自分の青春とともにあったクルマはなに? そう尋ねられたとき、マツダ・ロードスターを挙げるひとは、少なくないのでは。しかしロードスターは完了していない。いまも着実に進化を続けている。最新の「ロードスター990S」は、おとなの男にもぜひ乗ってもらいたいオープン2シーターだ。

990kgまで削ぎ落とした車体

全長3915ミリ、全幅1735ミリ、全高1235ミリのボディ。
全長3915ミリ、全幅1735ミリ、全高1235ミリのボディ。
ブラックの16インチ鍛造ホイールと青いロゴのブレーキキャリパーが990Sの足まわりの特徴。
ブラックの16インチ鍛造ホイールと青いロゴのブレーキキャリパーが990Sの足まわりの特徴。

今回のマイナーチェンジ版は、2021年12月に発表され、22年1月に発売された。注目のモデルが、走りにもっとも重要な車重を990キロにまで削ぎ落とした990S。エンジン制御もサスペンションもステアリングシステムも専用チューニング。外観上は、幌と内装の一部に専用色が採用されている。

エンジンは1496cc4気筒。操縦性に重要な重量配分を考えて、前輪より後にエンジンを搭載した、いわゆるフロントミドシップで、6段マニュアル変速機を介しての後輪駆動だ。ブレーキはブレンボ製。ホイールはレイズによる特製で、1本あたり800グラム軽量化した鍛造タイプと、ここでも凝っている。

最高出力は97kW(132ps)、最大トルクは152Nmと、数値的には控えめだ。かりにメルセデス・ベンツがCクラスやEクラスに用意している1492ccユニットをみると、150kWで300Nmと、大きな差がある。しかし、990Sに乗ると非力さはまったく感じない。

出足が軽快で、かつ、加速も気持ちがいい。カチカチっと気持ちよく操作でき、ギア間のトラベル(距離)も短いギアレバーを操りながら、エンジンを高回転域まで回すと、すこーんっと突き抜けたような快感が味わえる。

エンジン音もスポーツカーにとって大事な要素と承知しているマツダ。3500rpmから5000rpmにかけては、後輪用の差動装置(ディファレンシャルギア)をボディに留めている部分とボディとの共振をうまく使って、力強い音が鳴り響く。その上はエンジンじたいのメカニカルサウンドと排気音が楽しめる。

旋回性能を安定させる新技術も搭載

990Sにはブルーのソフトトップがそなわる。
990Sにはブルーのソフトトップがそなわる。
ドライバーのために設計されたといえるコクピット。
ドライバーのために設計されたといえるコクピット。

乗っての気持ちよさでいうと、今回は、もうひとつ、特筆すべき新システムがロードスター全モデルに採用された。キネマティック・ポスチャーコントロール(KPC)という、走りのための技術だ。

「ロードスターのリアサスペンションの特性を最大限に活かし、Gが強めにかかるようなコーナリングの際にリアの内輪側をわずかに制動することで、ロールを抑制しながら車体を引き下げて姿勢を安定させます」とはマツダによる説明。

制動時に車体の荷重が移動して、後部が浮き上がるのを防止する(アンチリフト効果)ため、ロードスターのサスペンションのジオメトリー(配置)は決められている。

マツダでは、それを活用しつつ、加えて、コーナリング時に内側の後輪にわずかにブレーキをかけるようにした。それによって、ロール時のボディの浮き上がりを抑え、車体全体を引き下げて旋回姿勢を安定させる。これがKPCの働き。

「走る・曲がる・止まる、というクルマの基本的性能において、ロードスターにはまだまだ性能をフルに使いきれていない領域があります。持っている能力をフルに発揮させ、それを走りのために活かしたい、と考えました」

開発を担当した操安性能開発部の梅津大輔氏はそう説明してくれた。重量は1キロも増えていないし、電子制御のアクティブサスペンションのような不自然な動きもない。いってみればオフロードバイクの旋回性に近い感覚でコーナリングできます、と梅津氏。

タイトコーナーや荒れた路面などで、これまでなら橫方向からのGの力で車体が大きく傾いていた場面でも、KPCが効果を発揮。車体が地面に吸い付くように安定し、接地感が高まる、とマツダでは説明する。

ロードスターを乗りこなす大人は格好いい

2リッターエンジン搭載のロードスターRF。
2リッターエンジン搭載のロードスターRF。
ロードスターRFはルーフの一部が開くタルガトップ。
ロードスターRFはルーフの一部が開くタルガトップ。

じっさいに操縦すると、まさにそのとおり。たいへん気持ちよく、速いペースでカーブに入っても、たしかに車体が安定している。「できればやらないで」と試乗会のとき広報担当者に言われたのは、KPCが連動する「DSC(ダイナミックスタビリティコントロール)」をオフにすること。

すべりやすい路面での走行時や、緊急回避など急激なハンドル操作による車両の横すべりをおさえるDSCをキャンセルすると、やはりブレーキを使うKPCも停止する。このオンとオフで違いがわかる。たしかにそのとおりでした。

まあ、一般的には、違いを明確に知ることが、私たちドライバーの“仕事”でなく、日常的に安定したコーナリングが出来て、じつはそのかげにKPCの働きがあるんだろう、と推察しているぐらいでよいのだ。

ロードスターは小回りも効くし、低回転域から実用的なトルクが出て、マニュアル変速機にあまり縁がなかったひともすぐ慣れる。というか、マニュアル操作で軽快なスポーツカーを操る楽しさを改めて教えてくれる。運転席に座ったまま幌の上げ下ろしが出来るのも、慣れるとカッコいい仕草に見える。

同時に、あたまのてっぺんのルーフが取り外せるクーペボディに、2リッターエンジン搭載の「ロードスターRF」のKPC搭載車にも乗ってみた。135kWの最高出力と205Nmの最大トルクで1100キロのボディを走らせるのだから、じゅうぶん力強い。

おとなになったら、もういちどロードスターに乗ってはどうだろう。ゴルフやサーフィンやスキーだけがスポーツではない。精神によさそうなスポーツドライビングの魅力を改めて知るのは、けっして悪いことではない。そう勧めたいのである。

価格は、ロードスター990Sが¥2,893,000のモノグレード(ATの設定はない)、ロードスターRFは¥3,461,700から。なかなか魅力的な価格設定ではないか。

問い合わせ先

マツダ

TEL:0120-386-919

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この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。