「“感情”は飼いならしてコントロールできてしまったら、面白くない」鈴木亮平さん
――インタビューVol.2では、映画『エゴイスト』撮影時のエピソードをたくさん伺いました。お芝居を始めて20年の節目を越えられたという鈴木さんの、俳優人生の分岐点となった作品について教えてください。
分岐点になった作品はたくさんあるのですが、連続テレビ小説「花子とアン」を今日はあげたいと思います。このドラマで脚本家の中園ミホさんと出会って、自分のことを世の中に知っていただいたことがひとつの分岐点となりました。中園さんとはその後、大河ドラマの「西郷どん」でもご一緒させていただいているのですが、ある意味、僕にとっての恩人のおひとりなんです。自分では見えていない自分を見てくださっている気がして、お会いするたびに見透かされているような気持ちになります。両方ともこれまでしてきた仕事の中で撮影期間が最も長く、思い出深い忘れられない作品です。
――以前インタビューで、鈴木さんが今後身につけたいスキルとして「もっと客観的に見ながら、入り込めるようにしたい」とおっしゃっていたのがとても印象的でした、今演じる上で大切にしていることは何ですか。
自分自身を客観的に見つめてコントロールしていくということはお芝居においてとても重要なので、作品やシーンごとにそれぞれ適したコントロールをしたいと思っています。感情を爆発させるのはどちらかといえば簡単なので、爆発させないようにコントロールしていくさじかげんに表現者としてのセンスが問われるんじゃないかなと思っているんです。
でも今回の『エゴイスト』ではその“客観”をかなり減らすように心がけていました。浩輔自身は“客観の人”ですが、演じる僕自身はその量を少なくして“そのままその場にいる”ようにしたつもりです。対照的に、絵的なことが重要になるアニメ原作作品であったりする場合には客観がより必要になってくるので、その量を増やしたりします。状況に応じて、そのさじかげんを変えながら演じることを深めていきたいと思っています。
とはいえ、じゃあ普段自分が感情をコントロールできているかというと、そううまくはいかないですよね(笑)。演じることは自分の気持ちをコントロールしたり、いじったりするような作業ですから、本当は精神的にはあまりやってはいけないことをしているのかもしれない、という気持ちもどこかにあります。それで撮影中は少し感情の起伏が激しくなったり、逆に抑えられる感情も出てきたり。しかも結局のところ、感情は飼いならすことができないものなんじゃないかな。飼いならしてコントロールできてしまったら人生も演技も面白くないですし。だから「感情をコントロールしない!」って決めるときもあっていいんじゃないかなと思っています。
――朝ドラや大河のように長期間にわたって同じ人物を生きる場合は、撮影終了後につくりあげた人物造形を一度リセットされたりするのでしょうか?
積み重ねるタイプですかね、僕は。だって、ゼロにしてしまったら面白くないです。人は自分の人生を一度しか生きることができませんが、僕たち役者はサラッとだけでもいろいろな人の人生を生きることができる。そこはこの仕事の楽しいところで、忘れてしまったら醍醐味がない気がします。もちろんリセットするタイプの人も多いと思いますけれども。
――『エゴイスト』の撮影終了後も、引き続きLGBTQ+について学ばれているとお聞きしました。昨年、関連イベントにもサプライズ登壇されたそうですね。
勉強といってしまうとおこがましいですが、自分たちが生きている社会の話で人権に関わることですし、海外の状況もどんどん変わっていくので、引き続ききちんと知っておきたいと考えています。たとえば自分が今回の役を演じたことは、同性婚法制化の議論に対して真剣に考えてみるきっかけにもなりました。それはどのような役のときも同じで、演じる人への関心や共感みたいなところは大切にしたいです。きっと演技というものに出合わなかったら、ここまでいろいろなことに関心をもつことはなかったかもしれませんね。
――この5年はパラアスリートに取材を行う連載企画もお持ちでした。人への関心や共感という意味において、それらの現場で鈴木さんはどのようなものをキャッチされたのでしょうか。
これも本当に、そうなんです。パラアスリートと接してみていちばん感じたのは“パラスポーツって単純に面白い”ということでしょうか。車いすバスケって、バスケができない人がしているのではなく、選手たちも観客も、車いすバスケが面白いからやっているし応援している。選手たちは本当に超人なんです。NBAの試合を見ているのと同じような凄さや迫力があるんですよ。
インタビュアーとしての立場から振り返ってみると、たとえば病気やケガなどによる後天的な障がいからパラスポーツの世界に飛び込んだパラアスリートの方の場合、多くの方が人生における大きな挫折感を味わう時期を経験していて、そこでパラスポーツと出合っているんですね。そこから競技にのめり込み、活躍して、スポットライトを浴びる舞台に上がっている。彼らの人生の振り幅がものすごく大きいだけに、応援するこちらが受ける感情のインパクトもひときわ大きいというのも僕が感じたところでした。みなさん気持ちが強いし視野も広い。チャレンジングな人生だからこそのメンタリティの強さに敬服しました。
――映画『エゴイスト』は、本当の愛とはなんなのか、そのあり方について考えるきっかけにもなる作品だと思います。映画を観た人が観終わったときに、どのような言葉をかけてあげたいですか。
それは考えたことがなかったですね。『エゴイスト』は浩輔という人物の人の愛し方がテーマではありますが、僕は浩輔がいかに人に愛されて生きて来たかということにも思いを馳せてみてほしいと思っています。龍太という素晴らしい恋人に出会えて、龍太の母の妙子さんにも“自慢の息子よ”と言ってもらえた。彼自身は自分の中でいろいろと失うものがあるけれど、実は幸せな人だったとも思えるストーリーであると思います。
大切な相手を失って悲しいのは、自分が愛していることもあるけれど、相手が自分のことをどれだけ愛してくれていたのかを知っているからこそ悲しいんですよね。一方通行の片思いの相手を失うときと、相手も同じだけ自分のことを愛してくれた人を失うときでは、やっぱり違うと思うんです。そのことを感じていただければ。僕自身はすごく救いのあるストーリーだと思っているので、これが何かしらのヒントになってくれれば幸いです。
■― 愛は身勝手。― 映画『エゴイスト』本日、2月10日ロードショー!
■あらすじ
14 歳で⺟を失い、⽥舎町でゲイである⾃分を隠して鬱屈とした思春期を過ごした浩輔。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、仕事が終われば気の置けない友人たちと気ままな時間を過ごしている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである⺟を⽀えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太。自分を守る鎧のようにハイブランドの服に身を包み、気ままながらもどこか虚勢を張って生きている浩輔と、最初は戸惑いながらも浩輔から差し伸べられた救いの手をとった、自分の美しさに無頓着で健気な龍太。惹かれ合った2人は、時に龍太の⺟も交えながら満ち⾜りた時間を重ねていく。亡き⺟への想いを抱えた浩輔にとって、⺟に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし彼らの前に突然、思いもよらない運命が押し寄せる――。
■原作:高山真「エゴイスト」(小学館刊)
監督・脚本:松永大司
脚本:狗飼恭子
音楽:世武裕子
出演:鈴木亮平/宮沢氷魚/中村優子/和田庵/ドリアン・ロロブリジーダ/柄本明/阿川佐和子 ほか
配給:東京テアトル
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- PHOTO :
- 高木亜麗
- STYLIST :
- 臼井崇(THYMON Inc.)
- HAIR MAKE :
- 宮田靖士(THYMON Inc.)
- WRITING :
- 谷畑まゆみ