海外からの観光客が日本のよさとしてよく口にするのが「おもてなし」の五文字。心を込めて、お客様に対して気遣うことを表した言葉ですが、忙しさに追われるあまり、おろそかになっていませんか?

また、電化製品の進化や生活環境の変化により、日本古来の文化がもつ丁寧な所作や、マナーも学ぶ機会がなく、社会人になってしまった…という人も多いのではないでしょうか。今回は、『日本人のおもてなし練習帖』(秀和システム)の著者である松平洋史子さんに、大人の女性がやってはいけないマナーについて、お伺いました。

松平さんは、水戸徳川家の流れをくむ、高松藩の松平家で生まれました。松平さんの祖母となる松平俊子さんは佐賀藩主鍋島家の生まれで、讃岐国は高松藩松平家の一員。俊子さんは、大正末期から終戦期まで、社会事業家としても活躍され、昭和女子大の前身となる日本女子高等学院の校長を務めていました。

この校長時代に、松平家に伝わる生き方を『松平法式』としてまとめています。この『松平法式』と呼ばれる教本は、「いかに相手を気遣うのか」という理念が基本となっています。

■1:言葉と動作を一緒にして挨拶する

お辞儀しながら声をかけないように

著書内に「美しい挨拶は相手への気遣いにつながる」「すべては挨拶に始まり挨拶に終わる」というエピソードがあります。確かに、どのようなビジネスでも、プライベートでも、どのような場面でもきちんとした挨拶ができる人は、周りからの評価も高いと言えます。

最近は、スマホなどの画面を見たまま挨拶をしていたり、挨拶自体の声が小さく聞こえないような若い人も増えてきました。このような態度では、一緒に仕事をするうえで不信感が募り、誠意というものが伝わってこないと言えます。

どうすれば、心のこもった挨拶ができるようになるのでしょうか。

「心のこもった挨拶とは、先ず姿勢を正すことからです。姿勢を正すと心が変わり、それから挨拶です。挨拶は一期一会の出会いを大切にするためのものです。相手をしっかり見て発声を始め語尾を丁寧にご挨拶します。

お目に掛かれてうれしいという気持ちで頭を下げてゆっくり上げて、あなたの気持ちを受け止めますという、心のこもったものが挨拶です。ご挨拶の言葉を発してから、お辞儀をすると心がこもった挨拶になります」(松平さん)

言葉と動作を一緒にするとあわただしく見えて、心がこもったご挨拶に見えないそうです。気をつけてみましょう。

■2:初めてつくる料理を出す

年末年始の来客の多い季節の悩みと言えば、お客様にお出しする料理。仕出し弁当や、ケータリングなど、できあいのフードサービスが充実している中で、真心がこもったおもてなしが伝わってくるのは、なんといっても手料理ではないでしょうか。

相手が喜ぶおもてなしをしたいと考えるなら、重要となってくるのが献立。どのようなお客様がいらっしゃるかによって、臨機応変な対応ができるのが望ましいと言えます。そのためには、初めて作るような料理はNG! どうしても、食べていただきたい料理がある場合は、前もってつくっておき、味や見た目を確かめておくのがマナーです。

茶道などで使われている「残心」という言葉をご存知でしょうか。この残心とは、相手を敬い、思いやりの心を残すこと。まさに手料理でお客様をもてなすということは、残心の精神と言えるのです。

著書内には「炊き込みごはんと香の物」をおすすめメニューとありますが、失敗せずお客様に喜んでもらうには、どういったところに注意をしたらよいでしょうか?

「手料理は相手を喜ばせる最高のおもてなし。お客様をお迎えするには、”残心”で思いやりの気持ちを残すことです。おもてなしで献立は大切な心構えになります。

TPOと表現しています。Tはタイム:昼か夜か、Pはピープル:どなたをお招きするか、Oはおもてなし:季節を献立に入れる。

お招きするお客様の好みを把握し、旬の魚介類や野菜を考えながら準備をします。それから献立に合うお皿を出してから、自分の身を整え、料理に入り、お客様がまたお目に掛かりたいと思える心を残すことだと思います」(松平さん)

手料理をふるまう際は、”残心”を意識するとうまくいきそうです。

■3:TシャツやGパン・浴衣でお迎えする

どんなに高価なものでも、デニムはNG

最近では、ファストファッションやカジュアルな服装が定番化してきたため、ちょっとした外出に、部屋着のまま出かけてしまう人もいるのでは? しかし、松平さんは急なお客様がいらっしゃった場合でも、普段着でお客様をお迎えするようなことはしなかったと言います。

たとえ数万円するTシャツと数十万円するGパンであっても、これらは作業着。カジュアルファッションはあくまで個人的に楽しむもので、お客様をもてなすときにふさわしい服装ではないとのこと。松平さんは差し色に白を取り入れるそうですが、そもそも女性らしく相手に好印象を与える服装とは、どういったものなのでしょうか?

