雑誌『Precious』では「My Action for SDGs 続ける未来のために、私がしていること」と題して、持続可能なよりよい世界を目指す人たちの活動に注目し、連載しています。

今回は「ベルミドゥエロ」代表 ナザレ・アパリシオ・アントンさんの活動をご紹介します。

ナザレ・アパリシオ・アントンさん
「ベルミドゥエロ」代表
マドリッド自治州大学で生物学を修める。卒業後、実家に戻り、’16年、26歳で起業。恋人で共同経営者でもあるサムエルとふたり暮らし。’20年には農水省が地方活性化に貢献する女性に贈る「イノベーション賞」を受賞。

ミミズの力で農地を変える、すべてを循環させる理想のビジネス

ナザレさんがこの温室の中でつくっているのは、ミミズの糞を使ったフムス(※腐植土)。まず、牛や馬の糞を買い取ってきて、しばらく寝かせておく。よけいなバクテリアや菌がなくなったら、そこにミミズを放つ。ミミズはどんどん育ち、増え、8か月後。ミミズの糞によるフムスができ上がる。

「ミミズが食べて消化した糞には、普通の牛糞の3倍の栄養が含まれています。ミミズが消化することで、牛糞や馬糞に含まれる病原体や、動物が食べた種(たね)もなくなってしまいます。

加えて、ミミズの消化器官を通ることで、腐植土はさらに何百万もの微生物を含むこととなるので、これを畑の土壌に混ぜると非常によい土ができるというわけです。ほかの肥料や化学肥料と組み合わせて使うことも可能。ミミズのフムスを混ぜた土で育った作物や植物は、外敵や温度変化にも強くなるということがわかっています」

マドリッドの大学で生物学を修めたあと、実家に戻った。人口2千人の村では、自分が学んだことが生かせる仕事はなく、自分で起業するしかないと考えていたとき、偶然、近所の図書館で「ミミズ農法」の本を見つけたのがきっかけになった。サステイナブルな取り組みであることも、ナザレさんの行動を後押しした。

「2m四方の床4つ分からスタートし、現在は800床ほどに。ミミズのフムスで濾過した栄養剤もつくりました。個人で庭いじりを楽しんでいる人にも、大規模農業を手掛ける人にも、私たちのミミズのフムスは使われています」

ミミズが満足していれば、よい土になる。ゴミも廃棄物も出ない、すべてが循環する環境なら、自然も人も、機嫌よく生きていける。

【SDGsの現場から】

●手に伝わる感触からもわかる上質な腐植土

インタビュー_1
触るとサラサラとしていて、色艶もよく、嫌な匂いのないアパリシオさんのつくるフムス。

●化学肥料を使わない農法に需要が高まりフムスも追い風に

インタビュー_2
日本同様過疎化の進むスペインで、彼女のビジネスは地方の起業家としても注目される。

※腐植土とは英語、スペイン語の「フムス」には腐植土の意も。有機土質を用いる農業は、SDGsの目標「陸の豊かさも守ろう」を可能にする。

PHOTO :
Javier Peñas
WRITING :
剣持亜弥(HATSU)
EDIT :
大庭典子、喜多容子(Precious)
取材 :
Yuki Kobayashi