ちょっといい雰囲気になっている人に「月が綺麗ですね」と言われてドキっとする人は、例の話をご存知ですね。例の話とは、かの文豪が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したとか訳さないとか…という話。今回は、緊張するビジネス会話を和ませたり、雑談に使えそうな、美しい日本語訳をご紹介します。
【目次】
【「月が綺麗ですね」がなぜ?「意味」や「由来」など基礎知識】
■「月が綺麗ですね」の意味
言葉通りの意味のほか、「I love you」を意訳したものだといわれています。
■「月が綺麗ですね=I love you」の由来
明治・大正時代に活躍した文豪・夏目漱石は、処女作『吾輩は猫である』を執筆する前、東京高等師範学校や愛媛県の尋常中学校で英語教師をしていました。その時代に「I love you」という英文を、「我君を愛す」や「僕はそなたを愛しく思う」などと訳した生徒に、「日本人はそんな直接的な愛の言葉は使わない。“月が綺麗ですね”とでも訳しておきなさい」と言ったとか。日本人の奥ゆかしさが感じられるエピソードですが、実は都市伝説という噂も…。エビデンスとなる資料などはないのですが、ロマンチックで美しい意訳ですよね。
【「月が綺麗ですね」と言われたら…どう返す?】
■OKの場合
その気がある相手からの文学的な告白には、文学で返してみてはいかがでしょう。ドラマなどでは夏目漱石訳(といわれている)の「月が綺麗ですね」には、二葉亭四迷訳の「死んでもいいわ」がセットで使われることも。これは、ロシア人作家ツルゲーネフの小説『片恋』のセリフ「Yours」を、「私はもうあなたのものよ」ではなく「死んでもいいわ」とした名訳です。
■NOの場合
その気がない相手なら…気づかないふりで徹底的に無視するのも一手。あっさりと「綺麗ですねー!」と返して終わりにしましょう。
【「月」や「雨」にまつわる美しい日本語も!】
さまざまな言葉を駆使して形容したり、例えるのは日本語の魅力です。和歌や俳句などからもわかるように、日本人は昔から言葉を繊細に操ってきました。「月が綺麗ですね」は告白のフレーズでしたが、「月」や「雨」にまつわる、情緒たっぷりな言葉をご紹介します。
■薄月(うすづき)
薄い雲に遮られながらもほのかに照る月、ぼんやりと見える月のことで秋の季語。同じように見える「朧月(おぼろづき)」は春の季語。
■星月夜(ほしづきよ)
晴れた空に、星の光が月の輝きのように明るく見える夜のこと。
■寒月(かんげつ)
冬の寒い日、夜空に冴えわたる月のこと。煌々(こうこう)と輝くさまが寒さを増長させるような月。
■弄月(ろうげつ)
月を弄ぶ(もてあそぶ)、つまり月を眺めて楽しむ様子。
■小糠雨(こぬかあめ)
米糠の細かさから転じて、ごく細かいことを表わす「糠」に「小」を付けることで、大変細かな雨を表現した言葉。気象学では「霧雨(きりさめ)」はひとつの雨粒が直径0.5ミリ以下とされていますが、「小糠雨」に定義はありません。「霧雨」より「小糠雨」のほうがより情緒がありますね。
■慈雨(じう)
「慈」とは慈しむや情けをかけるという意味で、「慈雨」は恵みの雨を表します。
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今回は、“大人の語彙力”や“教養”として知っておくべきでは…と、ビジネス会話からは外れたロマンチックなフレーズを取り上げました。日本語の響きや字面の美しさに心潤う…そんな大人でいたいですね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『今日から役に立つ! 使える「語彙力」2726』(西東社) :