【ケーススタディ】チハルさんとノボルさん夫婦は、ひとり娘のモモちゃんの誕生に合わせて、10年前に東京・世田谷区に4LDK(88㎡)にマンションを購入しました。物件価格は7000万円。頭金を1000万円支払い、残りの6000万円は銀行で住宅ローンを組みました。
【前編:「10年前の住宅ローン」、見直すなら最終チャンスは今】
当時は「もうこれ以上、金利が下がることはないだろう」と思っていたため、金利が10年間変わらない住宅ローンを組んだのですが、10年たっても思ったほど元金が減っていないことに焦りを感じています。
「底」だと思っていたローン金利は、蓋を開けてみれば、その予測は大外れ。国の低金利政策と銀行各社の競争で、10年前に比べて大きく引き下げられ、今借りるほうが有利になっています。
小学校4年生(10歳)になったモモちゃんの中学受験に向けた教育費の負担が重くなってきたこともあり、チハルさん夫婦は住宅ローンの見直しを検討中です。ファイナンシャル・プランナーの竹下さくらさんのアドバイスで、気になっていた住宅ローン控除も、一定条件(※)を満たせば引き続き受けられることが分かったので、具体的な借り換えプランを考えることに。
チハルさんとノボルさんは、ともに40歳。これから本格的に必要になるモモちゃん(10歳)の教育費も心配ですが、そろそろ自分たちの老後資金の準備も始めなければいけません。住宅ローンの返済総額を抑えて、貯蓄を増やせる家計にするためには、どのように見直せばいいのでしょうか。
10年前のローンを払い続けると、総返済額は約9000万円に!
まず、チハルさん夫婦が現在借りている住宅ローンの内容をおさらいしておきましょう。
●チハルさん夫婦が10年前に借りた住宅ローンの内容
・借入額:6000万円
・借入期間:35年
・金利タイプ:10年固定(元利均等)
・当初10年間の金利:2.5%
・毎月返済額:21万4000円(ボーナス返済なし)
・2017年11月時点の残債:4781万円
・これまでの返済額:2568万円
・今後25年間の返済額:6440万9000円(金利変動がないと仮定した場合)
・35年間の返済総額:9008万9000円(金利変動がないと仮定した場合)
この10年間に銀行に支払ったお金の総額は2568万円になりますが、そのうち半分は利息の返済に充てられているので、元金部分に充当されたのは1219万円。借入金はあと4781万円残っています。もしもこのまま見直しをしないで、金利もずっと2.5%で今後25年間返し続けたと仮定すると、その返済額は6440万9000円。35年間の返済総額は、借入金の約1.4倍の9008万9000円に及びます。
「『家を買おうかな』と思ったときに読む本」(日本経済新聞出版社)の著者で、住宅ローンについて詳しいファイナンシャル・プランナーの竹下さくらさんは、ローン借り換えについて次のようにアドバイスします。
「10年前に比べると金利が大幅に下がっているので、今は住宅ローンの借り換えのチャンスです。でも、収入や貯蓄の額によって返済能力は異なりますし、家族のライフイベントの時期、ローンに対する考え方によっても選ぶべき金利タイプや返済タイプは変わってきます。見直す際は金利の安さだけにとらわれず、慎重に選ぶようにしましょう」(竹下さん)
住宅ローンは、あくまでも借金。きちんと返済していけるように計画しないと、家計破綻の原因にもなります。自分にあった住宅ローンを選ぶためにも、まずは金利タイプや返済タイプの違いを確認しておきましょう。
全期間固定金利型、固定金利選択型、変動金利型。3つの金利タイプからどれを選ぶ?
