天然繊維、絹(きぬ)の成り立ち
ラグジュアリーな天然素材の代表格として、古代より珍重されてきたシルク。その上品な光沢や、人肌との相性のよさといった魅力の数々が、近年改めて見直されつつあります。
Q1.そもそも「絹」とはどんな素材?
蚕蛾の幼虫である蚕の繭からとった天然繊維。その糸は「フィブロイン」と、その周りを取り囲む「セリシン」という、ふたつのタンパク質成分からつくられています。その特徴は類い稀な光沢感と、軽さ、なめらかな肌触り。古代から世界中で親しまれ、その地域ならではの生地へと生まれ変わりました。
Q2.その歴史は?
絹糸は紀元前3000〜6000年頃の中国で生まれたといいます。早くからヨーロッパや西域諸国の上流階級を虜にしましたが、その製法は門外不出とされていました。すべて中国からの輸入に頼るほかなかったため、その交易路はのちにシルクロードと呼ばれることになります。そんなシルクの製法がヨーロッパに伝わったのは、6世紀ごろ。イタリア各地やリヨンを中心に生産が始まり、その土地ならではの魅力的な絹織物が生まれていきました。日本における養蚕は弥生時代ごろからはじまり、明治時代に著しく発展。わが国の近代化を支える一大貿易産業となりました。20世紀以降は化学繊維に取って代わられ、その生産量は減少しています。
Q3.「絹」はどこでつくられるの?
現在は中国、インド、ブラジルの上位3か国で全世界の9割ほどの絹糸を生産している状況。しかしタイやウズベキスタン、日本でも養蚕は続けられており、その土地の特性を生かした高級品として流通しています。リヨンを中心としたヨーロッパでは、現在ほぼ養蚕業は途絶えていますが、織物やプリントといった技術は伝承されています。
Q4.どうやって糸になるの?
桑の葉を食べ成長した蚕は、糸を吐き繭をつくります。これを収穫後お湯で煮た後、やわらかくなった糸を巻き取ったものが「生糸」。さらに生糸を覆っている「セリシン」というタンパク質を除去する「精練」という作業を経て、極細で光沢感を備えた「絹糸」が完成します。
Q5.その魅力は?
繊維の断面が三角形になっているため、光をプリズムのように反射して生まれる光沢感。鮮やかな色に染まること。繊維がとても細かいため、肌触りがよいこと。人間の肌の成分に近いタンパク質でできているため、肌に優しいこと。特殊な繊維構造のため、通気性と吸湿性がよいこと。熱伝導率が低いため、夏は涼しく、冬は暖かいこと。静電気を帯電しないこと…。このように列挙すると、シルクという繊維の素晴しさは一目瞭然。ラグジュアリーな洋服のみならず、アンダーウエアや寝具などにも向いています。
Q6.ウイークポイントは?
とにかく覚えておきたいのは、摩擦に弱いこと。摩擦を受けることでささくれたシルク繊維は光を乱反射してしまい、白っぽく退色して見えてしまいます。この白化現象は湿気が加わるとさらに進行。ほかには水ジミが残りやすいこと、直射日光で黄変しやすいこと、タンパク質でできているため虫に食われやすいことが挙げられます。湿った状態での摩擦が起こりやすい、ジャケットやシャツの脇部分にはご注意くださいね。
Q7.ケアはどうすればよい?
基本的にはドライクリーニングを。洗濯する場合は中性洗剤を使い、なるべく摩擦がおきないようにぬるま湯で手洗いすること。干すときは直射日光にさらさず陰干しで。アイロンをかけるときは当て布を使い、中温で行うこと。日常の保管は湿気の少ない場所で、防虫剤などを使うように。こう書き連ねると面倒くさそうですが、シルクは汗のにおいがつきにくい繊維なので、シミができない限りマメに洗濯やクリーニングをしなくても大丈夫です。
- クレジット :
- 撮影/林 敏一郎 文/山下英介(Men's Precious)