『Precious』10月号では、「世界で、日本で、『サステナブル・シーフード』から考える食の未来」と題し、限りある水産資源を持続可能にするための世界中の取り組みについて特集しています。

今回はその中から、ジャーナリスト・佐々木ひろこさんへのインタビューと「サステナブル・シーフード」を知る5つのキーワードをご紹介。

魚の未来のために今、私たちにができることについて、ぜひ一緒に考えてみませんか。

フリージャーナリストの佐々木ひろこさん
佐々木 ひろこさん
フリージャーナリスト
(ささき ひろこ)日本で国際関係論、アメリカでジャーナリズムと調理学、香港で文化人類学を学んだあと、フリージャーナリストに転向。2017年、一般社団法人「シェフス フォー ザ ブルー」(https://chefsfortheblue.jp/)を一流料理人たちと立ち上げる。

◇日本の漁業の未来のために70年ぶりに漁業法が改正

水揚げ直後の「白エビ」
新湊の漁師たちの誇り、「白エビ」。水揚げ直後は身が透き通っている。

マグロがとれない、ウナギは絶滅寸前…などのニュースが耳に入ってきても、実際に買い物に行けば魚売り場に魚がたくさん並んでいたりして。「本当に日本の魚は危機的状況にあるんですか?」と素朴な疑問を佐々木さんにぶつけると、「危機的状況です」と即答が。

「知らなかった、と思いますよね? 私も数年前までそうでした。日本の水産資源が長期的に減少している事実は大手メディアでも取り上げられることが少なかったので」とのこと。

日本の総漁獲高は1984(昭和59)年をピークに減り続け、過去30年で3分の1まで減少。

「自国でとれないぶんを輸入におきかえて、この危機をしのいでいるのが現状です。魚のパッケージに記載された原産地を見れば、外国産が多いことに気づくはずです」

私たちにできることの最初の一歩は、「魚を取り巻く日本の現実を直視すること」と提案する佐々木さん。

「複数の要因はあるものの、こうなってしまった最大の原因は、魚のとりすぎとされています。ようやく2018年に漁業法が改正され、2020年12月に発効。未来の漁業を守るための取り組みは、これから本格化されるでしょう」(佐々木さん)

先に日本の海の現状を知った佐々木さんは、即行動。2017年、水産資源の課題に料理人と取り組む「シェフス フォー ザ ブルー」を立ち上げました。

◇生産者と消費者の手をつなぐのが料理人の役割

「料理人に声をかけたのは、社会に対する発信力があり、かつ消費者の身近な存在であるからです。一般の人がまだ口にしていないエコ認証ラベルの付いた水産物未利用魚のおいしい食べ方を示すことで、『こんな魚もいいよね』と思ってもらえますから」

活動を始めて丸4年。所属する料理人たちと海の勉強を進めるなかで、漁業の現場に足を運ぶことも、新型コロナ感染症が蔓延する以前は、積極的に行っていたことだそう。

「私たちも農業の現場は日頃から目にする機会があっても、漁業はほとんどない。それは料理人にとっても同じです。若い漁師さんたちのなかには特に危機意識が強く、サステナブルな漁業を始めている方も多くいます。同じ思いを抱く料理人はその姿に感銘を受けて、自分の店で魚の取り扱いをするように。このつながりがもっと増えることを期待しています」。

現実的には国産のサステナブルな魚を一定量確保するのはまだ難しいとか。それでも、今からできることがあるはず。

そうして、星付きシェフが提案するサステナブル・シーフードの店という新形態で、「シンシアブルー」や「コンヴィヴィオ」、「平ちゃん」といった認証魚を扱うレストラン(CoC認証レストラン)の展開も始まりました。

◇海や魚の未来について身近な人と話してみて

「認証魚を扱うレストランでもそうでなくても、シェフス フォー ザ ブルーのメンバーレストランで食事をする機会があるならぜひ、料理人に魚のことについて会話をしてもらいたいし、疑問があったら聞いてもらいたい。喜んでお話ししてくれると思います」と佐々木さん。

「そこで得たことを、家族や友人にも話してみてください。スーパーで水産物のエコ認証ラベルを見つけたら、手に取るだけでなく、買ってみて。皆さんの声やアクションが集まれば、水産や流通の現場も変わっていくはずです」

近い将来、一部の魚に漁獲規制が入り、私たちの口に入りにくい現状がくることも十分ありえると佐々木さんは予測します。

「そこで皆さんが文句を言うのは、控えめにしましょう(笑)。料理店でも、提供する魚に制限が出てくるかもしれません。それを判断した料理人の姿勢に共感、応援してもらえたらうれしいですね」


