「拝見」も「拝読」も、ビジネスシーンではよく使われる言葉です。意味もそれほど難しくないように思えますが…では、メールや資料を読んだことを表現するのに適切な言葉はどちらでしょうか? 結論から言えば、どちらも正解です。この記事を最後まで読んでいただくと、その理由がわかりますよ。

【目次】

「拝読」と「拝見」の違いは?
「拝読」と「拝見」の違いは?

【「拝読」と「拝見」。それぞれの「意味」をおさらいしましょう】

■「拝読」の意味と、「拝見」との違い

「拝読」は「はいどく」、「拝見」は「はいけん」と読みます。
「拝」という漢字は、訓読みで「拝(おが)む」です。自分のことをへりくだる意味を含んでいます。

従って、「拝読」は「読む」ことの謙譲語。筆者への敬意を表します。

一方、「拝見」は「見る」ことの謙譲語。謹んで見ることを表します。

■「拝受」との違いは?

「拝受」は【謹んで受けること。ありがたく頂戴すること】という意味で、自分が何か「受け取った」ことをへりくだって表現した謙譲語です。文字通り「受け取ったこと」を相手に報告するときに使われる表現のため、必ずしも内容について確認したとの報告であるとは限りません。つまり、「メールを拝受いたしました」「宅急便を拝受しました」という連絡には、「内容を確認しました」といった意味合いは含まれていない場合もあるということです。

■上司など目上の人には「拝読(拝見)いたしました」が正解?

「拝見(拝読)」という言葉自体が謙譲語ですから、「拝見(拝読)しました」でも、丁寧な敬語表現です。

「拝読(拝見)いたしました」は、「拝読」+「いたす(「する」の謙譲語)」+丁寧語の「ます」+〔過去・完了・存続〕の「た」という構成です。「拝読(拝見)しました」よりもさらに丁寧な敬語表現になっています。二重敬語であるという記載も見かけますが、「拝読(拝見)いたしました」は、二重敬語ではありません。

そもそも二重敬語とは、「ひとつの語において、同じ種類の敬語を二重に使ったもの」で、一般的に適切ではないとされています。「拝読いたしました」を例に考えると、「拝読」は「読む」行為が向かう相手に対する敬語<謙譲語Ⅰ>。そして「いたす」は、聞き手に対する敬語である〈謙譲語Ⅱ〉に相当します。敬語の種類が違うため、二重敬語にはならないのです。

例として、あなたが上司から社長の訓示を読んでおくよう指示されたとします。これに対し、「はい。拝読いたします」と返事をすることで、著者である社長への敬意と、聞き手である上司への敬意を表すことができるのです。

「拝読いたしました」は、正しく、とても丁寧な敬語表現ですから、強い敬意を表したい方に対して使うのがふさわしいフレーズです。裏を返せば、それほど年齢の違わない先輩や、親しい上司に対しては、少々仰々しい言葉だといえます。

■「ご拝読(拝見)ください」は敬語として不正解?

「拝読(拝見)」は謙譲語です。あくまで自分(社内や身内)の行為に対して使う言葉なので、相手の行為に対しては使えません。「こちらの本を拝読なさいますか?」などの表現は誤りです。

正解は、「ご覧(ご一読・お読み)ください」です。

■ホームページは、「拝見」「拝読」どちらを使う?

前述の通り、「拝見」は「見る」ことであり、「拝読」は「読む」ことを指します。対象に対してどちらが日本語としてふさわしいのかを考えると、一般的にウェブサイトには画像も多く、100%文字で構成されているものはほとんどありませんね。従って、「見る」が自然。「拝見しました」が正解です。

では、手紙や資料はどうでしょう。手紙も資料も「読む」ものだと考えると、なんとなく「読む」とするほうが正しいような気もします…でも実は、日本語としては「見る」も正しい表現です。

実は「見る」という言葉は、とてもたくさんの意味をもっています。『日本国語大辞典』には、【目にとめる、見物・観賞する】のほかに、【物事をこうだと判断する。悟り知る。わかる。よく注意して調べる。観察する。また、診断したり鑑定したりする】や、さらに【文字に表現されたことを知る。読む】といった意味が記載されています。多くの古典文学に見られるように、日本では古くから「文章を読む」ことを「見る」と表現したのです。

ですから、メールや新聞、資料やカタログ、文献、書類等々、すべて「拝見」を使っても間違いではありません。


【ビジネスシーンでそのまま使える「拝読」の「例文」7選】

ビジネスシーンで実際に使われている例文をご紹介しましょう。

■1:「原稿をありがとうございます。拝読いたします」

■2:「お送りいただいた資料を拝読しました」

■3:「論文の完成おめでとうございます。拝読するのが楽しみです」

■4:「メールでのお返事をありがとうございます。拝読し、改めてご連絡いたします」

■5:「詳しい資料をお持ちとうかがいました。拝読してもよろしいでしょうか」

■6:「詳しい資料はお持ちでしょうか。拝読させていただきたく存じます」

■7:「まずは拝読のご報告を申し上げます」


【「拝読しました」の「言い換え」表現は?】

■拝誦(はいしょう)

「拝誦」は「声に出して読む」という意味の謙譲語。「拝読」は声に出す・出さないにかかわらず使えるのに対し、「拝誦」は「声に出して読む」場合のみ使える言葉です。

■閲読(えつどく)

「閲読」の読み方は「えつどく」。「書物などの内容を、調べながら読むこと」という意味で、丁寧な言葉ではありますが、謙譲語ではありません

■披見(ひけん)

「披見」は、「手紙や文書などを開いて見ること」。ビジネスシーンでは書簡や手紙を読むときに使われます。こちらも謙譲語ではないため、目上の方に使う際は敬語表現に留意して使いましょう。


【「拝読」「拝見」の反対語は?】

■「お書きします」「お聞きします」

「拝読」の「読む」という【行為の対義語】は、「書く」です。従って、「拝読」という意味の対義語は、「書く」の謙譲語である「お書きします」です。「見る」という【行為の対義語】は「見聞」という言葉があるように、「聞く」となります。従って「拝見」という意味の対義語は「お聞きします」「うかがいます」です。

■「お読みになる」「ご覧になる」

「拝読」は、「読む」という言葉の、「拝見」は「見る」という言葉の、それぞれ謙譲語です。謙譲語に対義する言葉は尊敬語や丁寧語ということになります。この意味合いであれば、「拝読」の対義語は、尊敬語の「お読みになる」、丁寧語の「読みます」となり、「拝見」の対義語は、同様に「ご覧になる」「見ます」となります。

***

日本語の「見る」という言葉は、とてもたくさんの意味をもっています。「拝読」と「拝見」は、特に注意して使い分ける必要はありませんので、会話や文章の流れで自然なほうを選ぶのがベスト。自信をもって、相手への敬意を表現しましょう。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『とっさに使える敬語手帳』(新星出版社) :