銀行の住宅ローンの金利タイプは、おもに「全期間固定金利型」「固定金利選択型」「変動金利型」の3つがあります。
●全期間固定金利型
返済期間中、借入当初に設定した金利がずっと続くタイプ。「住宅金融支援機構」のフラット35など、30年、35年といった超長期の住宅ローンが代表的な商品。毎月返済額も期間中ずっと同じなので、将来設計が立てやすいというメリットがあります。返済期間中に市中金利が上昇しても、アップした分は融資先の金融機関が負担してくれますが、その他のタイプよりも借り入れ当初の金利は高め。「金利がずっと同じ」という安心感はあるものの、今のように低金利が続くと、その他のタイプよりも金利負担は重くなります。
●固定金利選択型
2年、3年、5年、7年、10年など一定期間だけ、借入当初の金利を固定するタイプ。最初に決めた固定期間が終わると、その時点の残債に対して、その時点の金利が適用されます。固定期間終了明けに選ぶのは、それまでと期間の異なる固定金利選択型や、変動金利型に変更してもよいです。固定期間が長いものほど、適用金利は高くなります。
●変動金利型
6カ月ごとに金利が見直されるタイプ。全期間固定金利型とは逆で、金利の変動リスクを金融機関ではなく借り入れしている人が負うため、他のタイプに比べると低い金利が設定されています。一般的な元利均等返済の場合、金利は半年ごとに変わりますが、5年間は毎月返済額自体の変更はありません。5年たつと毎月返済額が再計算されますが、金利が上昇しても「次の5年間は、前の5年間の1.25倍までに抑える」というルールがあります。
「今、人気があるのは変動金利型(元利均等返済)で、超低金利の恩恵を上手に活用して住宅ローンの返済総額を抑えている人もいます。ただし、市場金利の変化をもろに受けるので、金利が急激に上昇すると、毎月返済額に占める利息の割合が増えて、なかなか元金が減っていかないといった事態が起こらないとも限りません。実際、バブル期には金利が急上昇して、元金の返済がストップしてしまったというケースもあるのです」
人気の変動金利型を利用するときは、金利の上昇リスクに注意しよう
急激に金利が上昇した場合、変動金利型の住宅ローンの返済内訳はどのように変わっていくのでしょうか。毎月返済額が10万円の例でイメージしてみましょう。
毎月返済額の当初の内訳が、【元金6万円・利息4万円】だったとすると、1年で【6万円×12か月=72万円】の元金が減っていくはずです。ところが、金利が上昇すると、半年ごとに利息が5万円、6万円、7万円…と増えていき、毎月返済額に占める利息の割合がどんどん高くなっていきます(※実際には、1万円刻みで変わるわけではない)。
仮に【元金2万円・利息8万円】になってしまうと、銀行に年間120万円支払っても、元金は【2万円×12カ月=24万円】しか減りません。
さらに、金利が急上昇して利息が11万円、12万円…と、毎月返済額の10万円を超える可能性もゼロではありません。毎月返済額を超えた分は「未払利息」となり、予期しなかった負担となることもあります。
「未払利息の解消方法は金融機関によって異なりますが、毎月返済額で未払利息を先に解消する場合は、そもそもの元金と利息が減らないので返済期間が伸びる可能性があります。返済期間の最後にまとめて未払利息を一括返済するといった方法もありますが、いずれも想定外の出費になるはずです」(竹下さん)
未払利息が発生しないまでも、元金の減りが鈍くなってしまうと、その分だけ次の5年間は毎月返済額も増えていきます。ただし、毎月返済額の増額は、その前の5年間の1.25倍までというルールがあるので、この例だと12.5万円にアップします。これが5年ごとに繰り返されるので、当初、想定していたよりもはるかに負担の大きいローンになる可能性もあります。
人気の変動金利型には、こうしたリスクも内在しているため、利用するかどうかは返済能力と相談しながら慎重に判断する必要がありそうです。竹下さんは、「収入や手持ちの資産に余裕がなく、万一の金利上昇のリスクを吸収できない可能性のある人は利用を控えるべき」と注意を促します。
ただし、金利の専門家の多くは、日銀の金融政策によって今の低金利環境はしばらく続くと予測しています。そこに銀行の金利引き下げ競争が加わっているので、当面は、バブル期のような急激な金利上昇がおこる可能性はなさそうです。
「この低金利環境を生かし、今のうちに変動金利型を利用して住宅ローンの残債を減らしておくのは、家計防衛の上では有効な手段です。共働きで安定して高収入が見込めるチハルさんご夫婦は、変動金利型の住宅ローンに借り換えてもよいのではないでしょうか」
「元”利”均等返済」と「元”金”均等返済」、総返済額はどっちがオトク?