◇「サステナブル・シーフード」を知るキーワード5

佐々木さんのインタビューの中にも登場した「サステナブル・シーフード」を知る5つのキーワードについて、詳しくご紹介。

限りある水産資源を持続可能にするために、魚を食べるための選択肢に何があるのか。一緒に考えてみましょう。

■1:Eco Labels|水産物のエコ認証ラベル

イオントップバリュの「手巻おにぎりツナマヨネーズ(MSC認証)」と「アトランティックサーモン (ASC認証)」
 

総合スーパー「イオン」ではいち早くサステナブル・シーフードを扱ってきた。自社ブランド「トップバリュ」ではMSC・ASCラベルの付いた商品が豊富に揃う。左から「手巻おにぎりツナマヨネーズ(MSC認証)」¥116、「アトランティックサーモン (ASC認証)」¥321。(https://www.topvalu.net/


サステナブル・シーフードを選ぶ目印のひとつ、水産物のエコ認証ラベル。

MSC「海のエコラベル」は天然水産物(水産資源と環境に配慮した漁業でとられたもの)に、ASC認証ラベルは養殖水産物(環境負荷をかけずに地域社会に配慮して養殖されたもの)に付けられています。

■2:Restaurants|CoC認証レストラン

東京・日本橋の「平ちゃん」で提供されるサステイナブル・シーフードを使ったおでん。
 

「平ちゃん」で提供されるサステナブル・シーフードを使ったおでん。北海道産のMSC認証ホタテのしんじょうや未利用魚を使ったすり身など。


MSC・ASC認証魚の取り扱いにはCoC認証(水産物の管理とトレーサビリティの認証)取得が必要で、外食業でこれを掲げる店は貴重。

「フレンチ『ラペ』の松本一平シェフの新店『平ちゃん』は、サステナブル・シーフードを使った希少なおでんが味わえます」(佐々木さん)

<店舗情報>

  • 平ちゃん 
    TEL:050-3623-1723
    営業時間:11:30~15:00(13:00 L.O.)、18:00~22:00(20:30 L.O.) 
    定休日:木曜日
    住所:東京都中央区日本橋室町1-12-10 B1F 

■3:Sustainable Fishing|持続可能な漁業

海光物産代表・大野和彦さん
海光物産代表・大野和彦さん

「スズキ漁の伝統がある東京湾で資源管理型漁業への転換を目ざす漁師、大野和彦さんは料理人からの支持も厚い。富山県新湊の白エビ漁の漁師グループ『富山湾しろえび倶楽部』は研究所との連携や、みんなで漁をして売上も分け合う手法が高評価」(佐々木さん)

一尾ずつ活〆・神経抜きを行ったスズキ
 

船上でタブレット端末を使い、漁獲記録などの情報を共有開示。一尾ずつ活〆・神経抜きを行うスズキ(https://kaikobussan.buyshop.jp/)の味はトップシェフのお墨付き。

しろえび漁を見学した「シェフス フォー ザ ブルー」のメンバー。「富山湾しろえび倶楽部」は今春「サステナアワード2020大賞」を受賞。
 

しろえび漁を見学した「シェフス フォー ザ ブルー」のメンバー。「富山湾しろえび倶楽部」は今春「サステナアワード2020大賞」を受賞。

■4:Trash fish|未利用魚

五島の未利用魚を使った地魚100%の『五島のフィッシュハム』
 

五島の未利用魚を使った地魚100%の『五島のフィッシュハム』。一部のマルエツ、浜口水産で販売中。 (https://tsite.jp/r/tcardsocial/goto/


ロットがそろわない、鮮度落ちが速いなどの理由で廃棄同然の扱いを受けてきた魚=未利用魚。この有効利用は漁業従事者に収益をもたらす点でも大切です。

「駆除対象とされてきた五島列島の魚を加工、大手スーパーで販売する試みも好評です」(佐々木さん)

■5:Chefs for the Blue|シェフス フォー ザ ブルー

辻大輔シェフが東京・千駄ケ谷に構えるイタリアレストラン「コンヴィヴィオ」の「コンヴィ特製牡蠣ラザーニャ」
 

辻大輔シェフが東京・千駄ケ谷に構えるイタリアレストラン「コンヴィヴィオ」。岡山県虫明産のMSC認証カキが入る「コンヴィ特製牡蠣ラザーニャ」はHP(http://www.convivio.jp)から購入可。


国内トップシェフ30人と共に歩む佐々木さんの活動団体です。メンバーシェフ経営のCoC認証を取得したレストランも「シンシアブルー」「コンヴィヴィオ」「平ちゃん」と3軒に増加。

「2021年9月から京都チームも立ち上がります。新しい展開にご期待ください」(佐々木さん)

※掲載した商品の価格は、すべて税込みです。

PHOTO :
sono(bean)
EDIT&WRITING :
藤田 優、喜多容子(Precious)