ヒップ・オペレーション──。グループの名をそう聞いて、てっきり腰をうまく使える人=ダンスが上手な人だと想像したら、なんとメンバー全員が腰(ヒップ)の手術(オペレーション)を受けていたからなんだとか。座布団3枚あげたくなった。
ドキュメンタリー映画『はじまりはヒップホップ』は、ニュージーランドの小さな島、ワイヘキ島に住む平均年齢83歳の老男老女が主人公。ひと癖もふた癖もある個性的な“役者”が勢ぞろいして、まるでドラマのようでもある。
ヒップホップダンスを指導するのは、ダンスの素人ながら、おばあちゃん子だったパワフルな女性・ビリー。ある日彼女は、ラスベガスで行われる世界最大のヒップホップダンス大会に出場しようと提案する。メンバーはビリーの情熱に突き動かされるように、熱心にレッスンを始めるが…。
80代の自分を想像できるだろうか。正直なところ、恐ろしくて想像したくない。そんな私の目をこのドキュメンタリーは開かせてくれた。シングルマザーとして5人の子供を育てた94歳、ピアノの得意な元教師、ダンスのソロをもらおうと振付師にアピールする元オペレッタ歌手…。初恋の人と結婚し、70年(!)以上連れ添った夫が認知症となり施設に入っている女性は、夫を「私の美青年」と呼び、見舞う。夫が彼女へ向ける笑顔も最高だ。変わらぬ夫婦の絆をひとつとっても、年を重ねたからこそ味わえる人生があることにあらためて気づく。
ラスベガスへ行くのに渡航費用の足りないメンバーもいれば、持病もある。そもそも大会に出場できるかわからない。だが、みんなで難題を少しずつ片づけていく。
若者のダンスといわれるヒップホップだが、実は、実年齢より精神年齢。好奇心と勇気さえあれば問題なし。「私も人間としての価値があると思える」と言うおばあちゃんに頷き、パワフルなダンスに熱くなる。ダンスという“ことば”で若者と交流し合う姿もツボだ。
何度笑って何度涙腺が緩んだかわからない。「今がいちばん楽しい!」との言葉は、アクティブエイジを目指す私の希望だ。
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- TEXT :
- 坂口さゆりさん ライター
- クレジット :
- 文/坂口さゆり