15世紀から17世紀のヨーロッパ絵画において、外すことができないキーワード、「フランドル派」。現代のベルギーを中心とする、フランドル地方で栄えた美術です。
東京都美術館で開催された『ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜』では、そのフランドル派のなかでも、ピーテル・ブリューゲル1世、その息子のピーテル・ブリューゲル2世とヤン・ブリューゲル1世、さらに孫、ひ孫の代まで、150年にわたり優れた画家を輩出した「ブリューゲル一族」に焦点を当て、その美しくユニークな絵画世界へと案内をしています。
宗教画から風景画、神話画など、世代によって移り変わるその見どころを、5枚の絵からひも解いていきましょう。
■1:宗教対立の中、独自の世界観を確立したピーテル1世の「宗教画」
ピーテル1世が活躍した16世紀後半は、カトリックとプロテスタントの宗教対立が勃発した時代。そんななか、ピーテル1世は独自の宗教画を確立していきます。キリスト教的な善悪の価値観を示すことから一歩引いて、冷静な目で現実を見つめる「観察眼」は、その後のブリューゲル一族の類まれな芸術伝統を確立することにつながりました。ピーテル1世が下絵を描いた《最後の審判》の中にも、静かなる観察眼が読み取れます。
■2:まるで物語の1シーン。ピーテル2世の「風景画」
ピーテル1世の長男・ピーテル2世は、父の作品を忠実に模倣(コピー)し、父の名声を高めることに貢献した画家。彼は、「冬の風景画」というジャンルを確立します。《鳥罠》という作品は、おそらくはピーテル1世が考案した「鳥罠」という題材を、ピーテル2世が描いたもの。雪に覆われた町に、どこか憂鬱な空気感が漂う、物語の1シーンのような美しい絵です。
■3:自然への観察眼が豊かな、ヤン1世とヤン2世の「神話画」
ピーテル1世の次男、ヤン1世は、自然への深い洞察から風景画の傑作を多く残しました。そのヤン1世の息子が、ヤン2世。《地上の楽園》 は、父ヤン1世の急逝後に未完成のまま残されていた作品群を、ヤン2世が仕上げたものの1枚なのではないかと言われています。注意深い観察眼と、精緻な細部描写で、神話の世界を生き生きと表現しています。
■4:踊る人々が生き生きと描写された、ピーテル2世の「農民画」
ブリューゲル一族の画家たちが描いた農村の風景も、興味深い作品群です。日々の労働を感じさせる日常の姿のほか、祭や婚礼の祝祭などで、喜びを爆発させる農民たちの姿も主題となりました。ピーテル2世は、父のピーテル1世と同じく、ときに農村へ出向いて、農民たちの身振りや態度を観察したといいます。陽気な祝宴の様子を楽しんでください。
■5:”花のブリューゲル”と呼ばれたヤン1世の「静物画」
花や果物を描く静物画には、「どんな美しさもいずれ朽ち果ててしまう」という道徳的なメッセージが込められています。ピーテル1世の次男、ヤン1世は、「花のブリューゲル」とも呼ばれた花の静物画の名手。その息子、ヤン2世も、父ヤン1世の作品を模範としました。咲き誇っていればいるほど、それがヴァニタス(虚栄)であることが際立つ、静物画の名品が並びます。
以上、『ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜』のなかから、5枚の絵をご紹介しました。日本ではまだまだ知られていない、フランドル絵画の真髄を楽しめる展覧会。是非足を運んでみてくださいね。
余談ですが、お土産はベルギー王室御用達のプレミアムクッキー「ジュールス・デストルーパー」のバタークリスプが入った、展覧会オリジナル缶のクッキーがおすすめです!
問い合わせ先
- 『ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜』
- 会期/2018年1月23日〜4月1日 ※終了
- 会場/東京都美術館
- 住所/〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
- 開室時間/9:30〜17:30(金曜日は20:00まで、入室は閉室の30分前まで)
- 休室日/月曜日
- 観覧料/¥1,600(一般)ほか
- TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
- ※豊田市美術館(2018年4月24日~ 7月16日)、札幌芸術の森美術館
- (2018年7月28日~ 9月24日)ほか、広島県、福島県に巡回。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- EDIT&WRITING :
- 剣持亜弥