「おもてなしの服装は、お客様にとって見苦しくない自分でいること。そのためにはお客様を引き立てることが大切です。といって質素な格好をしていたら、いらっしゃるお客様ががっかりなされます。きらびやかに飾るのではなく、お客様に沿えるそしてその季節に合う服を選び、アクセサリーもシンプルなものをひとつ着けます。清楚なおもてなしをすることです」(松平さん)

普段からカジュアルな服装に慣れすぎてしまうと、お客様と会うときに必要なドレスコードがわからなくなってしまいそうです。アクセサリーなども、品位のあるものを身に付けるよう、普段から気を配っておきたいものですね。

■4:手土産を紙袋に入ったまま渡す

家に招かれたときに、もっとも気を遣うのは手土産ではないでしょうか。相手の好みや、招待客の人数など、事前リサーチも必要となってきます。普段から、喜ばれそうなお土産を知っていると、急な訪問でも慌てることが少ないかもしれません。

意外と知らないのが、手土産の受け渡しのマナー。渡すタイミングは? 美しい受け取り方は?

実は紙袋に入ったまま渡すのは、失礼になると知っていましたか?

「訪問なされた方はお部屋に通されたら、袋から品物を取り出し、洋室であれば立って、和室であれば座って、これから座るテーブルの脇で、両手でお渡しします。

どういう理由で品物を選んだかをお伝えすると、相手への気遣いとなります。いただいた手土産は、感謝の心をこめて受け取り、座っている位置より上座に置き、部屋から出る際に持って出ます」(松平さん)

意外と難しい手土産のマナー。いざというときに慌てないように、相手に良い印象を与えられるように練習しておくのもよいかもしれません。

■5:苦手なものを残す

懐紙に包むこと

ここまできたら、だいぶマナー上級者になった気分ですが、招かれた先で出された料理が口に合わなかったとき、みなさんはどうしますか? 基本的に残してはいけません。著書内では、懐紙に包んで持ち帰ることを勧められています。とはいえ懐紙は普段、あまり使い慣れないもの。懐紙を上手に使いこなすにはどうすればよいでしょうか。

「いつもバッグには懐紙を入れておくとよいでしょう。懐紙は日本伝統の文化のおしゃれな和紙で、ポケットティッシュに比べて少し固めですので、和菓子などを置いても動かすことができます。お茶席だけでなく日常で使うと使い慣れてきます。お招きを受けたときには携帯して、みかんの皮を包んだり、食べ残しを持ち帰るのに使いましょう」(松平さん)

大人の女性の新たな必需品『懐紙』。茶道の道具を扱う店以外でも、最近ではネットショップなどでも取り扱いがあります。懐紙は束になったものを購入し、友人に分けてあげてもよいかもしれないですね。

日ごろからの振る舞いが重要と言えるおもてなしのマナー。最後に、松平さんからアドバイスを伺いました。

「おもてなしのマナーの原点は心です。おもてなしは相手に合わせ、その場に合わせ、その季節に合わせることです。こうすべきというものではありません。

相手を思いやり気遣う気持ち、自然や食材を大切にする気持ちなど、心がこもると所作のすべてが素敵に見えます。相手の心に寄り添うことが最大のおもてなしです。大きな宇宙の空間に、私たちは小宇宙を持ち、時間軸の中に生きています。それを表現したのが“I for you”の心です」

このようにマナーとは、日ごろからの積み重ねが大事と言えます。一朝一夕では身につかないからこそ、細かい気づかいができる女性こそ、美しいと思いませんか?

松平洋史子さん
大日本茶道協会会長
(まつだいらよしこ)水戸徳川家の流れを汲む讃岐高松藩松平家の末裔。松平家に代々伝わる生き方教本「松平法式」を受け継ぎ、講演会やおもてなし塾の講師も務めている。大日本茶道協会会長のほか、広山流華道教授、茶懐石・宋絃流師範。著書に、『松平家 心の作法』(講談社)、『余韻の残る美人になる 気品の作法』(大和書房)など。
『日本人のおもてなし練習帖』松平洋史子・著 秀和システム刊
この記事の執筆者
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WRITING :
池守りぜね
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