借り換えで総返済額を抑えるために、もうひとつ知っておきたいのが、住宅ローンの2つの返済タイプの違いです。
モデルルームや銀行で紹介されることの多い一般的な住宅ローンは「元利均等返済」ですが、このほかに「元金均等返済」という返済方法もあり、返済期間が同じでも両者の返済総額は大きく変わります。
●元利均等返済
毎月ずっと同じ金額を返済していく方法。返済額は一定ですが、その内訳である元金と利息の割合が変化していきます。毎月の返済額が同じなのでわかりやすく、返済計画を立てやすいのがメリット。ただし、返済当初は返済額に占める利息の割合が高いため、借り入れた元金の減りが遅く、返済期間が同じ元金均等返済に比べると返済総額は多くなります。
●元金均等返済
毎月支払う返済額のうち、元金部分を一定額にする返済方法。残っている借入額に合わせて毎月支払う利息が上乗せされるので、借入当初は利息額も大きいですが、返済が進むと減っていく仕組み。その結果、毎月返済額自体も徐々に減っていきます。返済開始当初の毎月返済額の負担は大きいものの、元利均等返済に比べると元金の減りが早く、総返済額を抑えられます。
ローンが割安かどうかは、最終的な総返済額で判断します。借入額、借入期間、金利が同じでも、前者の元利均等返済ではなく、後者の元金均等返済にすると総返済額も少なくなくてすみます。当初の毎月返済額は高くなりますが、「子どもが大学生になる頃の毎月返済額を少なくしたい」「今は夫婦ともに会社員だが、10年後に妻はフリーランスになる予定」など、将来の負担を抑えておきたいという人にはお勧めの返済方法です。
ただし、一般に銀行で提示されるプランは元利均等返済で、元金均等返済の取り扱いがない金融機関もあります。
「通常、住宅ローンは、利用する銀行や金利タイプを決めたあとで、元利均等返済か元金均等返済かのどちらにするかを決めていきます。契約が最終段階まできて、その銀行に元金均等返済の取り扱いがないとわかると、一からやり直しになってしまいます。元金均等返済を希望する場合は、最初に取り扱っているかどうかを確認しておくといいでしょう」(竹下さん)
低金利環境の恩恵によって毎月の返済額も、返済総額も大幅減
現在の金利環境、一家の収入などを総合的に判断した結果、チハルさん夫婦は、10年固定の住宅ローンから別の銀行の変動金利型に借り換えることに決定。モモちゃんが大学生になると教育費も本格的に必要になるので、その頃の返済額を抑えるために、元金均等返済にすることに。その結果、返済利息は大幅に軽減できることになりました。
●チハルさん夫婦が借り換えた住宅ローンの内容
・借入額:4781万円
・借入期間:25年
・金利タイプ:変動金利型(元金均等返済)
・当初の金利:0.625%
・毎月返済額:18万4000円(ボーナス返済なし)
・今後25年間の返済額:5155万8000円(現在の金利が続くと仮定した場合)
・35年間の返済総額:7723万8000円(現在の金利が続くと仮定した場合)
借り換えしたことで、毎月返済額はこれまでの21万4000円から、18万4000円になり、3万円減りました。このままの金利が25年間続くと仮定すると、今後25年間の返済額は5155万8000円。10年固定のローンを払い続けるより、約1250万円も返済額を抑えられそうです。
ただし、ここで注意点を。住宅ローンを借り換える際には、融資事務手数料、保証料(ない場合もある)、登録免許税、印紙代、司法書士の報酬などの諸費用が、ローン残高に応じて50万~80万円かかります。そのため、ローン残高が少なかったり、古いローンと新しいローンの金利差があまりない場合は、借り換えても総返済額に差が出ないこともあります。
でも、チハルさんの場合は、ローン残高も4000万円以上で、金利差もあるので、諸費用を支払っても利息の軽減効果はあまりあるものがあります。
その結果、毎月返済額が減額されて今必要な教育費にお金を回せるようになるだけではなく、返済総額が大幅に減ったぶんは、老後資金の上乗せができます。
「とはいえ、今後25年の間には金利の上昇局面に遭遇することもあるかもしれません。金利の上昇リスクを吸収できるようにするためには、住宅ローンの借り換えとともに家計も見直して貯蓄額を増やし、住宅ローン控除が終わったら繰上げ返済でさらなる利息の軽減を図ってください」(竹下さん)
チハルさん夫婦は、超低金利の環境を生かして、変動金利型への借り換えで大幅に返済総額を抑えることができそうです。でも、低金利の恩恵は変動金利型はもちろんのこと、返済期間が25年、35年などの超長期ローンにも表れています。
たとえば、みずほ銀行は、25年固定の金利が1.16%(10月1日現在)。これにチハルさんが借り変えた場合、今後25年の返済総額は約5642万円となり、今の10年固定を支払い続けるより、800万円も返済総額を減額できます。
「収入や家族のライフイベントとの関係で超低金利の変動金利型の利用が難しくても、長期固定の住宅ローンへの見直しでも今なら利息の軽減効果が期待できます。この低金利環境を上手に使ってローン負担は極力減らし、浮いたお金をこれからの暮らしに活用してほしいと思います」(竹下さん)
『教育費をどうしようかな』と思ったときにまず読む本
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- 早川幸子さん フリーランスライター