人は誰しも、何かに対して「嫌い」という感情を持っているもの。脳科学者・中野信子さんによると、何かを「嫌う」時、そこには非常に大きなエネルギーが生まれているのだそう。
そのエネルギー、せっかくなら自分のために使いたい!第1回、第2回、第3回、第4回を経て今回が最終回。これまでさまざまな角度から、「嫌い」という感情を抱いた時の対処法を伺いました。
今回はコロナ禍の中、SNSで増幅される「嫌い」の感情に囚われないために、リアルに使えるテクニックを中野さんに伺います。
コロナ禍では、「嫌い」の骨格をしっかり見定めることが必要
——前回、ちらりとオリンピックのお話が出ましたが、最近特に人種やジェンダーに関する差別問題が話題になっているように感じます。
確かに現在のコロナ禍の中で、「世代間の断絶」や「差別意識」が起きているという意見がありますが、これは今に限った話ではないんです。異質なものを排除したいという感情が引き起こす「集団バイアス」は、人間社会に常に起こっている圧力です。
集団バイアスの恐ろしいところは、根拠なく「自分たちの方が他の集団よりも優秀だ。他は劣等な人たちだ」と思うようになること。自己評価が低い時ほど、こうしたバイアスは強くなります。自己評価の低さを、自分が所属する集団の評価を高めることで解消しようとするんですね。
そして自己評価が低くなる時というのは、わかりやすい例で言うと所得が低くなった時。歴史的に見て、コロナのような感染症が拡大し、社会不安に直面した時にも同じような現象が起こりやすくなります。
——なるほど。なるべく「集団バイアス」に囚われないためには、どのようにしたらよいのでしょうか。
そういう時こそ、「嫌い」の感情をコントロールすることが大切。「あいつらが嫌いだ」「あいつらが妬ましい」と「嫌い」の感情を誰かに向けるのではなく、「自分が嫌いなのは、お金のない今の状態だ」「その原因は他人ではなく、ウイルスだ」と、嫌いの骨格をしっかり見定めてください。
妬まれたら自分の情報を開示!田中みな実さんに学ぶ、妬み回避テク
——とはいえ、例えばSNSで素敵な生活をしている人を見かけたりすると、不公平感を感じてしまったり、妬んだりしてしまうことがあって…。そういう場合はどうしたらよいのでしょう?
不公平感を感じてしまう時、情報不足が大きな原因になっていることも多いですよ。
自分が持っていないものを相手だけが持っていると感じていても、実際には相手の状況についてそれほどよくわかっていないことが多いものです。自分と誰かを比べたときに、その誰かの情報よりも、自分に関する情報量が多いのは当然ですから。
——確かに…当たり前の事実ですが、言われるまでは気付けませんでした。逆に自分が妬まれてしまった場合の対処法はありますか?
妬みに限りませんが、情報不足によって相手の「嫌い」の感情が起きているのであれば、情報を交換することは効果的です。つまり、自分が誰かに妬まれていると思ったら、積極的に自分の情報を開示すればいいのです。
これを上手に行ったのが、フリーアナウンサーの田中みな実さん。フリー転向後「あざとい」と揶揄する人もいましたが、彼女は自分の苦労や失敗談を開示することによって好感度を高めることに成功しました。
辛い思いをしている人、かわいそうな人というイメージを与えることで、好かれる対象になったんです。これはとても賢い方法。
——なんだか私たちにも真似できそうなテクニックですね。この田中さん方式を使う場合、何か気をつけることはありますか?
共感を集められるように振る舞うのは大事だと思いますね。同じような手法を取って失敗した方もいらっしゃるんですよ。その人は「あなたたちと私は違う、私は特別でしょ」ということを同時に言ってしまったんです。でも、みんな自分自身のことを特別に思っていますから(笑)、共感は得られませんよね。
——ありがとうございました。最後に、『「嫌いっ!」の運用』をどういう人に手に取っていただきたいか伺えますでしょうか。
これまで「嫌い」という感情を持ってはいけないと思っていた方に、ぜひ読んでほしいですね。特に、私と同じPrecious世代の女性には、家族や子供など周囲の人に対して「嫌い」と思ってはいけない、許されない、と自分を律している方が多いのではないでしょうか。でも、嫌いなものは嫌いじゃないですか(笑)。
自分を律する強さがあるのなら、「嫌い」のエネルギーもうまく生かして、自分のために使ってほしいと思います。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部