「おいしいものって幸せになるなぁ」と、素直な笑顔になれるイタリアン。気取らない質のいいおいしさは、和食を楽しむときのそれに似ています。食事の後、ほのかな余韻を思い返す満足感は、雨の日なのにスキップするくらい気持ちを華やかにしてくれたほど。こんなうれしい出会いも福岡の楽しみだと改めて思います。

その店の名前は「Ristorante Stefano e Tomoko(リストランテ ステファノ エ トモコ)」。イタリア人シェフ、ステファノさんと奥様の知子さんが、奥様の故郷である福岡の地で実現した小さな夢のカタチ。ふたりの想いがあふれる店でした。

イタリアンレストラン「Ristorante Stefano e Tomoko(リストランテ ステファノ エ トモコ)」

大手門の路地で和風なイメージも感じさせる外観。

太陽の恵み豊かなイタリアのシチリア州で生まれ育ち、トスカーナ州のミシュラン2つ星レストラン「リストランテ・アルノフォ」、そしてミラノではトラサルディ直営の2つ星レストラン「リストランテ・トラサルディ・アッラ・スカラ」で、それぞれの洗練されたイタリア料理を学んだステファノさん。

2007年に来日後は「カノビアーノ東京」でチーフを、「エリオ・ロカンダ・イタリアーナ」でシェフを務めるなどイタリアと日本で素晴らしい実績を重ねて、夫婦の目標だった店を開くために福岡へ。九州の豊かな食材を得て、日々、全力で表現されるコース料理は、口うるさい福岡のグルマンたちも拍手を惜しまないおいしさだと伝わるようになりました。

バーの店主やグルメ好きな女性たち…街の人が噂していたイタリアン

店の落ち着いた空間は全部で18席、シェフの目がきちんと行き届く広さです。

「ステファノ エ トモコ」。店名にはふたりの名前がそのまま。それだけで温かな愛を感じます。そのレストランは2015年の春、市内中心部からちょっとだけ離れて大人たちが静かに集うエリア、中央区大手門に店を構えました。以来、同じ大手門にあるバーの店主やグルメ好きな女性たちが噂していたイタリアン。華やいだ話が聞こえていたので訪れて意外だったのは、しっとりと界隈になじむように落ち着いた店構えだったこと。街中に残された木造の一軒家を改装した外観は一見、和食店にも思うほど。中を覗けばすっきりと温かみある空間は「食事をゆっくりと楽しむ」、その大切な時間のためのシンプルな選択をされたのだと感じます。予約の際の丁寧なやり取りも思い出しました。

和食のように繊細なイタリアン

シェフのステファノ・ブルレッティさん。知子さんと一緒に夢を描く親日家。休日に家族で出かける食材探しも楽しいと話してくれました。

そう、「ステファノ エ トモコ」は“ステファノさん家(ち)の食事をご馳走になる”イメージ。ここで過ごす時間には“迎えられる”温かさがあります。料理の一つひとつにシェフの気持ちが込められて「どう? 元気でましたか?」と、話しかけられているかのよう。食事を楽しみながら大らかに流れていく時間やスタッフとのおしゃべりも、すべてがステファノさん家のおもてなし。アラカルトを置かず昼も夜もコース料理として提供するのは、その想いを皿に込めて食事の余韻までを楽しんでもらいたいからでしょう。些細なところまで気を配るシェフの心遣いがいっぱいなのです。

新春を迎えて初めてお客様を迎えるという日に、ランチを楽しみに伺うことにしました。「ステファノ エ トモコ」のランチコースは、特製前菜盛り合せ、本日のプリモピアット1、本日のプリモピアット2、メイン料理、デザート&ドリンクという流れ。まずは北イタリアのスプマンテをいただきながら静かに店に馴染みます。カウンターを挟んですぐ向こうには料理を仕上げるシェフの姿があって、今年最初のメニューにどんな料理を用意されたのかと考えると、勝手に盛り上がってしまいます。

前菜、パスタ、ラビオリ、メインのお肉、デザート…大充実のランチコース

最初の一皿は前菜の盛り合せ。オリーヴァ・アスコラーナ カボチャのソース/自家製レバーペーストのひと口サンド/ネギのキッシュ ポルチーニソース/ライ麦のグリッシーニ サンダエーレ産24か月熟成生ハム/エビのカルパッチョ バジルソース/チキンロール イチジクとフォアグラ包み、の全6品がワンプレートに装われて登場です。オリーヴァ・アスコラーナはグリーンオリーブの酸味を豚ミンチの肉汁がギュッと包み込むバランスとボリューム感がうれしく、レバーペーストのサンドはそれだけでワインが楽しめそう。ネギのキッシュには焼いたスペックがアクセントに添えられて味わいをグッと深め、グリッシーニは24か月熟成生ハムの濃厚な旨味を一緒に楽しみます。エビのカルパッチョは添えられたメロゴールドが爽やかにまとめて口直し、フォアグラといちじくを包んだチキンがしっかりと味わいを深めていきます。こうした前菜の一つひとつが豊かにおいしさを奏でながら和気あいあいと食欲を駆り立てる、なんとも贅沢な一皿です。

