家で過ごす時間が長くなり、住まうこと、暮らすことへの関心がこれまで以上に高まっています。

そこで、インテリアや家具だけでなく、どう住むか、どう暮らすかといった「生き方そのもの」と連動した「家」のあり方について考えてみたい。雑誌『Precious』2月号では、そんな想いから、6人の方に「理想の家と暮らし」についておうかがいしました。

今回は「ATELIER DAISHIZEN」役員 齋藤優子さんのお住まいをご紹介します。

齋藤 優子さん
「ATELIER DAISHIZEN」役員
(さいとう ゆうこ)雑貨会社を経て、造園家であり「DAISHIZEN」の代表・齊藤太一さんと結婚。人事・秘書を担当するほか、現在はコンサルティングを行う「ATELIER DAISHIZEN」の役員を務める。4児の母。

「朝日や夕焼け、月や星の瞬き。虫の声や葉のそよぐ音。地球を丸ごと、感じていたくて」

窓の向こうに広がるのは、等々力渓谷の豊かな森と隣家の巨大な樫の木。リビング・ダイニングへと向かう螺旋階段を降りていると、植物たちにじっと見つめられているような気分になります。

「植物園にいるみたいだとよくいわれますが、実際、この庭には世界中から集めた50種類以上の樹木や草木が植えられています。天井を高くとっているので、植物だけでなく、眩しい朝日やオレンジ色の夕焼け、月や星まで、家の中にいながら刻々と変化する空も眺めることができます。大自然や大地、地球を丸ごと、味わえる家。それが理想でした」

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天井高4.7m。たっぷりとった窓から見える植物は圧巻。傾斜地を利用し、斜面下のグランドレベルからさらに1m掘り下げてつくられた齊藤邸の1階は、開放感がありながら、大地に包まれているような落ち着きが感じられる。
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植物に見守られるように建つ一軒家

「地球に住まわせてもらっている。そんな謙虚な気持ちを忘れないでいたい」

この家に暮らすのは、「SOLSO FARM」などのショップや農場を営む、齊藤太一さんのパートナーであり、自らもコンサルティングなどを手掛ける齊藤優子さん。

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2階の寝室。アートや椅子、植物で彩られたコージーコーナーが随所に。向かって右手のアートは草間彌生、左はアニッシュ・カプーア。その下にはシャルロット・ペリアンのアームチェア。ちょうちんのようなライトはジャン・リスパル。どの部屋からも豊かな緑が目に飛び込んでくるよう、額縁のような窓が。
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3階へと続く階段に飾られた作品は常田泰由の作品。
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子供たちのベッドには温かみのあるホワイトのシーツに、愛らしいシロクマのぬいぐるみ。

「造園家であり、ランドスケープデザイナーでもある夫が『実験の場』として建てたこの家は、家族の理想の暮らしが詰まっています。自然に敬意を払い、植物や生物と共存し、地球に住まわせてもらっている、という謙虚な気持ちを忘れないこと。都心にいながら、四季の移り変わりや、虫の音や風の音、月の満ち欠けや太陽の日差しの変化などに敏感でいたい。子供たちが小さい頃からそんな環境で育てたいという想いもありました」

2018年に完成した齊藤邸は、土地探しに2〜3年、設計に約3年。

「夫の趣味は土地探しといっていいくらい、理想の場所をずっと探していました。夫は平坦な土地よりも、おもしろい形の土地や、不思議な地形に惹かれるようで(笑)。

等々力渓谷に向かって傾斜するこの土地は、不動産業界としては売りづらい場所にもかかわらず、気に入って即決。そんな土地をおもしろく料理してくれるに違いないと、パリを拠点に活躍する建築家・田根剛さんに設計をお願いしました。

誰も見たことのない、空間・建築・植物を組み合わせた新しい家のあり方と、そこでのリアルな暮らしを実体験する場としての家。もともと、1年に1回引っ越すほど引っ越し好きなわが家なので、家族でこの壮大な実験に付き合うワクワクも感じていました」

