善意や励まし、褒め言葉…その「つもり」に実は落とし穴があるんです…!リアル実例集でお届けします、仕事と職場の「ワーキング・リテラシー」大丈夫ですか?

パワハラ、セクハラ、マタハラ…さまざまなハラスメントが社会問題となっている今、私たちはこれらの本質をどれだけ理解できているでしょうか。

「愛の熱血指導のつもりが…」「よかれと配慮したつもりが…」逆にハラスメントと受け取られ、途方に暮れているリーダーが増えていると聞きます。そこで職場でのコミュニケーション知識を「ワーキング・リテラシー」と称し、リアル実例集に、識者の意見を加えて、徹底解説していきます。

今回は、週刊誌『AERA』にて女性初の編集長を務められた、ジャーナリストの浜田敬子さんに『女性管理職がハラスメントリテラシーを身につけるべき理由』とのテーマで、現役トップリーダーが今、実感していることをお聞きしました。

浜田敬子さん
ジャーナリスト
朝日新聞社に入社、『週刊朝日』編集部を経て、『AERA』編集部へ。2014年に編集長に就任。’17年に退社し、オンライン経済メディア「Business Insider Japan」統括編集長に就任、現在はエグゼクティブアドバイザーに。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社文庫)。

現役トップリーダーに今、実感していることを聞きました|女性管理職がハラスメントリテラシーを身につけるべき理由

 

身を守るためではなく「よい仕事」をするため

私は朝日新聞社に入社したのち、週刊誌『AERA』にて女性初の編集長を務め、30年以上メディアの最前線で働き続けてきました。仕事を愛し、仕事で得られる達成感を愛し、人生を充足させてきたという自負があります。私と同じような気持ちで情熱的に働いてきたプレシャス世代の人々も多いのではないでしょうか。

ただ時は経ち、仕事はもちろん、プライベートをより充実させたいと考える世代が、時代を担い始めています。彼ら彼女らに私たちの価値観を押し付けることは、ハラスメントと呼ばれる行為につながりかねません。どう働くか、どう生きるかは一人ひとり違うもの。2018年に働き方改革関連法が成立し、2020年から続くコロナ禍の影響もあり、労働環境が激変していることは周知の事実です。「多様化する価値観を心から…受容する」。それがなにより大切な時代となっているのです。

もちろんそんなことはとうにわかっていて、すでに意識改革をし、世代間の垣根を越えるべく行動を起こしている人がほとんどでしょう。では、なぜそうするのでしょうか。ハラスメントで訴えられないため?時代においていかれないため?答えは「チームを組んでよりよい仕事をするため」ではないでしょうか。すべては、お互いの成長のためでありたい。私はそう考えているのです。

 

さて。さも理解のある上司のように語っている私ですが、実はこれまでいくつもの失敗を繰り返してきました。あれは朝日新聞社を退社し、新たなオンライン経済メディアを立ち上げたばかりの頃。確実に成長させなければと気負う私は、いい企画が浮かびしだい、平日週末時間を問わず、編集部員全員にアイディアを送っていました。もちろん「よかれと思って」です。そのことについて、部下たちから「プレッシャーになるからやめてほしい」と声が上がったのです。とてもショックでした。でも編集長と一編集部員とでは、熱量に差があるのは当たり前。その「一人ひとり違う」という事実を、何度も失敗し、学んできたのです。

そうやって私が身につけてきた、「ワーキング・リテラシー」とも呼べるコミュニケーションルールが3つあります。

ひとつ目は「理由を語る」。例えばニュースを扱う職業柄、やはり休日出勤を要するときもあります。そんなときは「なぜ必要か」をロジカルに説明する。すると相手の理解が得られやすくなるのです。

ふたつ目は「個別に語る」。例えば同じ時短勤務社員でも、16時きっかりに上がりたい人もいれば、18時前後まで働ける人もいます。「時短勤務社員がいるので、これから会議は朝10時からにします」という事例も、個別に語り合っていないうえでの過剰な配慮であれば、不審の連鎖を生むだけ。それがハラスメントの種になってしまうのです。

3つ目は「ポジティブに語る」。「あなたが追いかけてきたテーマだからぜひ任せたいけど、土曜の会見を取材できる?」など期待感と共に語る。すると相手のモチベーションを上げられることがわかりました。

それでも警戒心が強かったり、やる気が見られなかったり、マネジメントが難しいと感じる部下もいるでしょう。その場合、私は「この上司と付き合っていれば得」と思わせる努力をしました。この人と仕事をすることで成長できる、評価が上がる。その実感が伴うようになると、人は自ずとついてくるものなのです。

そして最後に。部下は思った以上にあなたの行動をよく見ているし、気にかけているし、言葉を重く受け止めています。ということは、苦労を重ねるあなたの姿を誰よりも見ている存在でもあるのです。だからこそ、自分が尊重されていると感じれば、素直に羽ばたこうとすることでしょう。難しい時代だと身構えず、自分を客観視するいい機会ととらえ、よりよい仕事をするために、共に未来を向いて歩いていきませんか。

 

PHOTO :
Getty Images
EDIT&WRITING :
本庄真穂、喜多容子(Precious)