本日の敬語レッスンのテーマ「おいといください」になじみはありますか? 少々古風な印象のこのフレーズ、「時節柄、お体おいといください」とするとわかるでしょうか。ビジネスシーンでの会話やメールでも、時候の挨拶や、相手をいたわる一文で結んだりといった気遣いで、気持ちのよいコミュニケーションを図りたいもの。そのような心持ちを美しい言葉で表現できるのも、日本語の素晴らしいところです。今回は、そんな気遣いフレーズ「おいといください」について解説します。
【目次】
【「おいとい」の「基礎知識」】
■意味を正しく理解するために…
「いとう」という動詞に、接頭語「お」と補助動詞「ください」を付けた「お・いとい・ください」。その意味を正しく理解するために、まずは「いとう」を見てみましょう。
■「いとう」を漢字で書くと…
「厭う」となります。意味を『デジタル大辞泉』で引くと、
【1 嫌って避ける。嫌がる】
【2 かばう。大事にする。いたわる。現代では多く健康についていう】
とあります。1は「どんな苦労もいとわない(=嫌がらない)」とするとわかりますね。「お体をおいといください(=大事にしてください、いたわってください)」とすると、2の意味もピンとくるでしょう。今回の「おいといください」の正しい意味は2のケース。「かばう」「大事にする」「いたわる」という意味で使われます。
ちなみに「厭う」には、「世俗を嫌って離れる」「出家する」といった意味や、「 危険や障害などを避ける」「しのぐ」という意味もあります。
■ 「おいといください」「お厭いください」どちらがビジネス向き?
ビジネス文書なら平仮名より漢字のほうが“デキる”感じがするかもしれませんが、「厭う」は読みづらいもの。平仮名のほうがわかりやすくてビジネス向きです。「厭」という漢字には「嫌」と同じ意味もあり、好ましく思わない人もいるでしょう。また「おいといください」は気遣いフレーズですから、目に入る印象も、漢字より平仮名の柔らかなニュアンスのほうが合っているといえそうです。
平仮名では意味がわかりにくかったり、漢字では読みづらかったり、別の意味を連想させたりする場合もあるところが、日本語の深さであり面白さですね。
■ビジネスシーンで目上の人に「おいといください」はOK?
そもそも「いとう」という言葉は、漢語や外来語から派生したのではない、日本固有の大和言葉です。ちょっと古風な感じがするのは、そんなところに要因があったのですね。「おいといください」をビジネスシーンで目上の方に使うのはOK、むしろ印象アップにつながるかもしれません。
【失礼のない使い方がわかる「ビジネス例文」5選】
では、ビジネスシーンで「おいといください」を使用する場合の例文をご紹介します。
■1:「お疲れが出ませんよう、くれぐれもおいといください」
■2:「時節柄おいといくださいませ」
■3:「くれぐれもお体おいといくださいますようお願い申し上げます」
■4:「体調を崩したりなさいませんよう、お身体おいといください」
■5:「またご一緒させていただけます機会まで、どうぞ皆さまおいといください」
■3と4で「お体」「お身体」と異なる漢字を当てましたが、どちらも正解、入れ替えても正解です。「体」は主に肉体を、「身体」は心身を表します。その時々のケースで使い分けましょう。
「おいといください」はビジネスシーンだけでなく、お礼文や年末年始の挨拶文の結びなどにも重宝するので、積極的に使用したいものです。
【「類似フレーズ」と「返答例」もチェック!】
「おいといください」より「ご自愛ください」のほうが親しんでいるでしょうか? 「おいといください」と同じ意味で使える類似フレーズも覚えておくと、相手やケースによってピタッとハマる敬語を使うことができそう! いくつか例を挙げてみます。
「ご自愛ください」「お労(いたわ)りください」「お気遣いください」
「お気をつけください」 「お大事になさってください」
■「おいといください」と言われたときはどうする?
相手から「おいといください」と気遣われたら、どう返すのが大人のマナーでしょう。
対面や電話などの会話のなかで言われた場合は、気遣いに対しての感謝を述べるのが先決。「ありがとうございます。〇〇さんもどうぞおいといください」などとお返しを。
体調を崩したあなたにメールで気遣ってくれた相手には、「お心遣いに感謝申し上げます。養生のため数日お休みを頂きますが、何卒よろしくお願い申し上げます」など、お礼と共に差し障りのない範囲で様子を知らせるのも、気遣ってくれた相手への礼儀です。
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本日の「おいといください」は、相手への気遣いを少々古風な言い方で伝えるフレーズでした。仕事の現場にも、ちょっとした気遣いが醸す温かな空気感が欲しいもの。忙しいときこそこんなひと言が沁みますね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館) :