京とパリを行き来しながら、食、旅、デザイン、モード、ビューティなどの広い分野を手掛ける。趣味は“料理”と“健康”と“ワイン”。2013年南仏プロヴァンスのシャンブル・ドットのインテリアと暮らし方を取り上げた『憧れのプロヴァンス流インテリアスタイル』(講談社刊)の著者として、2016年から年1回、英語版東京シティガイドブック『Tokyo Now』(igrecca inc.刊)を主幹として上梓。