あるがままに、「不安」と生きる

会って、食べて、笑って、語り合う。当たり前だと思っていた何気ない日常が一変。外出や接触が禁止され、得体の知れないものと闘い続けたここ数年の日々は、目に見えない「不安」を私たちの心に植え付けました。どんなに前向きに気持ちを保とうとしてもモヤモヤ、鬱々とした気持ちになってしまう…。そんな人も多いのでは?

そこで、そもそも「不安」とはなんなのか、うまく付き合うにはどうすればいいか。3人の識者の方に、「不安」と上手に生きる心構えをおうかがいしました。

 

【みなさんからの不安】何が、というわけではないけれど不透明な未来と世の中の閉塞感に、気分が鬱々としてしまう…

「コロナ禍、世界情勢、誹謗中傷や暴露。何が、というわけではないけれど不透明な未来と世の中の閉塞感に、気分が鬱々としてしまいます」(Tさん・会社経営)

◇「医師の目」で答える【「不安」と上手に生きる心構え】

「情報を集めるな、知らなくても生きていける。だいたい、不安に思ったことの99%は起きません」

大塚宣夫さん
医師、青梅慶友病院・よみうりランド慶友病院開設者
(おおつか・のぶお)1942年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業後、同医学部精神神経科学教室入室。井之頭病院に精神科医として勤務後フランス留学を経て、1980年に青梅慶友病院を開設。2005年よみうりランド慶友病院を開設。高齢者医療の第一人者として活躍。著書に『非まじめ介護のすすめ』、阿川佐和子さんとの共著『看る力』。

恐れを抱く対象が明確なものが「恐怖」で、対象が明確でなく漠然としたモヤモヤが「不安」です。何に対して違和感や恐れを抱いているかわからないから、考えるほどに不安が広がっていくのです。そんな不安をますます増大させているのが「情報」だと私は思っています。今年80歳になる私からすれば、人々の不安の絶対量は、今も昔もたいして変わりません。けれども、不安をあおるような「情報」があまりにも多すぎる。

世界情勢から、著名人はもとより、一般人の超・個人的なあれこれまで…、見なくてもいいこと、知らなくてもいいことが、世に溢れています。確かに、シャットダウンしたくても、無意識に目の前を流れてしまうほど、今の時代は情報社会かもしれません。でも、まだ足りない、もっと知りたい…と、人々は自ら情報を求め、情報に飢えているような…そんな気さえします。つまり、自ら「不安」をかき集めているように思うのです。だったら、最初から情報なんて集めないことです。

だいたい、この世の中は知らなくていいことばかりです。知らないからって死ぬことはありません。もちろん、知って得する情報もありますが、知りすぎる不幸もある。他人は他人、私は私。人はみんな違うんです。最初から競わない、羨まない、攻撃しない。

 

それから、医師として高齢者施設に関わるようになって40年余り、多くの高齢者とそのご家族に接し、私自身も80歳を迎えた今、改めて実感していることがあります。それは、「不安に思ったことの99%は起きない」ということ。そりゃあ、これだけ長く生きていれば「もうダメか」と思うこともたくさんありました。自動車事故で2度、死にかけた経験もあります。でも、今こうやって生きているってことは、なんとかなったということ。嫌なこともあったけれど、時間が解決してくれます。

ほんとかなぁと思うかもしれませんが「人生、なんとかなる」んです。そう思えたもんが勝ち!みんなまじめすぎるんですよ。

また、世代的に、老後や介護の不安を感じることも多いと思いますが、ひとつ、アドバイスを。皆さん、最初から、パーフェクトに42・195キロのフルマラソンを走りきろうとしすぎです。とりあえず、遅くてもいいから、あの角まで行こう。そう思って角を曲がったら、別の景色が見えてちょっと気分が変わる。そうしたら、あとちょっとだけ走ってみるかとなって、また次の角まで行ってみる。介護も老後も、それくらいの心もちでいいんです。「そこの角まで」の繰り返しが、結果として今、続いている人生です。過去でも未来でもなく「今ここを生きる」こと。少し気が楽になるでしょう?

不安を感じたら、なんでもいいから「集中」できることをやってください。買い物でも、ゲームでも、海外ドラマ鑑賞でも、とにかく夢中になって“考える”ことから一旦離れること。私の場合はゴルフですが、目の前の小さな球が気持ちよく弧を描いて飛んでいくことだけに集中します。スコアも考えない、競わない。これが大事。

とにかく、不安から逃げるんですよ、考えちゃいけません。よく、気分転換に筋トレや水泳、瞑想、サウナなどを挙げる人がいますが、例えば筋トレなら、筋肉の動きだけに集中できる上級者ならいいですが、それらは結局、自分と向き合う時間です。よけいなことを考えてさらに不安になってしまう。雑念を振り払うことは、凡人には難しいのです。それから、聞き上手の仲間をもつのも有効です。声に出して話すことで、思考が整理され悩みが明確になります。

不透明な時代ですが、頑張りすぎず、無理しすぎず「今日一日を凌ぐ」くらいの気構えで、ね。


目に見えない「不安」との付き合い方、向き合い方、教えます|「不安」と生きるためのワンポイント・アドバイス ── 大塚宣夫さん

不安を受け入れ、不安と共に生きていく…とはいえ、やっぱり、不安を少しでも解消できる術があるのなら知りたいもの。ここでは、より具体的に不安と付き合う方法を教えていただきましょう。

医師、青梅慶友病院・よみうりランド慶友病院開設者 大塚宣夫さん
医師、青梅慶友病院・よみうりランド慶友病院開設者 大塚宣夫さん

Q1: 不安を感じたら、まず何をする?

A:情報をシャットダウンする

携帯電話もパソコンも閉じ、テレビも新聞も見ない。情報に触れてしまう場所に行かない。情報を断捨離するということは、不安の要素も断捨離しているということです。断捨離後、脳みそに新たにできたスペースには、楽しいこと、好きなことをインプット。

Q2:不安なとき、自分にかける言葉とは?

A:「なんとかなる」

Q3:不安な日におすすめの本や音楽、アクションは?

A:『道は開ける』D・カーネギー(創元社)

名著中の名著だが、大好きな一冊。「あなたが悩んでいることの99%は、実際に起きない。つまり起きもしないことを心配している。万が一、その1パーセントのことが起きたとしても、必ず、なんとかなる」。うろ覚えだが、そんな内容が書いてある。起きないことを心配するより、もっと気楽に今を楽しむ。歳を重ねて、よりそのことを実感する。

 

PHOTO :
Getty Images
EDIT :
田中美保、池永裕子(Precious)