ビジネス文書でよく目にする「不躾なお願いではございますが」というフレーズですが、正しい意味を理解していますか? ネガティブな要素を含んだお願いなのだと、なんとなくわかった気でいる人も多いのでは? 今回は、「不躾なお願い」を正しく知り、ビジネスシーンで恥をかくことなく使えるようにレッスンしていきましょう。
【目次】
不躾なお願いってどんな「意味」?
唐突だったり、厚かましいと感じられる可能性があるようなことを、取引先や上司など目上の人にお願いしなければならないようなシーンで使う「不躾なお願い」。まずはその意味を正しく把握しましょう。
■「不躾」の読み方と意味
読み方の「ぶしつけ」、これは比較的耳慣れた言葉でもあるので読める人も多いのでは? 「ぶしつけ」を漢字で書くほうが難しいかもしれませんね。『デジタル大辞泉』には、【礼を欠くこと。無作法なこと。また、そのさま。無礼。】と出ています。「失礼」「無礼」「無作法」などの意味のほか、「厚かましい」「図々しい」「常識外れ」などのニュアンスも含まれています。
「躾」は、「身」と「美」で「しつけ」を表した美しい漢字です。「躾がない」ことを「不躾」というのですが、「あなたは不躾だ!」などと他人には用いません(この場合は「無礼だ!」が適当ですね)。あくまでこちら側のこととして恐縮しながら使う単語です。
■「不躾なお願い」の意味
簡単にいうと「失礼なお願い」。この場合の「失礼」とは、内容が相手に手間をかけてしまう場合や、時間的に無理を強いる場合、あるいはその両方のケースが考えられます。
■「不躾なお願い」って「敬語」なの?
「不躾なお願い」は、マイナスイメージの強い「失礼」を「不躾」に置き換え、大人かつソフトに表現した言い回しなので、このフレーズ自体は敬語ではありません。「~ではございますが」「~で恐縮ですが」「~ながら申し上げます」など、前後に接続する言葉で敬語として表現します。しかし、「不躾なお願い」をしなくてはならない状況を考えると、常に“敬語表現のなかで使うフレーズ”であるともいえます。
こんなビジネスシーンで…「不躾なお願い」の正しい「例文」
早速、具体的なビジネスシーンでの「不躾なお願い」の例文を見ていきましょう。
■1<取引先などへの急な業務依頼>:ご多用の最中と存じ上げており、不躾なお願いではございますが、今期中の納品でお引き受けいただけますと幸いです。
■2<こちらの都合での予定の変更>:予定を変更せざるを得ず、大変不躾なお願いで恐縮ですが、納期を10日ほど繰り上げていただけませんでしょうか。
■3<見積もり額の値下げ交渉>:貴殿のお力をぜひともお借りしたく、大変不躾なお願いとなりますが、制作費のお見積りについてご相談させていただきたく存じます。
いずれもありがちなシーンですが、「不躾なお願い」は「交渉次第でなんとか叶いそうなお願い」であることがわかりますね。本当に失礼で無理なケースでは使わない、と肝に銘じておいて!
ここで、上記の「不躾なお願い」に対応してもらったときの「お礼の例文」も見ておきましょう。
■1<取引先などへの急な業務依頼へのお礼>:ご多用のところ不躾なお願いにご対応いただき、大変ありがたく存じます。
■2<こちらの都合での予定変更へのお礼>:大変なご負担をおかけします不躾なお願いにもかかわらず、ご承諾いただきありがとうございます。
■3<見積もり額の値下げ交渉へのお礼>:不躾なお願いにもかかわらずご了承いただき、大変恐縮でございます。
「不躾なお願い」の「不躾」を、ビジネスでも使える別の言葉で言い換えてみましょう。
■1:「厚かましいお願いですが」
■2:「至急のお願いとなってしまい申し訳ございませんが」
■3:「図々しいお願いで恐縮ですが 」
■4:「失礼を承知でお願いさせていただいております」
■5:「こちらの都合ばかりのお願いで心苦しいのですが」
「厚かましい」「至急の」「図々しい」「失礼を承知で」「こちらの都合ばかりの」と、恐縮具合を具体的に伝える言い換えです。けれど、お願いする側も「この程度なら何とか要求をのんでもらえるのでは…」を前提に使うわけですから、ビジネスではあまり直接的ではない「不躾な」を使ったほうがこなれた表現といえそうです。
「不躾なお願い」を使える相手や使用頻度など「注意点」
■上司や取引先にも使えます
「不躾」という言葉の意味からも、上司や取引先などにこそ使いたいフレーズです。
■何度も使うのはNG
ひとつの案件で何度も「不躾なお願い」をしたり、同一の相手に毎回のように「不躾なお願い」をするのは厳禁です。そもそも無理は承知の「不躾なお願い」というフレーズなのですから、繰り返し使ってはこちらの能力の低さをアピールしているようなもの!
■本当に失礼にあたるときには使わない
これがいちばん大切な注意点。「協力し合ってよりよい結果を生む」ことがビジネスマナーですから、そもそも信頼性を欠くような要求はご法度です。本当に失礼にあたるような事態に陥ったときは、「不躾なお願い」ではなく「失礼を詫びる謝罪」が必須です。
敬語表現では、できるだけ「簡潔にわかりやすく」することが大切ですが、短ければよいというものでもありません。ビジネスの現場でも、「丁寧語」「謙譲語」「尊敬語」を使った美しい日本語を使いましょう。
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今日は「不躾なお願い」というフレーズについて、レッスンしました。やむを得ず「不躾なお願い」をしなくてはならない場合は、真摯に…を心掛けたいものですね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語ネイティブになろう!!』(くろしお出版) :