本連載39回目で取り上げた「よろしくお願いします」と、漢字表記の多い「宜しくお願い致します」。どちらが正しいの? と迷ったことはありませんか? 特にオフィシャルな文書では「漢字を使ったほうが正式な印象かな?」と思いがち。でも実は、「よろしくお願いいたします」が正解です。今回はその理由を説明します。

【目次】

「宜しくお願い致します」と「よろしくお願いいたします」はどちらが正しい?
「宜しくお願い致します」と「よろしくお願いいたします」はどちらが正しい?

「宜しくお願い致します」は「間違い」? 【基礎知識編】

■まずは正しい「意味」から…

「宜しくお願い致します」は「よろしくおねがいいたします」と読みます。
『日本国語大辞典』によれば、「よろしく」とは【好意や案ずる心を他に伝言してもらう時にいう挨拶の語。また、人に何かを頼んだりする時に添える語】とあります。ごくごく親しい人との会話であれば、単に「よろしく!」と使うこともありますね。
「お願い致します」は、動詞「願う」に接頭辞の「お」をつけた丁寧表現+謙譲語で補助動詞の「いたす」+丁寧な表現である助動詞の「ます」で構成されています。

つまり、「宜しくお願い致します」は、相手に何かを頼む際に使われる、正しい敬語表現です。

■「間違い」といわれる理由は?

私たちが一般的に使用している漢字は、「常用漢字」と呼ばれています。実はこの「常用漢字」は、「法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において,現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すもの」として、一覧表になっています。この「常用漢字表」が現在、公的な場での漢字使用の目安となっているのです。

常用漢字表で「宜しく」を調べると、記載がありません。ただし、「宜」の音読みである「ギ」は、記載されています。もうおわかりですね? 公用文では、「常用漢字表」に従って漢字を用いることが定められているため、「宜しく」は「間違い」とされるのです。

同様に、「致します」についてはどうでしょう。「常用漢字表」には「致」の文字と「いたす」という読み方も記載されています。ただ、「致す」という動詞は、「届くようにする」「心を尽くす」という意味の語です。「お願い致す」と使う場合、「致す」は謙譲語の補助動詞として使われており、動詞本来の意味はもっていません。「公用文における漢字使用等について」では、動詞は漢字で、補助動詞はひらがなで表記することになっています。例としては、「〜ていただく」「〜てください」などです。

以上のことから、補助動詞「致します」は、ひらがな表記が基本、ということになるのです。

「よろしくお願いいたします」を使った例文3選

よく使用される3つのシーンに分けて、例文をご紹介します。

■1〈自己紹介の挨拶〉:「営業○課の△と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

■2〈仕事などの依頼〉:「○○の件、ご検討の程、よろしくお願いいたします」

■3〈文末の締めとして〉:「引き続き、どうぞよろしくお願いいたします」

同じ意味で使える「言い換え」「類似表現」

■1:「どうぞよろしくお願い申し上げます」

■2:「何卒お願いしたく存じます」

■3:「ご検討いただければ幸いです」

敬意の強さで比べると、「よろしくお願いします」<「よろしくお願いいたします」<「よろしくお願い申し上げます」の順となります。「何卒お願いしたく存じます」は、少々かしこまった言い方なので、口頭よりも文書で使われることが多い表現です。

「〜いただければ幸いです」も、相手に何かを依頼するときに使われる敬語表現。ただし、お願いの表現としてはややあいまいなため、しっかり依頼したいときは、「○月△日までに」と期限を記載するか、「ご返信お待ち申し上げます」など、ひと言添えたほうが確実です。

「よろしくお願いいたします」への返し方…「返事」の正解は?

上記「例文1」の〈挨拶〉に対する返事ならば、「こちらこそ、よろしく願いいたします」、もしくは、相手が目上の方であれば、「こちらこそ、よろしくお願い申し上げます」が適切。
例文2の〈依頼〉への返信であれば、「承知いたしました」「承りました」など。3つめケースの場合、返信をするか否かは、状況次第です。返信する内容がないのに、「こちらこそ、お願いいたします」とあえて返信するかどうかの判断は、相手との間柄によっても変わりそうです。

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私たちが日常的に書く文章も、社外の取引先などに宛てたメールなどは、公的な性格が強いものです。公的なものほど「漢字が適切?」と考えてしまいがちですが、漢字表記が正しいとは限りません。パソコンの自動変換に惑わされず、正しい知識で文章を作成したいものです。

この記事の執筆者
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参考資料:「公用文における漢字使用等について」(平成22年11月30日付け内閣訓令/「常用漢字表」/『日本国語大辞典』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂) :