「熱狂の日々がやっと過ぎ去った」…そんな感傷的な疲労感を抱いている英国民もきっと少なくないかもしれません。非日常の連続だったエリザベス女王(エリザベス2世)の逝去から国葬まで。世界が息を呑んで見守った葬儀で幕を閉じた服喪期間が過ぎ、通常に戻ったロンドンより、特別な10日間をプレイバックします。
終活まで完璧?エリザベス2世の偉大さを噛み締める
2022年9月8日、エリザベス女王がスコットランド・バルモラル城にて逝去。奇しくも96歳の君主にとって、今年は在位70年「プラチナ・ジュビリー」にあたる年でした。6月初旬には国をあげて祝賀イベントを開催し、その長きに渡る無私の奉仕を称えたばかりの出来事です。
21歳の誕生日に「私の人生が長くても短くても、生涯を国民捧げたい」と演説した通り、女王は死の2日前となる9月6日にリズ・トラス新首相を任命、組閣の要請まで済ませ旅立ちました。
公務をしっかり最期までこなした公人としての顔のほかに、今年2月にはカミラ夫人が「王妃と呼ばれるようになることが私の願いだ」との考えも示し、ファミリーである彼女への気遣いをみせたのも印象的。新国王とダイアナ元妃、カミラ王妃については女王自身も長年の懸念事項であったかもしれません。目の前の課題を精算し、まるで自分の死期がわかっていたようにも思える、すっきりとした散り際でした。
ブラックアウトする街で新国王の多忙な日々がスタート
国民に寄り添う「開かれた王室」を目指す改革者であった王女は、社会の空気をキャッチするのにも長けていたいわれています。ジェームズ・ボンドや「くまのパディントン」と共演、カラフルなファッションでも注目を集め、そのアイコニックな存在感はまさに「国民の母」。
英国時間の8日15:00過ぎ、その逝去の第一報がもたらされると、国じゅうに衝撃が走りました。それと同時にロンドンでは街じゅうの電子広告がブラックアウト、女王逝去の「2022年」が刻まれたポートレートにスウィッチ。一気に光を失った街で、新国王チャールズ3世の秒刻みのスケジュールが始まりました。
国王にキスする人も!温かい交流を繰り広げた献花
あらかじめ、逝去後の手順を定めていた「オペレーション ロンドンブリッジ」と「オペレーション ユニコーン」がスタート。「オペレーション ユニコーン(ユニコーンはスコットランドのシンボル)」は「ロンドンブリッジ」の一部で、スコットランドで逝去した場合に発動されるものだとか。
スムーズな流れのなかで行われた一連のイベントのなかでも、ロイヤルファミリーが各地の献花を見学し、市民とゆっくりと時間をかけて交流したことがたびたび話題に。多忙のストレスか、王位継承評議会などで短気な様子を見せていた新国王も、この場面ではフレンドリーな様子。また2年以上ぶりに、ウィリアム王子夫妻とハリー王子夫妻の4名が揃って登場するなど、印象的なシーンが繰り広げられました。
王室ファン感涙!兄弟が顔を揃えた行進と黙祷
英国の伝統を感じさせる儀式の数々が服喪期間に営まれました。表情ひとつかえず一糸乱れぬ動きの衛兵や、タータンチェックや赤、アニマル柄を効果的に配したスタイリッシュなユニフォームなど、厳かななかにも興味深い点も多く、夢中になった人もいるかもしれません。なかでも、とくにその凛とした美しさに感嘆したのが、女王の棺に従い新国王とそのファミリーが軍服(一部の人は諸事情により着ることが叶いませんでしたが…)で並んだ行進ではないでしょうか。
ある程度のピアノ学習者や音楽好きならきっとお馴染みの、メンデルスゾーン作曲の無言歌集『葬送行進曲』や、ショパン作曲ピアノソナタ第2番第3楽章『葬送』が繰り返し流れるなか、久しぶりにファミリーが揃い、ともに歩む姿が感動的。新国王の妹、アン王女の軍服姿のかっこよさにもハッとさせられました。
行進と同様に、エリザベス女王の棺の前で黙祷する儀式でも、兄弟が揃った様子に注目が。スキャンダルの多かったロイヤルファミリー、棺のなかの女王も嬉しかったのでは…と思わず想像してしまいます。
最長30時間の予想!ベッカムも並んだ一般弔問
14日午後から19日朝まで、ウエストミンスターホールに公開安置された女王の棺。最長30時間と予想された一般弔問には、サッカー元イングランド代表のキャプテン、デビッド・ベッカムも参列しました。VIP枠を使わず、13時間も一般の列に並んだとのニュースに驚いた人も少なくないのでは。
一時は待ち時間は24時間とされ、収容人数超えで受付を中断した瞬間も。週末に向け、ますます過熱するなか、私も18日18:00よりに列に加わりました。気温は10度をきり、じっとしていると震えが止まらないくらい寒いなか並び、翌日5時前に会場のウェストミンスターホールのなかへ。神聖な空気に圧倒されつつ棺に対面し、俄かファンでも感極まるエモーショナルな瞬間を味わいました。
30時間はかかりませんでしたが、周りの人と励ましあい、女王との繋がりを感じる素晴らしい旅を経験することができました。
高揚の後には空虚感が。新国王チャールズ3世の今後に期待
19日の国葬は天皇皇后両陛下も参列。世界じゅうに中継された葬儀は日本でも大きなニュースとなりましたよね。盛大で厳かな儀式の連続も、愛犬のコーギー2匹が見守るなかウィンザー城へのファイナルジャーニーを終え、棺の埋葬で幕を閉じました。
女王の思い出を語るとき、あげる人が多いのがコロナ禍でのスピーチです。今ではマスクしているのは観光客くらい、まるで「コロナのない世界」を生きる英国ですが、死者は20万人、3回のロックダウンを経験しています。状況が深刻化するなか、女王が国民に送った「We will meet again」という言葉に励まされた人も多かったと聞きます。
嵐のような非日常の10日間が過ぎた今、女王の不在になんとなく空虚なムードが街に漂っています。王室自体も26日まで喪に服し公務は行わないのだとか。最後の別れを告げた高揚の服喪期間を終え、日常に戻りつつあるロンドンからお伝えしました。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 神田 朝子