「拝借する」は「借りる」の謙譲表現です。メールや手紙であれば、「教えていただけますか?」よりも「お知恵を拝借できますと幸いです」と書いたほうがスマートな印象に。ただし、使い方にはいくつか注意点があります。言い換え表現など、詳しく解説します。

【目次】

「拝借」は謙譲語。
「拝借」は謙譲語。相手の動作に対しては使えませんよ!

【まずは「拝借」の「基礎知識」から】

「拝借」は「はいしゃく」と読みます。

「拝」という漢字は、「拝(おが)む」という訓読みからもわかるように、自分のことをへりくだる意味を含んでいます。従って「拝借」は、【借りることをへりくだっていう語】で、【つつしんで借りること】を意味します。もちろん、目上の方に対して使えますが、一方で、自分と同等の相手や目下の人に「拝借」を使用すると、不自然な印象です。


【「拝借」は謙譲語。使う際の「注意点」は?】

「拝借」は、自分の動作をへりくだっていう謙譲語です。従って、「拝借なさる」、「ご拝借ください」というように、相手の動作に対して使うと失礼な表現になります。目上の方の「借りる」という行為を敬語表現にすると、「お借りになる」です。

「拝借」という言葉自体が謙譲語のため、「拝借させていただく」は二重敬語なのでは? という指摘があります。ただし、『敬語マニュアル』によれば、現在の「させていただく」という言葉には、「最も丁重な謙譲語」としての働きがあるほか、「相手の許可を得て〜する」「相手のおかげで〜できた」「自分の意志に関係なく〜する」という意味もあります。ですから場面によって、例えば「(ご許可がいただけましたので)拝借させていただきます」といった用法であれば、間違いではありません。

ただ、「許可」の意味合いが薄い場合の「〜させていただく」という言い回しは、「くどい」と感じる人もいるようですので、「拝借いたします」くらいがちょうどよいかもしれません。

「ご拝借」に関しても、文法としては二重敬語にあたりますが、実際のビジネスシーンでは「ご」を単なる「美化語」として、「お食事」「お電話」のように使われることもあるようです。

また、「拝借」は「借りる」ことですから、返すことが前提の言葉です。時間や名前のように、借りても返せないものに対して使うと違和感を覚える人もいますので注意しましょう。ただし、「お知恵を拝借」のように、慣用句的に使われているフレーズもあります。


【正しい使い方が理解できる「例文」6選】

「拝借」は基本的に「お返しすることが前提」の言葉ですが、「お知恵を拝借」のほか、「お耳を拝借」、「お手を拝借」は慣用句的に使われています。

■1:「しばしの時間、お耳を拝借させていただきます」

■2:「新規プロジェクトにつきまして、お知恵を拝借できませんでしょうか」

■3:「それではみなさま、お手を拝借!」

「拝借」という言葉自体が謙譲語ですので、「拝借しました」も敬語表現となります。とはいえ、特に敬意を表すべき相手に対しては「拝借いたします」という表現が適切でしょう。「拝借いたします」を「二重敬語では?」と思う人もいるようですが、そもそも二重敬語とは、「ひとつの語において、同じ種類の敬語を二重に使ったもの」。実は謙譲語には、謙譲語Iと謙譲語IIの2種類があります。「拝借いたします」の「拝借」は「借りる」行為が向かう相手を高める敬語〈謙譲語Ⅰ〉。そして「いたします」は、聞き手に対して、自分の行為を丁重に述べる敬語である〈謙譲語Ⅱ〉に相当します。敬語の種類が違うため、二重敬語にはならないのです。

■4:拝借しましたサンプルの返却についてのお問い合わせです。

■5:今回の撮影では御社の商品を拝借いたしました。

■6:拝借させていただくにはどのような手続きをとればよいでしょうか。


【同じ意味で使える「言い換え」表現と「類語」】

文化庁のHPには、「貸してください」の言い換え表現が30以上掲載されています。非常に丁寧な表現からいくつか抜粋してみましょう。

「拝借させていただけません(でしょう)か」>「お借りしてもよろしい(いい)でしょうか」>「貸していただけますか」>「貸してください」>「借りてもいい?」

このように、「拝借」は「借り手」としてへりくだる謙譲語と、「貸し手」への尊敬語で言い換えできます。ちなみに、一番「ぞんざい」とされる表現は、「貸してくれ」です。

■お借りする  ■借用  ■貸していただく  

■貸してくださる  ■お預け願う  ■お貸し出し

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「拝借」は「借りる」の謙譲表現です。少し改まった言葉のため、日常会話であれば、「お借りする」を使ったほうが自然に聞こえるかもしれません。そして、「お知恵」「お耳」「お手」は拝借できますが、「お名前」や「お時間」は拝借できません。ご注意を。

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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂)/『これ1冊であとはいらない! 大人の語彙力大全』(中経の文庫) :