おなかに2人目の子を宿しながら建築がスタート。暮らし始めて3年経った今では4児の母に。

「まさかこんなに増えると思っていなかったので(笑)、今は子供部屋をどう増やそうか思案中です」

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キッチンに立ったときの目線の先に庭を見たい、というのが優子さんのリクエスト。それゆえ、キッチン台の高さと地面が揃っているというおもしろい設計に。器類は、古いものや作家もの。「モノの背景にあるストーリーや時代、作家の顔がわかるもの、温もりが感じられるものが好きです」
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ダイニングの壁の向こうは広いパントリースペース。食器類を収納。
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無農薬のプラムとレモンを使った自家製のお酒。ソーダ割りにして。
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キッチンのピエール・ジャンヌレの台には、リュエランの黄色い大皿。
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ダイニング。ピエール・ジャンヌレの椅子に合わせてつくった無垢板を使ったテーブルは建築家の田根さんがデザイン。制作はCOMPLEX。向かって左が書斎、右はパントリー入口。ピエール・ジャンヌレの戸棚にはグラス類を収納。
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階段下のコージーコーナーにもジャンヌレの椅子とボックスが。シャルロット・ペリアンのライトが優しい光を放つ。
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平丸陽子のアートと、ジャン・プルーベのアンティークチェア。
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階段の壁のボタニカルアートは草間彌生。
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書斎からも緑が見える。壁上の棚と、壁際の机はシャルロット・ペリアン。スツールはジャン・プルーべ。この半地下の空間を、優子さんは「アリの生活」と命名。「キッチンやリビングが半地下にあることで、地面よりも下の目線を味わうことができました。『上から目線』ではない、地面と地続きの目線。アリの気持ちがなんとなくわかります(笑)。大地に包まれているような安心感と温かさがあるんです」

「この土地ならではのユニークな家にしたい。例えば、『ハウルの動く城』のような」

もとは築60年2階建ての日本家屋が建っていた土地。独特の地形ゆえ複雑な建築制限と条件があったことから、当初、田根さんが描いた設計図はそれらの条件を満たしたシンプルなもの。

そこで齊藤さん一家が「もっと好きにやってください。この土地ならではの家にしたい。例えば『ハウルの動く城』みたいな」と提案。そうして生まれたのが、木造3階建て、八角形のユニークな家。

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土壁が印象的な外観。グランドレベルから1m掘り下げた際に出た土を混ぜた土壁は、あえてざっくりとした質感の左官仕上げに。屋根の木の板の貼り方にもこだわりが。屋上には野いばら、玄関のシンボルツリーはブラシの木。
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収納棚の予定だった窓際のデイベッドは、家族のくつろぎの場所。自らが設計、配置した庭の植物を見ながら寝っ転がれる場所が欲しいという太一さんの要望により、「COMPLEX」にクッションを特注。スツールはシャルロット・ペリアン、テーブルはピエール・ジャンヌレ。

「玄関は1階にあって、リビング・ダイニング、キッチンや書斎は半地下にあります。2階は寝室とバスルーム。3階は子供部屋。晴れた日には富士山も見えます。それぞれ階段でつながっていて、上へ行くほど明るく白くなっていくイメージ。柱や扉、廊下、ペンダントライトがないのもわが家の特徴。お隣との境も塀ではなく植物で目隠し。オープンで開放的な造りにしたかったんです」

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真っ白く明るいバスルーム
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天井にも窓、そして湿気の中ですくすく育つビカクシダが。
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洗面所も白で統一。

まるで大地と一緒になって、森の中で過ごしているような日々が愛おしい、と齊藤さん。

「今日は月が大きいね、冬になると日が暮れるのが早いねなどと、リビングで語り合う時間は至福のとき。大雨の日は、風でグラグラ揺れる樹木や、窓にたたきつける大粒の雨を見つめながら、ドラマティックだねぇ、とつぶやく子供の感性にドキッとしたり。家族で自然を身近に感じる暮らしは本当に楽しいんです」


齊藤さんのHouse DATA

●間取り…リビング、ダイニング、キッチン、書斎、寝室、子供部屋、バスルーム
●家族構成…夫婦、子供4人
●住んで何年?…約3年

PHOTO :
篠原宏明
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)