多彩なジャンルや業態の飲食店が無数に存在し、世界的に見てもエキサイティングな東京のフードシーン。そのなかでも、この連載ではニューオープンを中心に「今」行きたい、大切な「人」を連れていきたい、“大人のためのレストラン”にフォーカス。第10回は、2017年4月にオープンした西麻布の「龍眉虎ノ尾」をご紹介します。

中国料理で日本の四季を細やかに紡ぐ

大通りから1本入った場所に佇む、日本料理店を思わせる落ち着いた雰囲気の店舗。入り口にかけられた暖簾には「中国割烹」とあります。こちらが今回ご紹介する「龍眉虎ノ尾」。店内に入ってまず目に飛び込むのは、美しく磨きあげられた白木のカウンターと、清潔感のあるシックなしつらえ。割烹さながらの店内と思いきや、厨房には干し肉が吊るされ、カウンターの手前には乾物や香辛料の数々。加えて諸所に中国で購入してきたという調度品や壺、器が並び、改めてここは“中国”割烹であることに気づかされます。

店内入ってすぐのカウンター。席に着く前から、鼻腔をくすぐる麻(マー)と辣(ラー)の香りに期待が高まります。

「龍眉虎ノ尾」を展開するのは、「紅虎餃子房」「万豚記」などの人気チェーン店から「虎萬元」「白碗竹筷樓」といった高級店まで幅広いレンジをもつ中国料理をはじめ、さまざまな飲食店を経営する際コーポレーション。国内の直営飲食店だけで300を超える店舗をもつ会社が、日本の食材と中国の料理に改めて真摯に向き合うべくつくり出したのがこの場所です。

目指すのは、日本が誇る旬の食材で中国本来の料理をつくり、食で季節を感じる「歳時記」を表現すること。四季折々の行事や風物をまとめた歳時記は、もともと中国から日本に伝わってきたもの。同時に、日本古来の行事にも中国の思想を取り入れたものが数多くあるといいます。そこに息づくのは、細かな気候の移ろいに寄り添ってきた暮らしの知恵。いま健やかに過ごすには何をどう食すべきか。その思想を背景にもつ歳時記に倣い、月ごとに国内各地から選りすぐった旬の食材を使って「季節を感じる中国料理」を提供するのが「龍眉虎ノ尾」です。店名は、龍がまっすぐ前を見据え、虎が尾の先まで神経を行き渡らせているさまを表現したもの。料理長をはじめとする全スタッフが姿勢を正し、真摯に食に取り組む決意が表されています。

仕入れから接客まで、すべてに関わる喜び

昨年8月から料理長を務めるのは、18歳から中国料理ひとすじ、際コーポレーションでも「白碗竹筷樓」「胡同マンダリン」の料理長を歴任してきた長谷川哲男さん。着実にキャリアを積み上げてきた長谷川さんにとっても「龍眉虎ノ尾」での日々は初めて尽くしで、とても刺激的だと言います。

「龍眉虎ノ尾」2代目料理長の長谷川さん。実家のラーメン店を継ぐはずが、修業先の中国料理店でその奥深さに魅せられて進路を変更。特に乾物を戻す技術や調味料の扱いに感銘を受け、それを習得することが楽しくてどんどんのめりこんでいったそう。

「月替りのメニューを一品ずつ提供する割烹スタイルで、ディナーはコースのみ。会社にとって初の業態ですが、自分にとっても初めてのことばかり。なかでもいちばんの変化はカウンター。ずっと厨房のなかだけで料理をしてきた自分が見られる立場になり、さらに初めて接客をすることになりました。最初の頃はカウンターのなかでの歩き方ひとつからして、所作に悩みましたね。最終的には自分らしく自然体でという考えに行き着いたのですが、ほかを見ないと方向性も決められないと思って、さまざまなカウンター店に行って店主さんの動きや会話を学びました」

「この半年でお客様から学んだこともたくさんあります。つくる料理もがらりと変わりました。メニューの構成が単調にならないようにメリハリをつけながら、最後まで心地よく食べ切れるようボリュームを調整して。演出や盛り付けも同じで、例えば火鍋のようにダイナミックなものは、より大胆に。ダイナミックさは中国料理の魅力でもあるので、さらに強調します。逆に前菜やスープなど繊細な料理は余計なものを省いてシンプルに直球でお出しします」

魚や肉の産地など、メニューには北から南まで日本各地の名前がずらり。魚は長谷川さんがほぼ毎日築地で仕入れています。「仕入れから仕込み、調理、提供までひとりで担当するのは初めて。お客様の反応をダイレクトに感じることができて、すごく楽しいです。まだ試行錯誤の途中ですが、日々得たものを糧に1品1品の完成度をより高めていきたいですね」(長谷川さん)。

繊細に大胆に、メリハリのあるおまかせコース

北京と四川の料理を主体として、提供するディナーメニューは約12皿からなる月替りのコース全3種類。系列店内でも唯一にして最高峰の、ある意味実験的な業態といえる「龍眉虎ノ尾」。日本の季節を描き出す毎月のメニューは、基本的に代表取締役の中島 武氏が自ら考案し、料理長と相談して決め込んでいくのだとか。「ざっくりとしたコースの流れやメインとなる食材の指示を受けて、自分で細かく調理法などを決定していきます」(長谷川さん)。

前菜、湯(スープ)、主菜、主食、点心という中国料理のフルコースの流れを踏まえつつ、一品ごとにフォーカスしたい食材とその魅力をしっかりと打ち出した少量多皿のメニュー。取材した1月のコースは前菜が5品ほど、スープ、上海蟹、揚げ物、ふかひれ、魚料理、あん肝、水餃子、鮑、火鍋、点心、デザート(¥25,000の場合。コースの種類によって少しメニューが変わります)。

前菜の数々(実際は1品ずつ提供。また、いずれも3種類のコースすべてに登場)。左上から椎茸、木耳、百合の花のつぼみを合わせた「烤麩の煮〆」、「あん肝の赤酒蒸し」と青ねぎ、青山椒のソースをのせた「河豚とふかひれの煮凝り」、自家製XO醤を添えた「平目の腐乳漬け」、紹興酒に漬けた卵黄をソース代わりにした「鹿肉の紹興酒漬け」。器は中国で購入したものから日本の骨董、作家もの、洋皿とさまざま。

前菜には先に長谷川さんのお話に出た繊細な表現が生きています。青森の平目や北海道の蝦夷鹿など、国内から選りすぐった旬の食材をさながら割烹のごとく、丁寧に表現した小皿たち。「写真右下の平目は、ひと口めはそのままで、次にXO醤をつけて。ぜひふたつの味を楽しんでください」と長谷川さん。そうそう、おすすめの食べ方を料理長から直接教えてもらえるのも、カウンターの特権ですよね。

前菜の後に登場する「宮崎産雉の薬膳蒸しスープ」(¥20,000、¥25,000のコースで提供)。雉肉と干した天然の舞茸に、蓮の実、枸杞の実、夏草花など薬膳の食材を合わせた滋味深いスープ。

そして、続くスープこそ繊細を極めた一品。雉と金華ハムからスープを取るのに8時間。スープと食材を蒸しあげるのに1時間。じっくりと時間をかけて生まれる、クリアななかに食材の魅力がぎゅっと抽出されたスープです。「繊細という点で特に気を使っている一品で、すべてを心地よく食べ切っていただけるように考えています。以前は鶏やすっぽんを骨付きで入れていたこともありましたが、お客様の食べやすさを考えると、骨は必要ないかなと」(長谷川さん)。確かに一見具だくさんですが、それぞれ程よい食感を残しながら、あくまで優しい食べごたえと味わい。食べる側としても、コースの冒頭から頑張りすぎることなく、軽やかに次のお皿に進むことができます。

食事のフィナーレとして点心の前に登場する「龍眉虎ノ尾的火鍋」(¥20,000、¥25,000のコースで提供)。肉は猪、熊、和牛、羊など季節やコースに応じて変わります。写真は北海道産サフォークラムのもも肉。

名物の火鍋は、繊細と対極をなすダイナミックなプレゼンテーションの真骨頂。ゲストの目前で鍋を火にかけると、ほどなくして甘くスパイシーな香りが嗅覚を、色鮮やかな3種類の唐辛子(鷹の爪、小米辣、丸朝天辣椒)が視覚を、ぐつぐつと煮立つ音が聴覚を刺激します。北海道の十勝産マッシュルームと10数種類の漢方がスープに奥行きをもたらしているほか、強力な味の決め手になっているのは中国で購入した山西省の花椒。

「ほかにない爽やかな辛さと香りで、これがあるとないとでは大違い。車1台に積めるだけ積めて持ち帰りました(笑)」と長谷川さん。日本の食材で日本の季節を表現するといっても、提供するのは和食との折衷料理ではなく、あくまで伝統的な中国本来の料理。香辛料を始めとする現地の食材選びについても、経験と感性に裏打ちされた料理長の審美眼が光ります。

