家で過ごす時間が長くなり、住まうこと、暮らすことへの関心がこれまで以上に高まっています。
そこで、インテリアや家具だけでなく、どう住むか、どう暮らすかといった「生き方そのもの」と連動した「家」のあり方について考えてみたい。雑誌『Precious』2月号では、そんな想いから、6人の方に「理想の家と暮らし」についておうかがいしました。
今回は「BOTANICAL ARRANGEMENTS TSUBAKI 」主宰 山下郁子さんのお住まいをご紹介します。
「家は、植物たちと共に生きる場所。成長し、変化する姿が愛おしいんです」
都内の閑静な住宅街に佇む、築60年のコンクリート2階建ての建物。もとは1階が食品倉庫、2階は女子寮として使われていたそうで、アトリエと居住スペース両方の確保、天井が高いこと、庭がつくれることの3つの条件をクリアする物件はほかにないと2日で決めたとか。
「ここで暮らしている自分たちがすっとイメージできました。無骨な姿と古い窓が印象的。特に、鉄サッシに金網入りのガラスをパテ留めした古い窓は味があるうえ、大きく3面に配置されていることが決め手になりました。」
そう笑うのは、この家に住む山下郁子さん。パートナーの宮原圭史さんと「TSUBAKI」の屋号で植物を使ったしつらえや空間プロデュースなどを手掛けています。
「展示会や店舗、庭のアレンジなどを担当するうち、植物で『場』をつくる仕事がメインに。修業時代、『ただ花を生けるだけでなく、空間を見る力をつけなさい』というオーナーの教えのもと、自由にやらせてもらった経験も大きいと思います」
もともと、大きいもの、古いものが好きだという山下さん。植物の逞しさや生命力を、大胆かつシンプルに表現する「TSUBAKI」の空間づくりに定評があるのも納得。
「少しずつ集めてきた大きなテーブルや台、花器などは、どれも愛着があり大切に使っています。重いものは目にも重量感があって美しく、古いものは新しいものにはない美しさや物語があり、魅かれます」
「家としての機能性よりも美しさ。植物と暮らす『場』としての家、というのが、私たちの希望でした」
リノベーションを手掛けたのは「ARTS&SCIENCE」などの店舗デザインで知られる「SMALLCLONE」の佐々木一也さん。
「植物と暮らす『場』としての家、というのが私たちの希望でした。明るく開放的で、植物たちがたっぷり光を浴び、風通しがよい空間。家として機能的でなくても、植物と暮らす心地よさと美しさを優先させたい。佐々木さんはその理想をすべて叶えてくださいました」
とはいえ、扉や壁がほとんどない広い空間に、昔ながらの窓はすきま風がびゅうびゅう。不便は感じませんでしたか?
「初めての冬は、室内でもコートを着て過ごしたほど極寒でした(笑)。今は大きな空調設備をつけたので安心ですが。私自身、田舎の藁葺き屋根の家で育ったので、不便や機能的でないことに慣れています。
何より、愛するものたちに囲まれて過ごすことに幸せを感じます。植物たちがのびのびと成長する姿を眺めながら暮らしていると、心が落ち着きます。今後は、郊外の大自然の中で、もっと植物と寄り添えるもうひとつの拠点づくりを計画中。設計図を描きながら妄想しています」
山下さんのHouse DATA
●間取り…アトリエ、リビング&ダイニング、寝室、バスルーム
●家族構成…ふたり
●住んで何年?…約5年目
- PHOTO :
- 川上輝明
- EDIT&WRITING :
- 田中美保、古里典子(Precious)