福岡に来ることがあれば、足を延ばして九州をぐるりと回ってほしいなと思います。福岡という街の向こうには、素敵な風景や深い歴史に育まれて、それぞれの町や農村で豊かな自然と向き合う生産者の皆さんがいます。おいしい食材がたくさん届く福岡には、九州中の想いがいっぱい集まってくるのだと感じます。その想いが詰まった食材を手にした料理人は、きっとウキウキと皿の上の料理や、食べたお客様の笑顔を浮かべながら準備を始めるんじゃないでしょうか。

今回ご紹介する「食堂セゾンドール」は、そんな豊かな食材を幸せの物語に奏でてくれるフレンチレストラン。食堂のような気取らない雰囲気の中、九州の魅力あふれる旬を楽しく皿に描いてくれるのです。

九州のおいしさを福岡から

「食堂」の場所は福岡市南区、高宮通り沿いにあるマンションの1階。その評判を聞けば重厚な店構えを想像しますが、ビルに馴染む白い外壁と最小限なアプローチは本当にさりげないもの。ゆるやかにカーブする窓に導かれるように小さな入口をくぐれば、シェフと客の笑顔があふれる温かい空間が待っています。

カーブするアプローチに注目。点される小さな灯りがこの日のメニューを知らせます。

厳選した食材をスペシャルな技術で提供しながらも肩肘張らずに気軽に楽しんでもらいたい、と「食堂」の想いをもつオーナーシェフは前山 仁さん。出身地である佐賀県呼子の町で、豊かな自然に囲まれながら地産地消のフレンチを14年間にわたって実践してきました。美しい海が目の前に広がり、緑豊かな山々を背景にしたレストランで故郷の魅力を伝えてきた前山さんですが、その食材を意識すればするほど、九州という素晴らしい風土の魅力をもっと描いてみたくなってきたそうです。2015年、その新しいステージに選んだのが福岡の街。九州中から届く豊かな食材の、それぞれのおいしさを丁寧に引き出して自由に食べてもらえたらと、フレンチの枠を超えた楽しみを描き始めたのです。

前山シェフ(右端)と心強いスタッフの皆さん

皿の上から始まる九州の旅

着席するとテーブルにはシェフが手書きしたメニューが1枚。それは九州各地から届く食材を、おいしく創造する物語の目次のようなもの。一人ひとりのメニューには食材と産地が記され、まるで九州を巡るような面白さ。さぁ、その皿の上の彩りから魅惑の九州旅行が始まります。

訪れた日のランチは、福岡・姫島のレンコ鯛と飯塚産そばの実の粥からスタート。地元・福岡の離島と内陸の素材が出合う面白さ、小さめの磁器に装う出汁の深みに実の粒感が食欲をくすぐります。次に呼子の地蛸と里芋が銅の器で登場。里芋はわさびと和えたムースになって、80℃でやわらかく蒸した蛸を引き立てます。続いて有明海の生海苔を贅沢に使った、真っ黒な見た目に驚くロワイヤル。今の季節しかできない生海苔の上品な仕上がりはまさに絶品です。さらに冬場が旬となる瀬戸内の平貝(タイラギ)をソテー、爽やかな蕪のソースで。こうして地物の魚介でこしらえた数品が序章になって、楽しい九州旅行へぐっと引き入れます。最初はビールで始めたドリンクも、すぐに日本酒で合わせるようになりました。「食堂セゾンドール」はワインに限らず全国の日本酒も豊富にそろえているうれしいレストラン。食材との相性を考えたラインナップはフレンチのイメージを遥かに超えています。

さて、ここでフレンチらしいフォアグラとトリュフの一皿へ。とはいえソースを使わずに、きな粉とクルミで覆う和風な装いで楽しませるのがセゾンドール流、次の温菜へスイッチする贅沢なアクセントです。紅い椀で現れた温菜は熊本レンコンと大分県大山町のなめこのポタージュ。とろとろなスープへ姿を変えたレンコンのおいしさ、ぷるんと肉厚のなめこも存在感バツグンです。続く唐津産の赤足海老のウニ焼きアメリケーヌは、ガラスの器に宝石を散らすように鮮やかな仕上がりに。さらにおいしい香りたっぷりに登場したのが呼子の甲イカをさまざまなキノコや松の実と合わせ、焦がしバターでソテーした一品。香ばしく、やわらかな甲イカとエリンギ、舞茸など多彩なキノコが奏でる深い味わいも楽しめる一皿です。

こうして次々に登場する料理に心弾みながら、知らなかった食材との出合いもうれしい。まさに九州の旅を楽しむような気分なのです。

九州を愛する物語

おいしい九州の旅もいよいよクライマックス。客を幸せな笑顔で送り出そうとシェフが物語の終盤に用意したのは、魚料理2品と肉料理、そしてデザートのエンディング。まずは対馬産穴子のロースト。口に入れた途端にふわっと消える絶品の穴子には、茄子を使った黒糖風味のソースを合わせてホッとする味わいに。続く五島産鰆は糸島の春菊とローストし、ケーパーと腐乳のソースで。最後に用意された肉料理は佐賀牛のランプ肉をグリルして、フォアグラとフォンドボーのソースを纏わせます。それぞれ食材の素晴らしさを引き出すために、火の入れ方や見えないところで小さな手間を惜しまない、そんな調理の姿勢こそシェフの想いの真骨頂。九州の食材を愛し、そのおいしさを最大に味わってもらおうとシェフやスタッフが想いを重ね、最高の一皿が次々に目の前に届けられる小さな食堂の物語。デザートとコーヒーを楽しむころには、この物語に感動するひとりとなっているのです。

「今日着いた五島のアラだよ。放血神経締めで届くんだ」。食事を終えて店を出る前に、満面の笑みで自慢の魚を見せてくれた前山シェフ。「九州の素晴らしい食材を、本当においしいままに食べてもらいたい。そのための手間は当たり前だよ」と、シェフの笑顔はまぶしいばかり。きっと次に来るときは新たな物語で再び幸せにしてくれるはず。まだいろんな食材に出合いたいからねと、シェフの意欲は留まることをしらない様子。熱いシェフの描く九州旅行は、まだまだ尽きることがないに違いありません。

福岡・姫島のレンコ鯛と飯塚産そばの実の粥。やさしく食欲をくすぐります
呼子の地蛸と里芋。驚くほどのやわらかさ
唐津産牡蠣ロワイヤル 有明産の生海苔の香り。真っ黒でとろとろ。鮮度バツグンンの日本一の海苔を楽しめます
瀬戸内の平貝のソテー 大根と蕪。かわいらしい色合いも嬉しい
フォアグラきなこクルミ
熊本レンコン 大山なめこのポタージュ。熊本と大分が食で出合う、コクも豊かなポタージュ
唐津赤足海老 ウニ焼きアメリケーヌ。珊瑚の海のイメージも感じさせます
呼子甲イカのソテー 松の実 焦がしバター。味わいを深める多彩なきのこの合わせ方が絶品
対馬穴子のロースト黒糖風味 茄子クリーム
五島鰆ロースト ケーパーと腐乳。秋から冬がおいしい鰆を五島から
佐賀牛ランプ肉のグリル ソースフォアグラ。やっぱり気持ちが華やぐ美しい色で登場
種子島産安納芋ランベルセ カカオの香り。最後は九州の南端、種子島自慢の甘い安納芋を使って

問い合わせ先

  • 食堂セゾンドール
  • 営業時間/12:00~L.O.14:30/17:00~L.O.21:00 不定休
    席数/20席
    メニュー/昼¥5,400、¥7,560/夜¥10,800円~
    TEL:092-524-0432
    住所/福岡県福岡市南区高宮1-3-32 高宮第2オークマンション1F

この記事の執筆者
熊本で情報誌の編集・制作に携わり、1990年に福岡へ。発展する街で人気タウン誌の編集・営業ディレクターなどを経て、2010年よりグルメマガジン「ソワニエ」制作チームとして福岡の「食」の魅力を発信中。2014年、『ふくおか手みやげ自慢』を発行。好きなもの:九州旅、路地散策、古民家、隠れ家、コーヒー、ウイスキー、日本酒、陶磁器、短距離走
WRITING :
鳥越 毅
EDIT :
安念美和子