高級宝飾店が並ぶフランスはパリ・ヴァンドーム広場にある代表的なジュエリーブランド、ブシュロン。そのブシュロンが創業160周年を記念して、新たな形のエキシビジョンをパリの造幣局モネ・ド・パリで開催しました。
題して、「Vendôrama(ヴァンドラマ)」。その模様をレポートします!
「ブシュロン」ブランド創業160周年を記念したイベントに潜入!
「Vendôrama」とは、ヴァンドームとパノラマを合わせた造語です。
開催場所は、フランスの造幣局モネ・ド・パリ。ここは今でも記念硬貨を製作している現役の造幣局です。このエキシビジョンは、メゾンの歴史と技術、そして未来を語りかける、集大成的な内容になっていました。
創業者フレデリック・ブシュロンは1858年、パレ・ロワイヤル内のギャルリー・ド・ヴァロワにブティック1号店をオープン。ヨーロッパの貴族が次々と顧客になり、1867年にはパリ万国博覧会で革新的なジュエリーを発表、金メダルを授与されます。当時、万博は世界の最先端が展示される場であり、流行となって何回も開催される年があったほど。開催のたび、ブシュロンは賞を授与され、万博はブシュロンにとって、その技術力を発揮する格好の舞台となっていました。
1888年、フレデリックは出張に行く前に、愛する妻のために、蛇のモチーフのネックレスをお守りとしてプレゼントしました。ブシュロンの代表的なジュエリー「les Moments B」の誕生です。以降、蛇はメゾンにとって愛のシンボルという特別なモチーフとなりました。
こうしたメゾンの歴史を踏まえながら、本展覧会をつぶさに見ていきましょう。
メゾンの歴史とデジタルが融合。未来が見える「新しいエキシビジョン」
いざ、会場の造幣局のなかへ。特設会場へと向かうその通路には、大胆なグラフィティが。これは落書きではなく、このイベントのために特別に描かれたもの。若さやエネルギーを表したかったのではないでしょうか。グラフィティのなかには、ブシュロンのマスコット、”黒猫のヴラジミール”も描かれていました。
会場の中に入ると早速、デジタル技術を使った遊びの仕掛けが。アプリをスマートフォンにダウンロードして、下写真のように模様にかざすと、画面に黒猫のヴラジミールが登場して踊り出します。最後はするっと消えてしまいました!
最初の展示は、書斎風の演出。蛇モチーフのジュエリーが飾られています。
また、インタラクティブ映像として、万博の際に建てられた著名な建造物、プチ・パレの映像などが登場します。映像に手で触れると、本がめくられ、次のページに行く仕組みです。
職人がジュエリーをつくり上げる工程を説明するインタラクティブ・ビデオもありました。職人の位置から撮影しているので、見る人が作業台の前に座っているような感覚になります。原石を削ったり、メタルを磨いたり…。ジュエリーの製作には、熟練の技術が必要とされることが身近で体感できます。
お次は、メタルの玉をジュエリーの形にはめ込んで行く遊びのコーナー。ちょうど女優のシャーロット・ランプリングさんが参加していらっしゃいました。さすが世界的大女優、ブシュロンの顧客なのだそうです。
エキシビジョンの最後に待っていたのは、360度撮影。多数のカメラが360度取り囲んでいるなかで、ポーズをつけて撮影すると、まるで自分がくるくる回っているかのような画像が撮れます。デジタル技術を使ったリアルな遊びを、これほどまでに詰め込んでくるとは!
以上、さまざまなシーンでデジタル技術をふんだんに利用した、ユニークなエキシビジョンでした。
パリのラグジュアリー業界では現在、デジタルをはじめとする先端技術を、どのように利用し、どのように伝統と融合させてゆくか?が焦点になっています。
これまで手作業はコンピューターやデジタル技術とは真逆のもの、という考え方が主流でした。しかし、職人が何年も修行して身につけた技術を、3Dプリンターなどでたちどころに現実化することが可能な時代に。そうして、これらの先端技術を上手に取り入れることで、新しいブランドの道が開けるのではないか? という考えが、最近の傾向となっています。
このエキシビジョンはその方向性や、ブシュロンの今後の姿勢を物語っているように感じられました。
- TEXT :
- 安田薫子さん ライター&エディター