家で過ごす時間が長くなり、住まうこと、暮らすことへの関心がこれまで以上に高まっています。
そこで、インテリアや家具だけでなく、どう住むか、どう暮らすかといった「生き方そのもの」と連動した「家」のあり方について考えてみたい。雑誌『Precious』2月号では、そんな想いから、6人の方に「理想の家と暮らし」についておうかがいしました。
今回は「Mikako Nakamura」デザイナー 中村 三加子さんのカンパニーハウスをご紹介。中村さんが家を建てて見つめ直した「理想の家と暮らし」についても、お話をうかがいました。
「みんなのための家を建てて改めて見つめた、奇をてらわない本物の心地良さ。これは、家にも洋服にも通じること」
風土にも周りの家々にも美しく調和する家を
上質な素材とシンプルなデザイン、そしてそれらが醸し出す上品でエレガントなムードの服で、大人の女性の支持を集める「Mikako Nakamura」のデザイナー、中村三加子さん。かつてPreciousでも自宅を公開してくださり、「私の服づくりの原点はこの本」と、昭和初期に活躍した建築家、吉村順三氏の著書『建築は詩――建築家 吉村順三のことば一〇〇』を教えてくれたように、インテリアや建築にも深い関心や思いを抱いています。
そんな中村さんのスタッフや友人たちと集うためのカンパニーハウスが完成したのは、2021年の冬の初め。
建設地に選んだのは、都心から車で約1時間、愛犬と過ごす時間も満喫できる、自然豊かな地でした。この別荘地には決まり事があり、建材は木や石、塗り壁など自然に還るものに。また、高さや建ぺい率、外壁の色にも厳しい規制が設けられていたそう。
「風土に合って、周りの家々と調和した美しい景観を保ちたい、というこの別荘地の考え方にも惹かれました」
自然素材の心地よさが漂い、シンプルななかにもモダンさが香るカンパニーハウスは2階建て。1階には大きなダイニング、2階には3ベッドルームがあります。
「私にとって、家でいちばん大切なのはダイニング。家族や気のおけない友人たちと集まって、みんなで食事をつくり、ワイワイガヤガヤする。一緒に食事をし、時間を共有するのがいちばんうれしいこと。そのために欲しかったのが、みんなが楽しめる、気持ちいい空間でした」
吹き抜けのダイニングの中心にあるのは、8〜10人は座ることができそうな長さ2m70cmの大テーブル。また、中村さんが友人たちと集うだけでなく、スタッフが詰めて仕事をしたいとき合宿所のようにも使ってほしいからと、ベッドルームの数も確保したかったと言います。
ご自宅、「Mikako Nakamura南青山サロン」、このカンパニーハウスと、幅広い意味での「家づくり」に携わるのは3軒目。中村さんは、ごく自然と、自分が何に惹かれるのか、何を大切にしたいのか、を見つめ直すことにもなったと言います。
「サロンとカンパニーハウスは同じ建築家、松浦廣樹さんにお願いしました。建材にアカシア材と大谷石を使い、格子のデザインをアクセントにしたところも同じ。
当初、今回の家はまた違うタイプで…と考えていたのですが、結局はここに落ち着きました。質がよく、日本の風土に合うものがいい。好きなものは変わらないですね(笑)」
「『本物』からは品が生まれ、長く使われて、やがて味わいになっていく。家は建てたときが完成ではない。人々が住んで、生活して、素敵になっていくもの」
家づくりにおいて、中村さんがなにより大切にしたいのが、「本物であること」。
「上質な素材を用い、奇をてらったところのない「本物」は使っていくうちに、味わいが深まっていきます。家も時を重ねて傷むのではなく、人が住み、生活して使われて、素敵になっていく。
家は建てたときが完成ではない。人々がなじみ、思い出が募っていくからいいのです。だからこの家を私も活用したいし、みんなが楽しんで使ってくれたら、すごく価値のあるものになっていくと思っています」
「本物」から生まれる品格。時を重ね、味わいが深まるようなロングタームのものづくり。それらは共に、中村さんが服づくりでとても大切にしていること、と言います。
自分にとっての「素敵な家」や「素敵な暮らし」を考えること―それは、自分が人生で大切にしているものに改めて気付かせてくれるのかもしれません。
- PHOTO :
- 篠原宏明
- EDIT&WRITING :
- 川村有布子、古里典子(Precious)