ますます進化する、食のサステイナブル。それは、あなたのすぐ近くから始まっています!

世界が抱える問題に対する解決を目指す、グローバルな共通目標SDGs。その現在地を考察する連載の第2弾のテーマは“食”。地産地消、食品ロス削減など“食”を取り巻く現状は課題が山積み。

そこで「“美味しい”は生き方、未来にもつながる」と話す料理人・野村友里さんへのインタビューをはじめ、さまざまなトピックスを掘り下げることで、最も身近な“食”について、今できること、そしてその未来について考えたいと思います。

【Interview】料理人・野村友里さんと考える、今、私たちにできること

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野村友里さん
野村友里さん
料理人
(のむら ゆり)「restaurant eatrip」「eatrip soil」を営みながら、ケータリングフードの演出や雑誌の連載、ラジオ出演など活動は多岐にわたる。著書に『eatrip gift』『春夏秋冬 おいしい手帖』(共にマガジンハウス)、『Tokyo Eatrip』(講談社)、『TASTY OF LIFE』(青幻舎)、近著に『会いたくて、食べたくて 私が信頼する101の美味しさとその生産者たち』(マガジンハウス)など。

「こんな時代だからこそ、“つながる”ことに意味がある。知って、学んで、考えて、動く。食は“循環”がキーワードです」

SDGsという言葉が生まれるずっと前から、“食”にまつわる課題や未来について考え、動き続けてきた人がいます。それが、料理人・野村友里さん。

おもてなし教室を開いていた母・野村紘子さんの影響で料理の道へ。当時まだその言葉すらなかったフードディレクターとして、ケータリングフードの演出やイベントのディレクションを手掛けながら、2009年にはドキュメンタリー映画『eatrip』を監督。

その後、スローフードや食育を提唱するアメリカ・カリフォルニアのオーガニックレストラン「シェ・パニーズ」で料理修業。帰国後、2011年「シェ・パニーズ」のシェフたちと共に、参加型の食とアートのイベント「OPEN harvest」を開催し、話題になりました。

2012年には東京・原宿にレストラン「restaurant eatrip」を、2019年11月には東京・表参道にグロサリーショップ「eatrip soil」をオープン。長年、あらゆる角度から食と向き合ってきた、まさにSDGsの実践者といえます。

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生産者の想いが詰まった商品が並ぶ「eatripsoil」の店内
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高知県四万十、桐島畑の無農薬栽培のショウガを使ったジンジャーシロップ 小¥777
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山梨県・甲斐駒ヶ岳の牧場のケージフリーの鶏舎で育った健康な卵。ROOSTERの卵1個¥90

「もともと、食べること、つくることが好きで料理の道に進みました。20代の頃は、皿の上の料理をアートやフォトジェニックなものとしてとらえていたこともありましたが、食の仕事に関われば関わるほど、食べることとは? 美味しいってなんだろう? と考えるようになって。

例えば、食の世界に入って10年目、改めて自分が何をしたいのか考えていた時期に、尊敬する人たちに話を聞き、その暮らしを映し出したのが映画『eatrip』でした。ところが、その取材を通して、今度は料理人としての自分の立ち位置や生き方に、新たに疑問がわいてきたんです」

原点に戻るべく、もっと食材について知りたいと「シェ・パニーズ」へ。

「そこで、生産者、料理人、消費者の“つながり”を体感しました。やっと、私らしい食との関わり方が明確になったと感じました」 

東京生まれ、東京育ちの野村さんが、“美味しい”食の未来のためにできることはなんだろう──。

「試行錯誤するなか起こった東日本大震災は、私の考え方、生き方を根本から変えました。流通がストップし、なんでもあるはずの東京の脆さが露わになりました。お金があっても、食べることすらままならない。一方で、産地である地方も、都市という消費の場がないと成り立たない。

東京を拠点とする私ができることは、生産者と消費者が、料理を通してつながる“場”をつくることかもしれない。そこから、さまざまなご縁で『restaurant eatrip』をオープンすることになったんです」 

この店を拠点に日本各地を訪れ、農家や漁師など、生産者との親交を深めていった野村さん。国内外のシェフを産地へ案内し、生産者を紹介したり、食のイベントを行ったり。そのつながりがつながりを生み、日本中にネットワークが生まれたといいます。

「食材だけでなく、各地に根付くその土地ならではの調味料や加工品にまで、つながりは広がりました。でも、こんなに素晴らしいものがあっても、知ってもらう場所がない。そこで、それらを販売しつつ、つくり手の想いや生き方、考え方も共有し、体験できる場として『eatrip soil』をつくりました」

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都会の真ん中「eatrip soil」の小さな菜園。
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鮮やかな色の「eatrip」オリジナルエプロン¥16,170は、屋上菜園で収穫したブラックベリーで染めたもの。
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東京・板橋区にある「THE HASUNE FARM」の有機栽培のにんじん 1袋¥240

店内には、野村さんが実際に訪れた地から届く新鮮な野菜や卵、パンや調味料、豆腐やチーズ、チョコレートやうつわ、エプロン、クロスまで。つくり手の想いが詰まった品がところ狭しと並びます。

さらに、昨年7月からは豊洲の魚介仲卸業者と共に、月に一度、鮮魚や干物を販売するフィッシュマーケットも開催。毎回、多くの人で賑わうとか。

「コロナ禍で、当たり前だったことが当たり前でなくなった今こそ、本当の意味での“美味しい”を考えるときのように思います。慌ただしい時間の流れのなかで、見過ごしてきたものを改めて考えるチャンスかもしれません。

食べることは誰にとっても身近なことです。だからこそ、量や惰性で食べるのではなく、自分にとって必要なものを必要なだけ。誰と、どんな空間で、美味しく食べたいのかを、今一度考えてみてもいいと思います。

また、市場価格より多少高くても、自然との共存や、そこに費やされた時間と手間、その土地で育まれた知恵も一緒にいただいている、という意識をもつこと。ひとりひとりが未来に何を残したいかを考え、知って、学んで、考えて選ぶ。その消費行動、その“循環”こそが食の未来をいい方向へ変えると信じています」

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

  • eatrip soil 
  • 営業時間/11:00〜19:00(日曜〜18:00)
  • 定休日/月曜休
  • TEL:03-6803-8620
  • 住所:東京都渋谷区神宮前5-10-1 表参道GYRE 4F 
    (※営業時間は情勢に応じて変更の可能性あり。最新情報はInstagram@eatripsoilで確認を)

PHOTO :
篠原宏明
EDIT&WRITING :
田中美保、佐藤友貴絵(Precious)