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告知がじゃんじゃん流れ、俳優たちもバラエティで番宣、なのに大コケ、という連ドラが珍しくない。特に昔はヒットを飛ばしていた局の苦戦が続いている。理由として、「水と油を一緒にしたらおもしろいドラマが」的につくられるものがいまだ多いのでは、と気づいた。

「不良とエリート女性」とか「モテない男と絶世の美女」とか、かつてこの局が得意としていた「水と油」では今の視聴者は引っ張れない。どこかですでに観た展開に陥りがちだし、それを避けるため水にいろんな油をブチ込もうとすれば無理が生じる。「少子化時代に子だくさんの家族ものってどう?」「結婚しないご時世の後妻ドラマってアリかも」「妻が外国人もいい」「父親がいきなり再婚っておもしろくない?」となったのか、これらすべてを盛ったドラマがスタートしたが、惨敗。

今、水と油をやるならどこかで深い一致が必要なのだ。でないとそれぞれがエキセントリックにドラマをかき回すことはできても、双方で物語の車輪になることができない。

小説界では「水と油に、実は相通じるものが」が人気。中山可穂の『娘役』に登場するのは宝塚とヤクザ。水と油の最たるもののようだが「組があり、組長がいて、掟に弱い」という共通点を見出した中山可穂が乗りに乗って、「美学」と置き換えられる掟をもつ者たちの過酷で美しき運命を描いていく。

東野圭吾の『マスカレード・ホテル』は、人を疑うことが商売の刑事と、お客様をまず信じることがモットーのホテルの女性クラークが連続殺人事件に立ち向かう。方向性は真逆だが、彼らはどちらも「人間観察のプロ」で一致する。

水と油は反発するからおもしろいのではない。認め合うからドラマが生まれるのである!

この記事の執筆者
岩手県生まれ。幼いころから「本屋の娘」として大量の本を読んで育つ。2011年入社。書店勤務の傍ら、テレビや雑誌など、さまざまなメディアでオススメ本を紹介する文学担当コンシェルジュ。文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/早川クリスティ―文庫)などがある。 好きなもの:青空柄のカーテン、ハワイ、ミステリー、『アメトーーク』(テレビ朝日)
クレジット :
撮影/田村昌裕(FREAKS) 文/間室道子
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