「申し伝える」は、伝える先への敬意ではなく、 目の前の「話し相手に対する敬意」を表すのに使われる言葉です。敬語の原則は「自分側(身内)は立てない」こと。例えば自社の社長は、社外の人から見たら「あなたの身内」です。今回は「申し伝える」を例に、間違えやすい「ウチソト逆転敬語」についてもご説明します。

【目次】

目の前の相手を「立てる」言葉です。
目の前の相手を「立てる」言葉です。

【「申し伝える」を深く知るための「基礎知識」】

■「読み方」

「申し伝える」は「もうしつたえる」と読みます。

■「意味」

「申し伝える」は「言い伝える」の謙譲語です。「語り伝える」や「言い広める」などの意味もありますが、ビジネスシーンで用いられるときは、第三者に「言葉を取り次ぐ。伝言する」という意味で多く使われます。

■どんなシーンで使われる?

「伝言する」という意味をもつ「申し伝える」は、電話や対面での会話で、社外の人から自社の人宛の伝言を預かったときなどに使われます。


【「申し伝える」と「お伝えする」の違いは?「誰に使える」表現なの?】

「申し伝える」と「お伝えする」の違いを説明する前に、敬語表現の基本のひとつをおさらいしましょう。

■「ウチソト」逆転敬語は厳禁!

敬語には、尊敬語や謙譲語を使って相手や話題の人物を「立てる」はたらきがありますが、その原則は「自分側は立てない」こと。この場合の「自分側」とは、家族や社内の人間など、いわゆる「身内」を指します。

NG:「両親は、私を大変慈しみ、育ててくださいました」

こんな誤った敬語表現を、「仲のよいご家族ね」と微笑ましく受け取ってもらえるのは、中学生くらいまででしょうか? このように、身内(ウチ)とよそ様(ソト)で高める立場が逆転した間違った敬語表現を「ウチソト逆転敬語」といいます。社内では高めるべき上司であっても、一歩外に出れば社長であっても「身内」です。社外の方に対して身内を高めて話すのは大変失礼な行為です。

NG:「ご提案の企画書につきましては、部長がご覧になったあと、改めてお返事いたします」
OK:「ご提案の企画書につきましては、部長が拝見したあと、改めてお返事いたします」

■「お伝えする」は誰に対する敬語?

「伝言」のシーンには、最低3人の登場人物が必要です。伝言を依頼するAさんとその宛先であるBさん。そして仲介役のあなたです。例えば、取引先のAさんからの電話を受けて「はい。B部長にお伝えします」という表現であなたが「立てている」のは、誰でしょう? 正解は、B部長です。B部長は社内の人間ですから、この表現は「ウチソト逆転敬語」であり、間違いなのです。同様に、「はい。B部長に申し上げます」も、身内であるB部長を「立てる」表現となり、間違いです。

■「申し伝える」は誰に対する敬語?

現在、謙譲語には2種類あることは、この連載でも何度かご説明してきました。上記で挙げた「お伝えする」「申し上げる」は「謙譲語Ⅰ」。行為が向かう先の人物(この場合はB部長)に対する敬意を込めた表現です。社外からの電話に対し「はい。B部長にお伝えします(申し上げます)」は間違いです。「はい。B部長に伝えます」は間違いではないのですが、少々カジュアルな印象ですね。そこで重宝するのが、「申し伝える」という表現なのです! 「申し伝える」は「申す」と「伝える」を使った複合動詞。そして「謙譲語Ⅱ(丁重語)」である「申す」は、申す相手(行為が向かう先)ではなく、目の前の話し相手に対する敬意を表すのに使われる言葉です。つまり、「申し伝える」を使うことで、社外の人への対応にふさわしい丁重さを出すことができるのです。


【電話やメールなどでそのまま使える「例文」5選】

■1:「来週の打ち合わせの詳細につきましては、私から部長に申し伝えます」

■2:「あいにく△△は不在にしております。戻りましたら〇〇さまにお電話を差し上げるよう申し伝えます」

■3:「ご事情は承知いたしました。必ず担当者に申し伝えます」

■4:「このたびはご依頼をありがとうございます。のちほど上の者にも申し伝え、改めてお返事いたします」

「申し伝える」は、基本的に社外とのやりとりで多く使われる言葉ですが、部署間のやりとりなど、社内でも使うことが可能です。このケースでは伝言を頼んできた他部署の上司や先輩に対する敬意を表すことができます。

■5:(社内の他部署から伝言を受けて)「(自分と同じ部署の)○○さんに申し伝えます」


【「申し伝える」の「言い換え」表現は?】

■伝えます ■ご伝言を承りました 


【「申し伝える」の「反対語」は?】

■申し受ける

「お願いしてもらい受ける。願い出て受け取る。頂戴する」などの意味をもつ「申し受ける」。伝言を受け取る側が主体となるこの言葉が「申し伝える」の反対の語です。

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目の前の「話し相手に対する敬意」を表すために使われる「謙譲語Ⅱ(丁重語)」は、「申す」のほかに「参る」「いたす」「おる」などがあります。「明日は妹のところに参ります」と言えば、敬意の対象は妹ではなく、話し相手です。また「拙著」や「小社」など、自分に関することを控えめに表す名詞も、「謙譲語(丁重語)」です。「謙譲語」という分類は比較的新しいものですが、これを頭に留めることで敬語の理解が深まります。ぜひ覚えておいてくださいね。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /文化審議会答申「敬語の指針」 /『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書) /『敬語マスター まずはこれだけ三つの基本』(大修館書店) :