「謹んで新年のご挨拶を申し上げます」のように、おめでたいシーンを連想させる「謹んで」という言葉。フォーマルなシーンで使うことの多い言葉だけに、誤用はぜひとも避けたいものです。実例と共に、正しい使い方をマスターしましょう。

【目次】

「謹んで」と「慎んで」の違いにご注意を!
「謹んで」と「慎んで」の違いにご注意を!

【まずは基礎知識から。「謹んで」は、どんなときに使うの?】

■「謹んで」の意味

「謹んで」は「つつしんで」と読みます。

動詞「つつしむ」の連用形に接続助詞「て」の付いた、「つつしみて」が音変化した言葉です。【敬意を表してうやうやしく物事をするさま。かしこまって】という意味をもつ敬語表現。とても礼儀正しく謙虚に、相手に敬意を表す様子が見て取れる言葉です。

■どんなときに使う?

ビジネスやプライベートを問わず、また慶弔にかかわらず、フォーマルなシーンで用いられます。また、目上の方からの依頼や要求を引き受けるとき、あるいは相手の希望に応じた挨拶や、反対に依頼や要求を断る際にも使われます。

■「慎んで」との違いは?

同じ読み方をする言葉に、「慎んで」がありますが、このふたつは意味の異なる言葉です。

「慎んで」の「慎む」という動詞は、【あやまちや軽はずみなことがないように気をつける。慎重に事をなす。度をすごさないようにする】【控えめにする。節制する】という意味の言葉です。つまり、相手に対して敬意を表す「謹んで」に対し、 「慎んで」は相手への失礼とならないための、自分に対する注意喚起や行動制限を表しています。「行動を慎む」「言葉を慎みなさい」あるいは「酒を慎む」「暴飲暴食を慎む」のように使います。当然、相手への敬意は含まれていません。


【手紙やメール、挨拶でそのまま使える「例文」7選】

「謹んで」は、相手に対する敬意を表現する言葉です。同じ読み方の「慎んで」での言い換えはできません。

■1:「謹んで新春のお慶びを申し上げます」

「謹んで〜の〜を申し上げます」は、慶事の挨拶の定型文です。

新年の挨拶の文頭に書くフレーズを「賀詞」と呼びます。「謹んで新春のお慶びを申し上げます」は目上の人に対しても使用できる敬語表現ですが、「あけましておめでとうございます」は丁寧語。謙譲表現や尊敬表現は含まれていないため、目上の方へのご挨拶には控えたほうがいいでしょう。

■2:「このたびはご愁傷さまでございました。謹んでお悔やみ申し上げます」

お通夜や告別式で、遺族の方に対して使うお悔やみの敬語表現です。口頭のほか、文章でも使われますが、「謹んで哀悼の意を表します」という表現は、弔辞の中で使用する弔電文語体です。つまり、故人に対する弔電に使う文語体なので、口頭で遺族に使うのは避けましょう。

■3:「弊社起因のトラブルにつきましては、謹んでお詫び申し上げます」

謝罪の際には、相手への敬意を込め、丁重に謝罪の意を伝えます。

■4:「異動の件、承りました。謹んでお受けいたします」

目上の方からの依頼や、内定・昇進などに対する返答として使われます。

■5:「今回は辞退させていただきたく、謹んでご報告させていただきます」

目上の方からの依頼をお断りするとき。「大変残念ではありますが…」「僭越ながら…」といった気持ちをにじませます。

■6:「結構な品をありがとうございました。謹んで頂戴いたします」

金品を受け取る際にも使用します。相手に対し謙虚な態度でいただく姿勢を表現できます。

■7:「お声掛けをありがとうございます。謹んで出席させていただきます」

結婚式などへの招待に対し、出席を伝える際に使う表現です。


【似た意味で使われる「類語」や「言い換え」表現】

■恐縮ながら ■謙虚に ■敬意をもって ■誠意ある態度で ■心より

「謹んで」の類語としては、「恐縮ながら」がよく知られています。「恐縮」は恐れて身が縮むことを意味していますが、相手に迷惑をかけたり、相手から厚意を受けたりして申し訳なく思うニュアンスを「恐縮ながら」あるいは「恐縮ではありますが」という言葉で表現します。

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ビジネスシーンだけでなく、冠婚葬祭などフォーマルな席では、目上の方と接する機会が多いものです。「謹んで」は、改まった場面で使われることが多いフレーズです。「慎んで」と誤用するなど、間違った使い方をしないよう、しっかりと理解しておきましょう。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂) :