ビジネスシーンでは「皆さまのご協力のもとに、イベントは盛況のうちに終了いたしました」などと使われる「もとに」。「もと」を表す漢字は「元に」「基に」「下に」などがありますが、どれを使うのが正解なのか、迷ってしまうことも多いですね。今回はそれぞれの漢字がもつ意味と、使い方がよくわかる例文をご紹介します。

【目次】

「使い分け」に迷う漢字です。
「使い分け」に迷う漢字です。

【「元に」「基に」「下に」の「違い」は?】 

■「元」は「物事のはじまり」

「元」は「物事の起こり、はじまり」を意味します。「事件の元を探る」「うわさの元を質す」というように使われ、熟語には「元旦」「元来」「復元」「家元」などが挙げられます。「もと」と読む漢字のなかでいちばん使われることが多い語です。

■「基」は「物事の土台や基礎」「原因」

「基」は「物事の土台や基礎、根本、根拠」「原因」を表す言葉です。「医学の基を築く」「国の基を定める」のように用いられます。熟語には「基礎」「基板」「基幹」「基地」などがあります。

■「下」は「その影響の及ぶところ」

「下」は「物の下の部分」を指し、「その人のそば」や「その規則や支配力の及ぶところ」という意味で使われます。「上下」の「下」を意味する漢字で、熟語には「部下」「下手」「下段」などがあります。


【「もと」の「使い分け」がマスターできる「例文」12選】

漢字の意味を理解したら、例文を読んでみましょう。それぞれの語がもつニュアンスをイメージしやすいフレーズを覚えておくと、今後の「使い分け」に役立ちますよ。

■「元」を使った例文 

・「この棚の資料を使ったら、必ず元の場所に戻すようにしてください!」
・「フォルダーの中から加工前の元画像を探し出した」
・「火の元には十分注意してください」
・「住民票が元の住所のままだったことに気づいた」

■「基」を使った例文  

・「失敗は成功の基」
・「既存のビジネスモデルを基に新規事業を考案した」
・「取引先から渡された資料を基に新商品のパンフレットを作成した」
・「これまで培ってきた経験と知識を基に、新しい職場でも活躍の場を得たい」

■「下」を使った例文

・「厳しい規律の下で生活してきた彼は、今自由を謳歌している」
・「多くの方のご協力の下、イベントは盛況のうちに終了いたしました」
・「発案者である部長の指導の下、新商品の開発に力を尽くした」


【「元データ」「基データ」どちらが正解?】

「元」という語を『デジタル大辞泉』で検索すると、「 物事の起こり。はじまり」という意味のほかに、実は「物事の根本をなすところ。基本。(『基』とも書く)、「基礎。根拠。土台。(『基』とも書く)」とも書かれています。でも「基」の項目には「『元』とも書く」といった記載はありません。これがどういうことかといえば、「元」という語が「物事のはじまり」という比較的ゆるやかな範囲の意味を表し多くの場面で使用できるのに対し、「基」は「基礎。根拠。土台」という意味合いが強調され使われているのです。つまり、広い範囲で使える「元」という語に「基」という語の概念も含まれているといえます。

例えば企画書を書くにあたり、「企画書の土台となったデータ」という意味を強調するのであれば「基データ」が適切といえます。とはいえ、データが「企画書のもとになった(はじまりだった)」ことは事実ですから「元データ」との記載も間違いとはいえません。「○○を根拠にして」「○○を土台として」といった意味合いを強調する意図があるときには「基データ」とし、漠然と「もとのデータ」を意味するのであれば「元データ」でいいでしょう。


【ポイントまとめ】

■「元」の意味は「物事のはじまり」

■「基」の意味は「物事の土台や基礎」「原因」

■「下」の意味は「その影響が及ぶ範囲」

■「火の元」「失敗は成功の基」「ご協力の下」と使い分け

■「元」が使える範囲は広い。迷ったら「ひらがな表記」もあり。

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いかがでしたか? 「もとに」の漢字の使い分けは難しいものですが、ニュアンスは理解できたのでは? とはいえ、「ご協力の下」など、実はひらがな表記のほうが自然に読み流せるフレーズもあるものです。基本は押さえつつ、臨機応変に対応可能な頭の柔らかさも、「大人の語彙力」といえるのではないでしょうか。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) :