トーンやくすみを補正し美脚をかなえるストッキングは女性にとって相棒とも言える存在。ちょっと高くても上質なストッキングを身につければ、見た目の美しさだけでなく、自信もアップしますよね。

そんな、働く女性たちに馴染み深いファッションアイテム「ストッキング」は、いつ、どのようにできたのか?に迫ります。

お話をうかがったのは、1920年に創業して以来、高品質な靴下を世に送り出す会社、株式会社ナイガイ。その本社内にある靴下博物館を、商品部門で企画開発に携わる土屋聡子さんに案内していただきました。

■ストッキングのはじまり

そもそもストッキングはどんな人物がはいていたのか? 現代においては、女性の物というイメージの強いストッキング。しかし、誕生したときは、意外な人たちが使うアイテムだったんです。

「ストッキングの歴史は、高い位の司祭や貴族が、手編みのシルクの長いストッキングをはいていたことから始まります。当時は、女性がはくためのものではなく、どちらかというと男性のアイテムでした」(土屋さん)

中世ヨーロッパの絵画のなかで、白いタイツのようなものをはいている男性が描かれているのを目にしたことはありませんか? 実はあれがストッキングの元祖なのです。当初のストッキングは、太ももまである長い靴下のような形をしていたんだそう。今でいうニーハイソックス?

エリザベス1世女王が初めて着用した手編みのシルクストッキング
エリザベス1世女王が初めて着用した手編みのシルクストッキング

こちらはエリザベス女王が初めてはいた絹のストッキング。「もう二度と布製の靴下ははきたくない」ともらすほど、気に入っていたのだとか。

■ナイロンの誕生で「戦後、女性とストッキングが強くなった」

シルク素材が主流だったストッキングが変わった大きなターニングポイントは、アメリカの化学会社の発明によると土屋さんは言います。

「1935年にデュポン社がナイロンを発明しました。これは、当時シルク糸の手編みが主流だったストッキングの歴史においても革新的な出来事だったのです。そして1940年5月15日、全米でナイロンストッキングが発売されます。この合成繊維の開発によってストッキングの強度は格段にあがりました」(土屋さん)

ただ、ナイロンで編み立てられるようになっても、庶民には手がでないほどの贅沢品だったのだそう。

1942年の白木屋のストッキング修理広告、ほつれ一本30銭と記されている
1942年の白木屋のストッキング修理広告、ほつれ一本30銭と記されている

「当時の女性たちは、ストッキングが伝線しても捨てずに修理店に出していたんです。修理店では電球にストッキングをかぶせ、ひと目ひと目縫い合わせていました。とても繊細なシルク繊維から丈夫なナイロン素材になったことを例え『戦後、女性とストッキングは強くなった』と新聞で言われていました」(土屋さん)

■ストッキングにバックシームがあった理由

FF機で編まれたナイロン(左)、シルク(右)の古いストッキング
FF機で編まれたナイロン(左)、シルク(右)の古いストッキング

1920年代より生産されていたストッキングは、バックスタイルに縦のラインがはいったものが一般的。昔の映画に登場するピンヒールに、シアーなストッキングを合わせたスタイルを思い浮かべる方もいるのではないでしょうか? 実はこのライン、単なるデザインではなく、機械の仕様によってできたものなのです。

「昔は『FF(フルファッション)』という機械で編み立てられていました。FF機は、今のように丸編みではないので、必ず後ろを縫製しなくてはなりません。そのため、バックシームがあるんです。しかし、時代とともに効率の悪いFF機から現在の丸編みに変わり、『シームレス』、つまり縫い目がないものになりました」(土屋さん)

1951年、東洋レーヨンがナイロンの生産を開始し、ナイロンがストッキング素材のシェアを占めるようになりました。日本でナイロンのシームレスストッキングが本格的に販売されるようになったのは、1961年のこと。公務員の初任給が14,200円だった当時、シームレスストッキングは500円と、この時代においても大変高価なものでした。

そして決してカジュアルなファッションに合わせるものではなかったストッキングは、機械化が進んだことで安価になり流通が増え、誰でもチャレンジできるファッションアイテムとして、広く利用されるようになっていったのです。

■憧れのアイテムで「自分の脚を美しく見せたい」

これまでのストッキングの歴史を見みてみると、これほど高価だったものをなぜ女性たちは求めたのか、疑問をもつ方もいるのではないでしょうか?

それは「脚を美しく見せたい」という思いが1番だったのではないか、と土屋さんは言います。

「パンプスを履くとき、ストッキングをはいていると足が痛くなりにくいし、靴も長持ちします。誕生したときこそ足の保護や保温など、肌着に近いアイテムだったけれど、1950年代は女性の憧れのアイテムとなりました。『自分の脚を自然に、綺麗に見せたい』。その思いを実現してくれるからこそ、ストッキングが浸透していったのだと思います」(土屋さん)

’60年代〜’70年代にかけ、ミニスカートブームが日本のファッションシーンを賑わせました。それを期にストッキングの需要が増え、爆発的に広がり現在に至ります。誰もがはけるようになるまで、長い時間を要したストッキング。その歴史には女性たちの夢や憧れがありました。

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高橋優海(東京通信社)