雑誌『Precious』では「My Action for SDGs 続ける未来のために、私がしていること」と題して、持続可能なよりよい世界を目指す人たちの活動に注目し、連載しています。

今回は、東京大学国際高等研究所 ニューロインテリジェンス国際研究機構 主任研究者・博士 辻 晶さんの活動をご紹介します。

辻 晶さん
東京大学国際高等研究所 ニューロインテリジェンス国際研究機構 主任研究者・博士
(つじ しょう)大学卒業後に訪れた、理化学研究所脳科学総合研究センターで初めて言語発達研究に関心を抱く。その後、認知科学・心理言語学研究室で博士研究員を経て、現職。世界経済フォーラムから世界の若手研究者25人に選出される。

赤ちゃんの言語発達のプロセスを研究、子供の平等な教育に貢献したい

辻さん「手に持ってるものは何かな? ピーマンだよ」

赤ちゃん「…うぅ(笑顔)」

これは、東京大学の「IRCN赤ちゃんラボ」で実験の真っ最中の辻さんの姿。ふたりが被っているヘルメットには、録音録画機能が搭載され、赤ちゃんの目に何が映り、何が聞こえ、そして赤ちゃんが何に反応をしているのかをその録画から計測しているのだ。

「私たちは赤ちゃんが社会環境のなかでどうやって言語を習得しているのかを研究しています。赤ちゃんは毎日耳にする単語の数はそれほど多くないにもかかわらず、驚異的なスピードと効率で情報を振るいわけ言語を習得します。ですが、なぜそれができるのかはまだ解明されておらず、これからの大きな課題です」

明らかになれば、教育AIの開発にも役立つと人工知能の分野からも関心が寄せられている。

実は幼児期の言語発達の度合いは、その後の経済的状況や学歴にも関係があるとのデータもある。裏を返せば、家庭や社会の事情から赤ちゃんへの話しかけが少ないと、言語発達に遅れが出る可能性もあり、それが子供の将来に影響する場合もあるのだ。

「とはいえ私たちがそれぞれの家庭に直接介入するのは難しいので、現在は保育士へ行うプログラムの提案をしています。言語発達に効果的な話しかけ方のトレーニングをフランスの保育園と一緒に取り組んでいます。

日本の赤ちゃんの言語発達の特徴の研究は、比較的少ないのが現状です。実験データを蓄積し、今後はさまざまな事情から早期の言語習得が遅れた子供にもアプローチできるよう、平等な教育(※)のためにこの研究を生かしていきたい」

【SDGsの現場から】

●モニター越しに赤ちゃんの視点をリサーチ

インタビュー_1
言葉やもの、動きなど視線から反応を調査。随時参加してくれる赤ちゃんを募集中。

●環境が言語習得に与える影響について講演を行うことも

インタビュー_2
Beyond AI研究推進機構が'21年に開催した研究成果発表会に、研究リーダーとして登壇。

※平等な教育とは…SDGsが掲げる目標4は「質の高い教育をみんなに」。男女や人種の区別なく、脆弱な立場の子供も平等に教育が受けられる社会を目指す。

PHOTO :
望月みちか
EDIT :
大庭典子、喜多容子(Precious)
取材・文 :
大庭典子