続いてのプリモピアット、1皿目はシェフ自慢のパスタ料理。1.5キロの小麦粉に卵30個を使うという自家製タリオリーニは、約2ミリ幅の細さながらコシのあるパスタの食感と、この日のソースであるイカの旨みをグイッと絡ませて濃厚なおいしさを一度に楽しませてくれます。皿の上にはイカスミを筆のように這わせ、玄界灘で水揚げされたイカのやわらかい身をたっぷりとソースに使用。上からカリカリのパン粉を纏わせた食感も楽しいパスタ。残ったソースはテーブルに届いた自家製パンをちぎってはイカスミと一緒にパクリ。皿の上をきれいにするのも満足です。

プリモピアット2皿目は、かわいらしい姿に目を輝かせてしまうラビオリです。丸い形のラビオリにはリコッタチーズが包まれ、鮮やかなトマトソースにもリコッタチーズのクリームをとろり。南イタリアの郷土料理「ンドゥーヤ」で香りづけしたオイルが優しい味わいのソースにアクセントを加えています。かわいい姿の丸いラビオリを口に運ぶ度に何だかうれしくなってしまう、食事そのものを子どものように楽しめる一皿に、気持ちも優しくなるのです。

そしてメイン料理は宮崎産のきなこ豚のオーブン焼きにシナモンとリンゴのソース。肉質のいいきなこ豚は、火の入れ方も絶妙で脂の旨みがしっかりと伝わるやわらかさ。リンゴソースの酸味や甘さとのバランスも楽しいメニューです。添えられたホウレン草や甘く煮込んだ安納芋、点在させるように小さな菊芋もやわらかく蒸して、それぞれがメイン料理を引き立てています。そこに「実はこの皿、日本庭園の景色を見立てているんです」と、さりげないシェフのひと言に驚き。確かにソースは石庭のように流れ、緑は庭の背景の山々のようであり、菊芋や安納芋はまさに庭石のように配置されている! 一つひとつの素材はしっかりと味付けまで吟味され、仕込みの手間もうかがえる緻密さに加えて、仕上げが情緒豊かな和の世界観。シェフはどれだけ日本を愛しているんだと驚かされる、まさに和食のように繊細なイタリアンなのです。

食事をすっかりいただいた終わりには蜂蜜のババロワをデザートで。蜂蜜のゼリーにイチゴを詰めて見た目も華やかに、塩キャラメルやピスタチオのソースを垂らした姿がひと足早い春の庭を思わせます。

 特製前菜盛り合せ。6品のそれぞれのおいしさとバランスの良さに実力を知るワンプレート。
プリモピアット1品目は自慢のタリオリーニ。旨みたっぷりのソースに絡むパスタの食感が素晴らしい。
プリモピアット2品目、かわいらしいリコッタチーズのラビオリ。見ただけで優しい気持ちになれます。
メイン料理のきなこ豚のオーブン焼き。付け合わせの野菜と一緒に描いた日本庭園のイメージに脱帽です。
デザートは蜂蜜のババロワ。イチゴを乗せた華やかさが春が近いと伝えます。

かわいい誘い文句に約束を

こうして、とある日の“ステファノさん家の食事会”は最後まで満足のおご馳走。おいしかった! と笑顔で話しかけると、親しく笑顔を返してくれたステファノさん。これだけのクオリティーを普段に出してなお、すぐさま夜の仕込みに取り掛かる姿に、料理や食材に対して真摯に向き合うシェフの想いを感じます。それはきっと日々の仕入れや自ら集めた食材で、どんな料理をどんなふうに振る舞おうか、きっとシェフ自身が楽しんでいると思うのです。

店を出る際にシェフに「今日はどれが好きでした?」と尋ねられたので、「全部!」と迷わず答えたら、フフっと微笑んで「まだ出してない料理がありますよ」といたずらに笑うのです。「僕が得意なリゾットは夜に出すんです」と。もちろん、次は夜のコースに。雨の降る午後も気分は晴れやか、またゆっくりとステファノ家に食事に行こうと思う帰り道でした。

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この記事の執筆者
熊本で情報誌の編集・制作に携わり、1990年に福岡へ。発展する街で人気タウン誌の編集・営業ディレクターなどを経て、2010年よりグルメマガジン「ソワニエ」制作チームとして福岡の「食」の魅力を発信中。2014年、『ふくおか手みやげ自慢』を発行。好きなもの:九州旅、路地散策、古民家、隠れ家、コーヒー、ウイスキー、日本酒、陶磁器、短距離走
WRITING :
鳥越 毅
EDIT :
安念美和子