つねに成長と成功を信じ、高い目標を掲げて頑張ってきた私たちに、今、価値観の大転換が求められています。未来が見通せない今、それでもしなやかに、そして美しく生きるために必要なものとはいったいどんなことでしょうか。雑誌『Precious』3月号では特集「今こそ、「曖昧力」を身につけませんか?」を展開中。「曖昧ななかで生き抜く力」=「ネガティブ・ケイパビリティ」に注目し、新時代を歩くための心構えを解説しています。
本記事ではモデル、女優・知花くららさんにお話を伺いました。生き方、働き方、暮らし方、考え方…すべてを見直す段階にある今、識者たちはどんなことを考えているのでしょうか。さまざまな活動が制限され、視野が狭くなりがちだからこそ知っておきたい「こんな時代の歩き方」を伝授してもらいました。
明日がどうなるかなんて、だれも決められないだから先を急がなくても大丈夫なのです
2019年の春、私はある芸術大学に入学しました。ずっと憧れていた建築を学ぶためです。慶良間諸島にある祖父の生家を受け継ぐことになったのですが、国立公園に指定されている島ですから、景観保全からも勝手に建て直すことは難しい。
そこで建築士さん、設計士さんに相談するうち、「興味があるなら学んでみたら」と言われ、一大決心をしたのです。想像以上に大変で、「しまった」と思うこともしばしば(笑)。でも知識が深まったらあんなことやこんなことができると思うと、楽しくてしかたがないんです。コロナ禍になる前に始めたことですが、この時間が今の私を救ってくれていることは確か。学びは、未来の具体的な楽しみを想像させてくれるのです。
世界的なパンデミックにより「何が正解なのか」という問いは、ますます難しくなっていると感じます。パンデミックがなかったとして、それが正解かというと疑問が湧きます。これを機に踏ん張ることが正解なのかもしれないし、それは100人いれば100通りの考え方があり、共通の答えはないんですよね。
振り返ると、私の人生は先が見えないことだらけです。特にミス・ユニバースに選ばれ、ひと晩で運命が変わる経験をして以来、想像もしていなかったことが起こるのが人生だから、先を急いでもしかたがない。10年後は何をしているかなんて、自分はもちろん、だれも決めることはできないと実感するようになったのです。
WFP国連世界食糧計画に関わるようになり、途上国を旅したのも大きいですね。薪で炊いたバナナの水煮や、それこそ虫を口にしたこともありました。東京のような都会で暮らしていると、勝手なルールで自分を縛ってしまいがちです。
でもこの地球上ではいろんな人々がそれぞれの文化と価値観で暮らしている。そんなことに思いを馳せると、「あんな人もいてこんな暮らしもあるのだから、生き方に正解不正解はない。まぁ、どうにかなるよね」と気持ちが楽になるのです。途上国のお父さんやお母さん、そして物質的には恵まれていなくても懸命に、はつらつと生きる子供たち…彼ら彼女らの笑顔、そしてともに過ごした旅の景色が「正解を求めないおおらかな日々」へ導いてくれている気がします。
私がたしなんでいる短歌は、映画のワンシーンを詠むような感覚で、一瞬を切り取って言葉に落とし込む詩歌。今この瞬間、自分が何を考えているのかを見つめるのに適しています。あとから思えば不安な日々でも、そのフリーズドライした一瞬一瞬の自分は、不安とは別の心もちで生きていたりするもの。その作業を積み重ねると、過剰に未来を心配することが減るのですよね。
それでも先行き不透明な今、『Because I am a Girl―わたしは女の子だから』(英治出版)という本を手に取ってみてはいかがでしょう。読むたび「今を全力で生きているか?」を自らに問うことになる良書です。正解じゃなくていい。先を急ぐ必要もない。なぜなら選択肢がある人生は、それだけで素晴らしいものだから。今こそそんな視点で、自分と世界を眺めてみることをおすすめします。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- BY :
- 『Precious3月号』小学館、2021年
- ILLUSTRATION :
- 佐伯ゆう子
- EDIT&WRITING :
- 本庄真穂、池永裕子(Precious)