「『愛ってエゴなんじゃないか』というテーマは、僕自身も思っていたこと」鈴木亮平さん
鈴木亮平さんに“著者の素顔を知らなければ、演じてはいけない気がする”と思わせるほどの強烈な魅力を放つ小説『エゴイスト』は、作者である高山さん自身の経験をもとに展開されている作品です。主人公の浩輔(鈴木亮平)は14歳で母を亡くし、同性愛者である自分を世間から隠すようにして田舎町で思春期を過ごします。社会人となってからは東京でファッション誌の編集者として働き、本来の自分らしく自由にふるまい人生を謳歌するシーンが映画冒頭に流れます。ハイブランドの服を身にまとい、どこか虚勢を張りながら生きる浩輔の人生を大きく変えていくのは、シングルマザーである母を健気に支えながら暮らす天真爛漫な龍太(宮沢氷魚)との出会いでした。
――原作は実在の人物による自伝的な小説ということで、主人公とその恋人の思いも寄らない顛末や、恋人の母親との親愛の情が描かれています。作品のオファーが来たときはどのような感想をもたれましたか?
初めて読ませていただいたときに、すごく感動しまして。なんていうんでしょうね。著者の高山さんが自分自身に起こった幼少期の出来事やご自身の人生というものを、全部さらけだす覚悟をもって書かれているんだなということが強く伝わってきたんです。それと同時に、高山さんがご自身を常に客観的に見るくせのようなものをもっていらしたことが僕にはすごく興味深くて。
――どのような部分が鈴木さんの琴線に触れたのでしょう。
たとえば彼は「自分が今こんなふうに考えていることは、本当に正しいのだろうか?」と、常に哲学的に自問自答しながら自分自身を分析しているんです。そして、それを少しふかんしたところから冷静に見つめる様子が文章からも読みとれる。俳優もそれに近い感覚をもっている気がしますので、高山さんがその視点をそのまま小説に落とし込んで書かれているところに親近感をもち、興味深く感じました。また、偶然大学の同窓の先輩だったことにもご縁を感じましたね。誰かに“これはやるべきだ、やれ”と言われているような気がしたのです。
――書籍には鈴木さんの書かれた「あとがき」も掲載されていて、心のこもった文章から高い熱量とリスペクトが伝わってきました。鈴木さんの心をそこまで突き動かしたのものとは、何だったのでしょう。
この作品に流れている「愛ってエゴなんじゃないか」というテーマは、僕自身もずっと思っていたところなんです。エゴとか偽善って一般的に悪いイメージがありますけど、その結果、誰かが幸せになるんだったら、それは果たしてエゴや偽善と呼べるものなのかな?と思っていまして。
たとえば僕がいちばん惹かれたのは、浩輔という人物が恋人の龍太にも、龍太のお母さんの妙子さん(阿川佐和子)にも、献身的に愛を注ぐところなんです。どちらの愛にもおそらく、今はこの世にはいない自分の母親への果たせなかった想いが投影されていて、だから母を支える龍太にも療養中の妙子さんにも愛を注ぎたかったのではないかと、そんなふうに捉えました。
――実際に演じられてみたとき、浩輔はどのような人物だと思われましたか?
