ごく日常の会話ではあまり使われない「賜る」という言葉。とはいえ、目上の相手や取引先に対して、あるいは式典や結婚式など改まったシーンでは、幅広く使用される言葉です。厳粛な場面で用いられることも多いので、正確に使いたいもの。
「賜る」の正しい意味や使い方、また使い分けが難しい「承る」との違いについて解説します。

【目次】

「賜る」はどんなシーンにふさわしい?
「賜る」はどんなシーンにふさわしい?

「賜る」はなんと読む? 正しい意味をしっかり押さえましょう

■「賜る」の正しい読み方は?

「賜る」は、訓読みで「たまわ・る」と読みます。
ただ、PCなどで「たまわる」と打つと、予測変換として「賜わる」という表記も出てきます。一般に「賜る」という送り仮名が原則ではありまますが、「賜わる」も「許容」とされます。 つまり、「賜わる」も「間違い」ではないということです。

■「賜」を音読すると?

「賜」は音読みで「し」。天皇・君主から物を賜ることを意味する「恩賜」、高貴な人が身分の低い人に物を与える「下賜」などの熟語として使われますが、日常ではあまり使用されませんね。

■「賜る」の意味は? 尊敬語なの?謙譲語なの?

物を与えたりもらったりすることを「授受」といいますが、実は「賜る」は、「もらう」と「与える」の両方を表す言葉です。
「もらう」という意味を示す際には謙譲語、「与える」という意味では尊敬語として使われます。謙譲語としての「賜る」は、目上の人からものをいただくこと。尊敬語の「賜る」は、目上の人が目下の人にものを与える、という意味です。

「賜る」のふたつの意味を「例文」でしっかり理解しよう!

「賜る」という言葉は、「もらう」と「与える」という真逆の意味に使われることがわかりました。でも、少しわかりにくいですね。実際に使われる例文を見てみましょう。

■1:「○○様よりご祝辞を賜りたいと存じます」

■2:「長年、格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます」

■3:「弊社の記念行事にご臨席賜りますよう、ご連絡させていただいた次第です」

■4:「何卒ご理解賜りますよう、お願い申し上げます」

いかがでしょうか。前半の■1と■2は「もらう」の謙譲語として「賜る」を使った例文。
後半の■3と■4は「与える」の尊敬語として「賜る」を使っています。どちらも、「いただく」「くださる」といった言葉よりも、より丁寧な表現となっています。

形式的な印象の「賜る」をリアルな「類似表現」に置き換えてみると・・

やはり「賜る」を使うと少々形式的な印象を与えるかもしれませんね。

そこで、意味はそのままで、やわらかい印象に置き換えてみると…。「いただく」「授かる」「頂戴する」「拝受する」「受領いたす」などが、挙げられます。

■1:「大変、結構なお品をいただきまして、ありがとうございました」

■2:「この度、○○大学より学位を授かりました」

■3:「お忙しいところ恐縮ですが、お時間頂戴できますと幸いです」

■4:「会議の資料を拝受しました」

■5:「先日の領収書を確かに受領いたしました」

混同しがちな「賜る」と「承る」の正しい使い分け方は?

「賜る」と混同されやすい言葉として「承る(うけたまわ・る)」という敬語があります。「承る」は主に「受ける」または「聞く」、「理解する」「伝え聞く」「引き受ける」といった言葉の謙譲語として使われます。
「賜る」が「もらう」と「与える」の両方の意味で使われるのに対して、「承る」は相手から、助言や厚意など、何らかのアクションがあった際に使われる表現です。

つまり、「承る」は「賜る」のように物品の授受には使用できません。従って「金一封を承りました」といった文章は誤用となりますので、注意が必要です。
ただし、「受け賜る」という表記であれば、物品に関しても使用できます。「金一封を受け賜りました」となりますが、話し言葉では違いがわかりませんね。

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いかがでしたか?「賜る」は物品の授受だけでなく、相手からの厚意などに対しても広く使える言葉ですが、日常、口頭ではあまり使われません。式典など改まった席にはふさわしい言葉ですが、通常のビジネス文書での使用は、形式的な印象となり、むしろ相手に対する敬意が伝わりにくくなってしまいますので、慎重な扱いを心掛けてくださいね。

この記事の執筆者
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参考資料:『精選版 日本国語大辞典』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂) :