目上の方からお金や品物を頂いた際など、メールや口頭の両方で使われる「頂戴する」という言葉。丁寧な表現ではあるけれど、取引先など目上の方に使っても大丈夫?と迷ってしまう人がいるかもしれません。今回は「頂戴する」という言葉を、例文を確認しながら復習しましょう。

【目次】

「頂戴」は改まった謙譲表現です。
「頂戴」は改まった謙譲表現です。

【「頂戴する」を正しく理解するための「基礎知識」】

■「読み方」  

「頂戴する」は「ちょうだい・する」と読みます。

■「意味」

「頂戴する」には主に3つの意味があります。
「受け取る」「もらう」の謙譲表現。
②「もらって飲食する」ことを表す謙譲表現。
③顔の上に捧げ持つこと。

①②のように、「頂戴する」は、相手から物を受け取る行為を、受け取る話者の側に立って述べるニュアンスを伴う謙譲表現です。ビジネスシーンでは相手に時間をとってほしいときなど、何かを「依頼」する際にも使われます。

■よくある「誤用」に御用心

「失礼ですが、お名前頂戴できますでしょうか?」といった表現を耳にすることはありませんか? 言うまでもなく、相手の名前は「もらう」ことはできません。名乗らない相手に対し、名前を尋ねる場面では、「恐れ入りますが、お名前をお聞かせいただけますか?」「失礼ですが、どなた様でしょうか?」などが適切なフレーズです。「頂戴する」は、名刺交換の際に頻繁に使わる表現です。


【「頂戴する」の「類語」「言い換え」表現】

■「受け取る・もらう」の謙譲表現として

・拝受する ・いただく ・賜る

「拝受(はいじゅ)」は、「受ける」の謙譲語。「受」は、受け取ったり与えられたりといった動作を意味する漢字です。「拝受」には、もらうだけでなく「与えられる」という意味合いもあります。「賜る(たまわる)」は、「もらう」の謙譲語と「与える」の尊敬語、ふたつの意味を持つ言葉です。

■「食べる・飲む」の謙譲表現として

・いただく


【「いただく」との違いは?】

動詞の「いただく」には複数の意味があります。

①頭にのせる。かぶる。また、頭上にあるようにする。
②敬意を表して高くささげる。頭上におしいただく。
③敬って自分の上の者として迎える。あがめ仕える。
「もらう」の謙譲語。
⑤「食う」「飲む」の謙譲語。

⑥苦労もなく、手に入れる。「今度の試合はいただいたも同然だ」
⑦《「小言をいただく」の意から》しかられる。小言をくう。また、しそこなう。

「いただく」は「頂戴する」と同じような意味で、目上の方に対して使用できる敬語です。
両者の違いは、「頂戴する」のほうがややかしこまった表現であること。「いただく」は汎用性が高く、ビジネスメールでも頻繁に使用されるのは「いただく」のほうかもしれませんね。


【「頂戴します」をさらに丁寧な表現にするには?】

「頂戴」という言葉自体が謙譲語ですから、「頂戴します」も、丁寧な敬語表現です。

「頂戴いたします」は、「頂戴」+「いたす(「する」の謙譲語)」+丁寧語の「ます」という構成です。「頂戴します」よりもさらに丁寧な敬語表現になっています。二重敬語では?と思うかもしれませんが、「頂戴いたします」は、二重敬語ではありません。

二重敬語とは、「ひとつの語において、同じ種類の敬語を二重に使ったもの」で、一般的に適切ではないとされています。「頂戴いたします」を例に考えると、「頂戴」は「もらう」行為が向かう相手に対する敬語<謙譲語Ⅰ>。そして「いたす」は、聞き手に対する敬語である〈謙譲語Ⅱ〉に相当します。敬語の種類が違うため、二重敬語にはならないのです。例として、あなたは上司から、取引先からもらったお土産を渡されたとしましょう。これに対し、「ありがとうございます。頂戴いたします」と返事をすることで、聞き手である上司への敬意と、土産をくれた取引先への敬意の両方を表すことができるのです。

「頂戴いたします」はとても丁寧な敬語表現です。裏を返せば、それほど年齢の違わない先輩や、親しい上司に対しては、少々仰々しい言葉だといえます。この場合は「頂戴します」や「いただきます」が適切です。


【「頂戴する」の使い方がわかる「例文」6選】

■「受け取る・もらう」の謙譲表現として

・「先日は結構なお品を頂戴いたしまして、ありがとうございました」
・「過分なお心遣いを頂戴し、痛み入ります」
・「まことに勝手ながらコンサートは中止となりました。チケット代として頂戴した代金は返金いたします」

■「食べる・飲む」の謙譲表現として

・「今日はもう十分いただきましたので、デザートは結構です」

■何かを依頼する文脈で

「頂戴する」は、相手から物を受け取る行為を、受け取る話者の側に立って述べるニュアンスを伴う謙譲表現です。相手に何かを依頼する文脈でも頻繁に使われます。

・「お忙しいところ恐縮ですが、お時間を頂戴できれば幸いに存じます」
・「申し訳ありませんが、体調不良のため数日のお休みを頂戴できますでしょうか」

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「頂戴する」は改まった席や文書でも使える正しい敬語表現です。「いただく」とほぼ同じ意味で使えるので、シーンに応じて使い分けるといいでしょう。「頂戴する」場面が多いのは、とても幸せなこと。美しい言葉遣いで相手への感謝を伝えましょう。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『敬語マニュアル』(南雲堂) /『すぐに使えて、きちんと伝わる敬語サクッとノート』(永岡書店) /『とっさに使える敬語手帳』(新星出版社) :