【目次】

【「ご承知おきください」の意味は?】

「承知」という言葉について、『日本国語大辞典』には以下の3つの意味が記載されています。

1)目上の人の命令などをうけたまわること。拝承。領命。
2)相手の願い、要求などを聞き入れること。納得すること。許すこと。同意。承諾。承引。
3)知ること。わかること。また、わかっていること。存知。

現在、「承知」という言葉は2あるいは3の意味で使われることが多いのですが、本来は「承」という文字が示す通り、【主君や上司の命を受け、それを執行すること】という意を含む、謙譲語としての意味合いが強い言葉。ビジネスシーンでの「承知しました」は、上司など目上の人に対して「わかりました」という意味でよく使う言葉ですね。

今回のテーマである「ご承知おきください」は、「承知」という名詞に美化語の「ご」、「しておく」の意を表す「おき」がつき、「前もって知っておく、理解しておく」という意味。これに、相手に何かを要望・懇願する意を表す丁寧語の「ください」を組み合わせています。

つまり「ご承知おきください」は、「前もって事情を知っておいてください。ご理解ください」という意味を表す丁寧なフレーズということになりますが、強制的な印象を与えてしまう可能性も…。「承知」という言葉が本来もつ謙譲語としてのニュアンスから、目上の人に対しての使用は適切とは言えないのです。上司や目上の方だけでなく、対等な立場の人や社内外の連絡メールなどで使う際にも、細心の注意が必要です。

【やわらかく伝えるには…?「使い方」の「注意点」

「ご承知おきください」は、相手に念を押すとき、あるいは注意事項があることを知らせる際に、よく使われる言葉です。「どうぞ」や「ませ」、「ぜひ」「可能であれば」といったクッション言葉を添えると、やわらいい印象になります。

また、「~ますよう」という言葉を使い、「ご承知おきくださいますようお願い申し上げます」「ご承知おきくださいますようお願いいたします」とすると、より丁寧でスマートな表現になります。

そのまま使える「例文」

「ご承知おきください」というフレーズを、ビジネスシーンで失礼な印象にならないよう「例文」をご紹介しましょう。

■1:「明細書を添付いたしましたので、どうぞご承知おきください」

■2:「以上、いくつか注意点がございますこと、ご承知おきくださいませ」

■3:「〜となりますこと、ご承知おきくださいますようお願い申し上げます」

■4:「お見積りをご承諾いただいたのちの実作業になりますこと、あらかじめご承知おきください」

■5「天候や不慮の事故により予定通りにいかないこともございます旨、どうぞご承知おきくださいませ」

失礼にならない「言い換え」表現

目上の人や取引先などに使う際には気を遣うべき「ご承知おきください」ですが、ビジネスでは使うシーンが多いもの。同じ意味で感じのいい言い換え表現を覚えておきましょう。

■1:「お含みおきください」 

「含む」という言葉には、「事情をよく理解して心にとめておく」という意味があります。「お含みおきください」は、目上の方にも使える丁寧な表現です。

■2:「ご承知願います」

■3:「ご了承ください」

「了承」は【事情をくんで納得すること。承知すること。承諾】という意味。「了承する側が立場は上」となります。ですから、目上の人にお願いや提案を申し出る場合には、「ご了承いただけますか?」といった依頼のかたちでの使用は可能です。

とはいえ、相手に選択肢を与えず、一方的な理解を求める意味があるため、目上の方に対して「ご了承ください」を使うのは控えたほうがよさそう。ビジネスシーンで使うなら、「同じプロジェクトで仕事をしている社外の人」くらいが妥当です。

■4:「悪しからずご理解ください」

「悪しからず」は、相手の希望や意向に添えない場合などに用いる語です。「どうぞ悪しからずご了承ください」のように、「悪く思わないで」「気を悪くしないでくださいね」という意味で使われます。

■5:「ご認識おきください」

「認識」は【ある物事を知り、その本質・意義などを理解すること】。敬語としてのニュアンスは含まない、ニュートラルな言葉です。丁寧語の「ご」と「ください」をつけて丁寧な表現として使えますが、会話ではあまり登場しませんね。

【「ご留意ください」との「違い」】

「ご承知おきください」と似たフレーズ「ご留意ください」ビジネスシーンでよく使われます。

「留意」は意識を留めることを示す名詞で、ある物事に心を留めて気をつけることを表します。「気にかける」「注意する」「見守る」「忘れない」などと同義でもありますが、ある事柄に対して強く意識することを表します。特に重要と思われることについて周知を徹底するなら、「注意」より、気に留まりやすい「留意」のほうが効果的というわけ。「社外秘の資料ですので、取り扱いには十分ご留意ください」「○○を希望されていますので、十分ご留意のうえ進行願います」というように使用します。

このふたつのフレーズは、以下のように使う分けるといいでしょう。

・ご承知おきください=事前に理解しておく

・ご留意ください=意識して気にかける

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「承知」や「了承」という言葉は、同じような使われ方をすることもありますが、本来の意味を頭に留めておけば、使う際の注意点がよく理解できますね。丁寧語、謙譲語、尊敬語といった敬語を使い分けるのが“大人の語彙力”の見せどころ。相手に失礼な印象を与えないよう、慎重な言葉選びを心掛けたいものですね。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲社) :