北海道産の希少な羊肉や熊肉、広島から届く猪肉、山形の和牛……。全国から届く目にも美しい極上の肉をここでしか味わえないスープでいただく喜びといったら……! 〆にはコシがありモチモチした手打ち麺が登場します。つるりと軽やかな喉ごしの麺と同様、コースのハイライトである火鍋の食後感も非常に爽やか。流れ、ボリューム、味のバランス、どれを取ってもいかに綿密に考慮されたメニュー構成であるかがわかります。

ソムリエが提案する、中国酒とワインのペアリング

取材した1月のコースに合わせたペアリング(8杯¥8,000)。左端から乾杯のシャンパーニュ、珍しい上海の老酒、希少なノンブレンドの甕熟成10年原酒100%の紹興酒、イタリアの白とロゼを挟んで日本酒好きも唸る「新政 純米大吟醸 見えざるピンクのユニコーン」。続いてアメリカ、オーストラリアの赤と、振り幅のあるラインナップ。中国茶によるノンアルコールのペアリングも可能(4杯¥3,000〜)。ワインはグラス¥1,500〜、ボトル¥8,000〜。

めくるめくコースにぜひ合わせていただきたいのがアルコールのペアリング。シニアソムリエや唎酒師の資格をもつサービス担当の水野浩太郎さんがセレクトするペアリングは、ワインが中心。シャンパーニュに始まり、基本はその後に老酒2種類、ワイン5種類。ときおり中国の白酒や日本酒が登場することもあります。「ふかひれ、鮑、火鍋など主役級の料理には、ふくよかさや熟成感があり単体でも存在感のあるワインをセレクトしています。’90年代のものをお出しすることも多いですね」と水野さん。

ワイン以外も珍しいお酒や希少な限定酒など、興味をそそられるものばかり。単品でも飲んでみたくなるお酒が少しずついろいろ味わえるなんて、ペアリングの楽しみが2倍、3倍に広がりますよね。中国酒で通したいという方もご安心を。「中国酒というと紹興酒のイメージが強いですが、赤ワインさながらの色をもつ黒米酒や燻製香が特徴的な老酒など、個性豊かなお酒がたくさんあります。テイスティングセットのような感じで老酒を少量で数種類お出しすることも。紹興酒以外の中国酒の魅力をもっと広めていきたいと思っています」(水野さん)。

昨年は2度、北京と四川の成都に研修に行き、現地の食文化の豊かさ、厚みに感動したという長谷川さん。「屋台から高級店まで、どの飲食店に行ってもお世辞抜きでおいしいんです。料理人はもちろん、食べ手のレベルも高いのだと思います。貪欲なまでに食を大切にする人々であることを再確認して、大きな刺激を受けましたね。自分も食べることが好きですし、一食の重みを考えて料理をしていきたいと痛感しました」。

「いま、お客様とコミュニケーションを取りながら料理を作ることが、楽しくて仕方ないんです。ディナーはコースだけなので時間もかかりますし、お支払いただく金額も高価になります。それに値する“非日常”をご提供するのが私たちの務め。自分が目指すのは、最後に“楽しかった”と言っていただける料理。飲食店なので『おいしかった』は当たり前。料理や雰囲気、自分との会話などのすべてが揃ってこそ、『楽しかった』という感想が生まれるんですよね。いかに『楽しい』非日常を味わっていただけるか。それを日々考えながら仕事するのがまた『楽しい』んです(笑)」(長谷川さん)。

「龍眉虎ノ尾」で出合えるのは、最高においしくて、最高に楽しい「歳時記」。五感で、心身で季節を味わう豊かなひとときがここにあります。

個室には龍が描かれた皿がずらりと並びます。大切な方々との集いや接待にどうぞ。

問い合わせ先

  • 龍眉虎ノ尾 
    営業時間/11:30〜15:00(14:00LO)、18:00〜23:00(最終入店20:30)
    定休日/日曜、祝日
    ランチはコースなし、ディナーはコースのみ(12皿〜¥15,000、¥20,000、¥25,000の3種類)
    カウンター10席、テーブル12席。個室あり(10名まで対応)
    TEL:03-3486-5560
    住所/東京都港区西麻布4-2-10 

この記事の執筆者
早稲田大学卒業後、アシェット(現ハースト)婦人画報社に入社。『エル・ジャポン』、『エル・ガール』、「エル・オンライン」編集部を経て独立。現在はフリーランスのエディター、ライターとして紙/Webの両媒体を中心に、主にファッション、フード、ライフスタイルのジャンルで活動。セレクトショップ「ドローイングナンバーズ」ではワイン&フードのセレクトも担当。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
PHOTO :
平松唯加子
EDIT&WRITING :
門前直子