芥川賞作家・綿矢りささんによる短編集『意識のリボン』。人生における何気ない出来事に着目した表題作を含む8編を収録した、綿矢さんの新たな境地を感じさせる作品です。
華々しい履歴ではなく、ちょっとした出来事にこそ人生の気づきがある
ママのお腹の中の記憶を拙い言葉で話す二歳の私と、それに優しい声で答える母親。温かなシーンから始まる表題作『意識のリボン』はしかし、思わぬ展開を見せる。綿矢さんがこの作品で書いた「これからもずっと考えていきたいテーマ」は、死の淵に立つ主人公に湧き上がった記憶の中にある。
「日常生活にとらわれない尺で人生を見る、ということを書いてみたかった。以前、“自分にだけではなく、人にも人生があることに気づくのが走馬灯だ”ということを読んだことがあって、すごく理解が深いな、と。“母親には母親の人生があったんだな”って」と、綿矢さん。
そして、つくづく思う。人生とは結局、個人的でささやかなことの積み重ねなのだ。
「人生のめぼしい出来事って、就職や結婚といった、社会基準のことだと思いがちですよね。でも、走馬灯で浮かんでくるのは、もっと個人的な履歴なんじゃないかと思うんです。私なら、大学時代には本を出してもらうなどいろんなことがあったけれど、“一人暮らし用のちっちゃいこたつ買ったな〜”とか(笑)。そういうちょっとしたことのほうにこそ、気づきがあると思う」と、綿矢さんは語ります。
17歳でデビュー、19歳で芥川賞を受賞して、作家生活も15年。今後書いてみたいのは、「ツッコミがいない小説」なのだとか。
「主人公が自分にツッコムことで客観性を出してきましたが、もうええやないか、って(笑)。ひたすらボケたおして、読んでるほうも書いてるほうも不安になるような、タガの外れた小説を書いてみたいです」
『意識のリボン』
- PHOTO :
- 篠原宏明
- EDIT&WRITING :
- 剣持亜弥(HATSU)
- RECONSTRUCT :
- 難波寛彦