まず、強い人だなあと思いました。もちろん、繊細でとてももろい部分ももっているんですけれど、生まれた街を自分から捨てて、東京で自らの手で人生を切り拓いていくたくましさや強さがある。生まれ育った街ではゲイとしてのセクシュアリティを公表して生きていくことはできなかったけれども、東京で大学に進学して自分がプライドをもてる仕事に就いてお金を稼ぎ、ゲイの友達もそうでない友達もたくさんつくって、いわゆる“勝ち組として自分は生きて行くんだ”という浩輔の強さは、ブレてはいけないと思いました。
一般的に物語ってどうしても、人間の弱い部分やもろさを見せることで感動させるというテンプレートがあるじゃないですか。確かにそれはそれでシンプルだし、力強いとは思うのです。でも今回はそうではなくて、この人の強さをリスペクトしてこの映画はつくるべきだし、救いのある物語にするべきだなと。それが亡くなられた高山さんに対する敬意でもあると考えたのです。
撮影中にこんなことがありました。本当だったら浩輔の心は張り裂けんばかりで今にも泣きそうなんだけれども、そこをグッと抑えるのが彼という人物なので、現場で監督にも“それが見たい”と言われました。“感情に身をゆだねないで欲しい”と。ですから僕も泣きそうになるところをこらえて、すっと前に立ち向かっていく彼の強さを意識しながら演じたところはありました。
「高山さんの描いた浩輔という人物のリアリティ”も追求したかった」(鈴木亮平さん)
――映画前半は、浩輔と龍太が互いに惹かれあう様子やその延長にあるベッドシーンがとても自然で瑞々しい印象を受けました。今回さまざまなリサーチを重ねて役づくりや準備をされたそうですが、最も大変だったことは何でしたか。
そうですね。いちばんは浩輔というキャラクターを演じるときのさじ加減でした。演じるにあたって、高山さんの書籍やブログを読ませていただいたり、ゲイカルチャーや編集者という職業について調べたり、当事者の方へのインタビューなどを行いました。さらに高山さんと生前に交流をもっていた方やご遺族など近しい方々にお願いをして、「取材」という形でお話も伺いました。すると、高山さんのふだんのキャラクターと作品に描かれている浩輔のキャラクターに、ギャップがあることが見えてきたのです。「あとがき」にも書きましたが、「小説には彼の本当の内面を書いたのだろう」という方もいれば、「あの人は自分を美化したんだと思う」と話す方もおられました。そこはもう僕がジャッジできる領域ではないのですが、でも映画というひとつの作品として捉えたときには、どのような浩輔をどのようなさじ加減で演じるかというところが非常に大切なので、そのバランスは最も配慮や工夫を重ねていったところです。
仕草や口調に関しても、あまりステレオタイプな演技に陥ってしまうと、かえって偏見を助長してしまいかねない懸念がありました。高山さんと近しい方々からのお話にでてきた“時代の空気感も影響していたのかもしれないけれど、いわゆるオネエ的なふるまいをする人だった”という言葉を意識しすぎてしまうと、たぶんそこだけが目立ってしまって、「ああ、やっぱりゲイの人ってそうなんだ」と、偏りのある印象づけをしてしまう危険性があるとも思いました。だけれども、じゃあまったくそうした要素を排除してしまうほうがよいかといえば、それでは実際のところをウォッシュしすぎてしまうような気がしたので、そこはかなり悩みました。
――映画の資料には、監修としてLGBTQ+inclusive directorの方のお名前もクレジットされていましたね。
そうなんです。どれぐらいのさじ加減で、浩輔の指の動きだったり目線の動きだったりを表現していくのか。そのあたりはディレクターのミヤタ廉さんと話し合いを重ねながらつくりあげていった部分でもありました。LGBTQ+の当事者の方々のあり方もすごく多様であるので、そうしたリアリティは大切にしつつも、あくまで“高山さんの描いた浩輔という人物のリアリティ”も追求したかったところです。表現ってやっぱり多様なので、現場でたくさん悩みながらみんなでつくりあげていきました。
原作や映画に対する想いを、言葉を尽くして熱く語ってくださった鈴木さん。2月5日公開予定のVol.2では、撮影裏話を伺いました。ぜひチェックしてください。
■― 愛は身勝手。― 映画『エゴイスト』2月10日ロードショー!
■あらすじ
14 歳で⺟を失い、⽥舎町でゲイである⾃分を隠して鬱屈とした思春期を過ごした浩輔。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、仕事が終われば気の置けない友人たちと気ままな時間を過ごしている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである⺟を⽀えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太。自分を守る鎧のようにハイブランドの服に身を包み、気ままながらもどこか虚勢を張って生きている浩輔と、最初は戸惑いながらも浩輔から差し伸べられた救いの手をとった、自分の美しさに無頓着で健気な龍太。惹かれ合った2人は、時に龍太の⺟も交えながら満ち⾜りた時間を重ねていく。亡き⺟への想いを抱えた浩輔にとって、⺟に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし彼らの前に突然、思いもよらない運命が押し寄せる――。
■原作:高山真「エゴイスト」(小学館刊)
監督・脚本:松永大司
脚本:狗飼恭子
音楽:世武裕子
出演:鈴木亮平/宮沢氷魚/中村優子/和田庵/ドリアン・ロロブリジーダ/柄本明/阿川佐和子 ほか
配給:東京テアトル
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