【目次】
【「お願いします」の使い方「注意点」】
■「意味」
「お願いします」の意味は、皆さんよくご存知ですよね。そもそも「願う」という動詞には、いくつかの意味があります。
1)神仏に、希望の実現することを祈る。
2)望みがかなうように請い求める。
3)こうしてほしいことを人に頼む。助力や配慮を求める。
4)公の機関に希望することを申請する。請願する。
5)商店で、品物を客に買ってもらう。「お安く―・っております」
6) 動詞の連用形や動作性のある漢語の名詞などに付いて、「…していただく」などの意を表す。
今回のテーマである「お願いします」の「願う」は、主に1〜3の意味で使われ、公私に関わらず相手に何かを頼んだり、依頼したり、あるいは困ったときの神頼みなど、さまざまな場面で使われています。また、顔を合わせたときに「本日はよろしくお願いします」と言ったり、別れ際やメール文の最後で「よろしくお願いします」と使うなど、目的をはっきりさせず、挨拶代わりとしても重宝に使えるフレーズです。
文法的には「お願いします」は、接頭語「お」+動詞の連用形「願い」+動詞「する」+丁寧語の助動詞「ます」から成り立っています。日本語の動詞の一部には、連用形がそのまま名詞化するものがあり、それに「お」をつけることで名詞のように使われています。「お願い」「お届け」「お祈り」「お参り」などが、それにあたります。「お願いします」の「お」は謙譲語として使われていますので、「お願いします」は、相手に何かを頼んだり、依頼したり、祈ったりする際に、丁寧な言い方として使われる、正しい敬語表現です。
■「使い方」
「お願いします」は正しい敬語表現ではありますが、敬度の高い表現ではありません。親しい間柄で使うのは問題なくても、目上の方や得意先などに対して使うには、少々丁寧さに欠ける印象です。では、具体的にどうすれば良いのでしょう。
いちばん簡単な方法としては、「します」は丁寧語ですから、ここを謙譲語に変えればよいのです。印象を和らげる表現として「〜ますでしょうか」「〜幸いです」を使うのもいいですね。
・お願いいたします ・お願い申し上げます ・お願いしたく存じます
・お願いできますと幸いです ・お願いできませんか ・お願いできますでしょうか
【依頼の際のそのまま使える「例文」】
日常生活からビジネスシーンまで、さまざまに「お願いします」のバリエーションを使った例文を紹介しましょう。
■1:「引き続きよろしくお願いします」
■2:「この件に対するご質問がありましたら、金曜日までにお願いします」
■3「〇〇さんにお伝えいただけますよう、お願いいたします」
■4:「施設の視察にご同行いただけますようお願い申し上げます」
■5:「ぜひともご出席をお願いしたく存じます」
■6:「お忙しいところ恐縮ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
6:はメール最後に使う定型文ですね。「お忙しいところ恐縮ですが」「恐れ入りますが」など、クッション言葉を活用すると、より丁寧な印象になりますよ。
また、「いたします」と表記する際は、「致します」と漢字では書かず、「いたします」のひらがな表記が正解です。この場合の「いたします」は補助動詞。公用語のルールでは、補助動詞はひらがな表記というルールがあるからです。
【「お願いいたします」は二重敬語?】
結論から言いますと、「お願いいたします」は正しい敬語表現です。
現在、日本語の敬語表現は「尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ・丁寧語・美化語」の5種類に分けられています。そして「二重敬語」とは、ひとつの語について、同じ種類の敬語を二重に使ったもの。例えば、 「お読みになられる」は 「読む」を「お読みになる」と尊敬語にした上で、さらに尊敬語の「……れる」を加えていますから、二重敬語となります。
「お願いいたします」に使われているのは「謙譲語Ⅰ」の「お」と、「謙譲語Ⅱ」の「いたす」です。「謙譲語Ⅰ」と「謙譲語Ⅱ」は別の種類の敬語ですから、二重敬語にはあたりません。似たような例は他にも、「ご説明いたします」や「ご案内いたします」「お待ちいたします」など、「お(ご)~いたします」としての表現がありますが、いずれも正しい敬語表現ですのでご安心くださいね。
【「お願いしたいです」のていねいな「言い換え」】
■お願いしたく存じます
「存じる」は「知る・思う」の謙譲語です。
また、別の表現もこの機会に覚えておきましょう。少々古風な表現ですから、会話ではなくメールで使用することをおすすめします。
■お頼みいたします ■所望します
【「英語」で言うと?】
敬意の高さによって、日本語の表現がさまざまあるように、英語表現の「お願いします」にもバリエーションがあります。
・Please come here. [=Come here, please.](どうぞこちらへ)
・Please pass me the salt.(塩を取ってください)
[please]は、お願いや依頼をする際、日常生活の中で幅広く使用されます。
・Could I have the bill?(お勘定をお願いします)
・Would you mind opening the window?(窓を開けていただけますか?)
[Could you…?]や[Would you mind…?]といった表現は相手に対して丁寧に依頼する際に使われます。相手が目上の方であれば[Would you mind…?]が適切ですね。状況に応じて使い分けましょう。
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度々、「二重敬語では?」と疑いの目を向けられる「お願いいたします」ですが、文化庁の「敬語の指針」では、【「謙譲語Ⅰ」兼「謙譲語Ⅱ」の一般形】として解説されている、正しい敬語表現です。とはいえ、敬語は難しいですよね…。「謙譲語Ⅱ」の代表例は、「 参る(行く・来る)」「申す(言う)」「いたす(する)」「おる(いる)」「存じる(知る・思う)」の5つですから、これを覚えておくのもひとつの方法かもしれません!「大人の語彙力」として、ご活用ください。
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- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/文化審議会答申「敬語の指針」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/keigo_tosin.pdf) :