寒いシーズンを快適に過ごすために欠かせない「カシミヤ」のニット。そのやわらかさに包まれれば心までほぐれ、暖かな気分になります。なぜ、カシミヤという素材は大人を惹きつけるのでしょうか?
カシミヤは、産地や品種、採毛期間も限られた稀少性にあふれる繊維の宝石。その魅力を知るべく、軽やかさ、暖かさの秘密や、最高ランクに値する「極上カシミヤ」の条件など、最愛の逸品と出合うために知っておきたい奥深いカシミヤの世界にご案内します。きっと知れば知るほど、カシミヤの虜になってしまいますよ!
■世界で最も良質なカシミヤの産地は「内モンゴル自治区」!
カシミヤの名は、インド北境・カシミール地方の山羊の毛を製品化したことに由来します。15世紀にシルクロードを通じてローマに渡ったカシミヤ製品は、その極上の暖かさと美しさが評判になり、貴族の間で大流行。後にナポレオン3世の妻、ウジェニー皇后が愛用したことで知名度を広げたそうです。
原材料となるカシミヤ山羊は、主にアジア大陸の寒暖差が激しい山岳地方に生息。冬季には氷点下30℃にまで下がる厳しい環境下で、極寒から身を守るため、剛毛の下にやわらかなうぶ毛を蓄えます。
そのうぶ毛が、カシミヤ製品の原材料となります。アフガニスタンやイラン産なども知られていますが、中国の内モンゴル自治区産が、世界的にも圧倒的な質を誇るとされています。
■超高級品のカシミヤは、自然が生んだ奇跡「ベビーカシミヤ」
ベビーカシミヤとは、カシミヤ子山羊(一般的には、生後5か月〜1歳未満)から初めて採毛される、うぶ毛のこと。その毛質は、綿飴のようにふわふわで、カシミヤのなかでも超高級品に位置づけられています。
羊の場合は、体を覆う毛を丸ごと刈り取るため、原毛は一頭あたり3〜4kgにもなります。しかしカシミヤ子山羊からは、内側に隠れたうぶ毛のみを採毛するため、最終的に使用できる量は30gほどと、ごくわずかです。
ベビーカシミヤのニットを1枚つくるには、数十頭ぶんの原毛が必要となり、稀少性もぐっと高まります。ベビーカシミヤは、その存在自体がまさに、自然が生んだ奇跡といえます。
■カシミヤの相場は世界基準の格付けと気候条件で決まる
カシミヤ山羊の平均寿命は15~16年。ですが良質なうぶ毛が採れるのは、3〜5歳の間のわずか3年ほどといわれています。
毎年、5月ごろに専用のくしで採毛され、産地(品種)・色(主にホワイト・ライトグレー・ブラウン)・うぶ毛の含有量・長さ・細さなど、世界基準で定められた格付けに沿って、細かく分類されます。その後、整毛業者によって再選別された原毛は、洗毛→整毛を経て、国内外の紡績会社へ。
また、カシミヤの毛質の善し悪しは、その年の気候条件に大きく左右されるとされ、天候に恵まれなければ格付けの高い毛はごく少量しか手に入りません。このように希少な素材から、ハイクオリティなカシミヤ製品はつくられているのです。
■カシミヤ特有の「暖かさの秘密」は軽くて繊細な繊維にあった
カシミヤ繊維は、天然獣毛のなかでも圧倒的に軽くて繊細。カシミヤ糸の太さは約14~16マイクロン(100万分の1メートル)しかありません。羊は20 前後、人の髪の毛が70~80マイクロンですから、どれだけ微細かがわかります。
カシミヤの糸は、縮れ毛状でよく絡み合うため、編み立てられた製品は空気をたくさん抱き込み、外気を遮断。放熱を抑える二重サッシのような役割を果たします。
一方、カシミヤ繊維の表面を覆ううろこ状のスケール(キューティクル)が、つねに呼吸をすることで快適な温度をキープ。カシミヤに包まれると暖かさが持続するのは、そのためです。また、このスケールがカシミヤの上品な艶を生み出しています。上記のウールとカシミヤの拡大図を比べると、カシミヤは突起が小さくなめらかですよね。これが肌に触れるとしっとり感じられる秘密です。
