芥川賞作家・綿矢りささんによる短編集『意識のリボン』。人生における何気ない出来事に着目した表題作を含む8編を収録した、綿矢さんの新たな境地を感じさせる作品です。

華々しい履歴ではなく、ちょっとした出来事にこそ人生の気づきがある

ママのお腹の中の記憶を拙い言葉で話す二歳の私と、それに優しい声で答える母親。温かなシーンから始まる表題作『意識のリボン』はしかし、思わぬ展開を見せる。綿矢さんがこの作品で書いた「これからもずっと考えていきたいテーマ」は、死の淵に立つ主人公に湧き上がった記憶の中にある。

「日常生活にとらわれない尺で人生を見る、ということを書いてみたかった。以前、“自分にだけではなく、人にも人生があることに気づくのが走馬灯だ”ということを読んだことがあって、すごく理解が深いな、と。“母親には母親の人生があったんだな”って」と、綿矢さん。

綿矢りささん ©篠原宏明

そして、つくづく思う。人生とは結局、個人的でささやかなことの積み重ねなのだ。

「人生のめぼしい出来事って、就職や結婚といった、社会基準のことだと思いがちですよね。でも、走馬灯で浮かんでくるのは、もっと個人的な履歴なんじゃないかと思うんです。私なら、大学時代には本を出してもらうなどいろんなことがあったけれど、“一人暮らし用のちっちゃいこたつ買ったな〜”とか(笑)。そういうちょっとしたことのほうにこそ、気づきがあると思う」と、綿矢さんは語ります。

17歳でデビュー、19歳で芥川賞を受賞して、作家生活も15年。今後書いてみたいのは、「ツッコミがいない小説」なのだとか。

「主人公が自分にツッコムことで客観性を出してきましたが、もうええやないか、って(笑)。ひたすらボケたおして、読んでるほうも書いてるほうも不安になるような、タガの外れた小説を書いてみたいです」

綿矢りささん
作家
(わたや りさ)1984年生まれ。高校在学中に『インストール』で第38回文藝賞を受賞しデビュー。2004年、『蹴りたい背中』で芥川賞受賞。ほか受賞多数。『勝手にふるえてろ』が映画化、現在公開中。

『意識のリボン』

著=綿矢りさ 集英社 ¥1,300(税抜)
STORY
結婚前後の気持ちを綴った『履歴の無い女』から、「文章との相性がよく、リズムが出る」という怒りの感情を書いた直近作『怒りの漂白剤』まで、表題作を含む8編の短編を収録。新たな境地を感じさせる。
PHOTO :
篠原宏明
EDIT&WRITING :
剣持亜弥(HATSU)
RECONSTRUCT :
難波寛彦