■最新の「混紡素材」が極上カシミヤをさらにグレードアップ
混紡素材と聞くと、カシミヤの価格を抑えるための妥協と思ってしまいませんか? しかし近年では、異素材同士の組み合わせが、カシミヤ製品をグレードアップさせています。
代表的なのが、カシミヤ70%×シルク30%の黄金比で構成された混紡素材。質感の異なるシルクを加えることで、カシミヤの華やかさとしなやかさが引き立ちます。また圧倒的な贅を極めるのは、ヴィキューナ(ラクダ科)とカシミヤの混紡で、その質感は天にも昇るような心地よさです。
カシミヤ×ウールは、ふわふわで繊細なカシミヤにウールを混紡することで強度が増し、冬のリッチ&カジュアルの大きな味方に。また、しっとりしたカシミヤの暖かさにリネンの清涼感とコシを加えたカシミヤ×リネン素材は、四季を通じて人気があります。
■極上カシミヤで冬を乗り切るには製品のアップデートを
ガーゼのように繊細に透けるハイゲージから、リラックス感漂うローゲージまで。日常に欠かせないカシミヤ製品の編み立ては、毎年新しい方法が誕生しています。
さらに魅了されるのが、メルトンやダブルフェース、ファー加工といった、従来のカシミヤ製品を刷新する表情のバリエーション。「極上カシミヤ」で冬を乗り切りたい方にとって、カシミヤ製品のアップデートは必須といえそうです。
■1990年代後半の「パシュミナブーム」は一体、何だったのか
記憶に新しい、1990年代後半のパシュミナブーム。パシュミナとは、ネパールを中心とするヒマラヤ山岳地帯に生息するカシミヤ山羊の原毛が原材料。あごからおなかにかけて生えている繊細な毛を紡ぎ、伝統的な手織り機で織られたストールやショールがパシュミナです。
毛は極細で不均一のため機械で紡ぐのが難しく、大量生産は不可能。今も手作業でつくられています。今、当時を振り返ると、ブーム最盛期のパシュミナには、実はパシュミナ風も多く含まれていたかもしれません。
■混じりけがないカシミヤかどうかを見分けるには?
製品を購入するとき、ピュアカシミヤという言葉を聞いたことがあるかもしれません。それは、カシミヤ製品を回収・リサイクルした製品ではないことの証です。
西欧などではすでに環境配慮素材の再利用が定着していますが、ピュアカシミアヤは文字どおり、混じりけのないカシミヤという意味になります。
■色鮮やかなカシミヤでますますバリエーションが豊富に
鮮やかな発色のカシミヤ製品をつくるには、原料の段階で一度脱色したあと、染め上げるのが一般的。しかし繊維に化学処理を加えれば、のちの黄変や風合いの劣化は避けられません。
そのため繊維にダメージの少ないナチュラルカラーのカシミヤほど、贅沢の象徴とされてきました。しかし今シーズンから、その固定概念が払拭されることに。
カシミヤ紡績の名門「東洋紡糸工業」が、カシミヤ本来の風合いを蘇らせながら、鮮明な発色と耐光堅牢度に優れた糸をつくり出すことに成功。カシミヤ業界に新たな可能性を広げるメイド イン ジャパンの技術力に、期待が高まります。
以上、優れた特質を生かしながら、最先端の技術で進化を続けるカシミヤ製品の”基礎知識”と”今”にクローズアップしました。ぜひこの冬、最愛の一着を手に入れてみてはいかがでしょうか。
- PHOTO :
- 佐藤 彩(静物)
- COOPERATION :
- 東洋紡糸工業株式会社
- EDIT&WRITING :
- 兼信実加子、小林桐子(Precious)