「ご査収の程」は、多く「お願いいたします」など依頼の言葉と共に使われ、「内容をよく調べた上でお受け取りください」という意図を、婉曲に表した敬語表現です。「あまり使ったことがないな」と思ったあなた。「ご査収」は、「ご確認」や「お目通し」よりも厳密な意味をもった、使い方次第ではとても便利な言葉です。正確な意味や使い方を解説しますので、「これは重要!」と思う書類のやりとりに使ってみてください。

【目次】

「確認」して「受け取る」「もの」がないときは使えません。
「確認」して「受け取る」「もの」がないときは使えません。

【「ご査収の程」を理解するための「基礎知識」】

■意味

まずは基礎的な知識から確認していきましょう。「ご査収の程」は「ごさしゅうのほど」と読み、「ご・査収・の・程」と分けられます。「ご」は相手への敬意を添える接頭語。「査収」は金銭・物品・書類などを「よく調べて受け取ること」です。 漢字の「査」には「よく見て調べる、検査する」という意味が、「収」には「おさめる、取り入れる」といった意味があるのです。そして「程」は「おおよその程度を表す」名詞ですが、私たちがビジネスで頻繁に使用する「~の程」は名詞のあとにつき、「お願いいたします」などの言葉をつなげ、依頼の形で使われることがほとんどです。断定を避け、表現を和らげる効果があります。「程」と漢字にしても、ひらがなにしても間違いではありません。以上のことから、「ご査収の程」は、「内容をよく調べた上でお受け取りください」という意図を、婉曲に表した敬語表現であるといえます。

■どんなシーンで使う?

ビジネスシーンにおいて「ご査収」が用いられるのは、メールの文中など文書が主となります。対面の会話では「ごさしゅうのほど」とはあまり聞きませんね。正直、わかりにくいです!

「ご査収の程」は、先方に内容をきちんと確認してほしい請求書や見積書、企画書などの添付ファイルをメールで送る際などに使われます。確認する内容は、日付や氏名または会社名、金額、取引内容等の詳細です。「これらに間違いがないか確認した上で、お受け取りください」というニュアンスを込めて使われます。また、内容を確認してほしい書類や資料の郵送にも使われます。裏を返せば、相手が「確認」して「受け取る」「もの」がない場合、「ご査収ください」は使えません

■英語で言うと?

「ご査収の程」のニュアンスまでズバリ表す英単語はありませんが、「(よく調べて)受け取る」には[accept]が使えます。

・Please accept delivery of this itemized statement and check to be sure that there are no errors in it.

(明細書をご査収ください)


【「ご査収」の「使い方」がわかる「例文」4選】

「ご査収の程」は、正しい敬語表現ですから、目上の方や取引先、上司に対しても使用可能です。プライベートでも、習い事の先生やお世話になった方などと、書類や金品のやり取りが発生したときに使うことができますが、少々事務的なニュアンスを感じさせてしまうかもしれません。

■1:「明細書を添付いたしました。お忙しいところ恐縮ですが、ご査収の程、よろしくお願いいたします」

■2:「別便にてサンプルを郵送いたしましたので、お手数ですがご査収の程、お願い申し上げます」

■3:「スケジュール表を同封いたしましたので、ご査収の程、お願いいたします」

「ご査収」は「ください」と一緒に使われることも多いので、こちらの例文も紹介しますね。

■4:「見積書を添付いたしますので、ご査収くださいますようお願い申し上げます」


【「ご査収」の「類語」「言い換え」表現は?】

■より「丁寧」な言い方にするなら?

・ご高覧 

「高覧」とは、相手が見ることを敬って表す語。「見る」の尊敬語は「ご覧になる」ですが、それをさらに丁寧に表現したのが「ご高覧」です。「査収」のように「よく調べて受け取る」という意味は含んでいませんので注意が必要です。

■対面でも使える表現にするなら?

・ご確認

・お目通し

「確認」や「目通し」は日常よく使われる平易な言葉です。「査収」のような「よく調べて受け取る」というニュアンスは弱くなります。重要な書類であれば、やはり文書で依頼するのが確実ですね。

■「査収」よりも厳密な意味で使いたいなら

・ご査証

「査証」には、「きちんと調査し証明する」という意味があります。クレーム関係の書類や見積書、領収書の間違いを指摘し、修正を求める際にも使われ、「査証」よりも厳密な対応を求める表現となります。慎重に使う必要のある言葉だと覚えておいてくださいね。

・ご検収

「検収」は「発注を受け納品されたものが、注文した通りかどうか、よく確かめた上で受け取る」という意味です。納品された成果物に対して使われることが多く、数量が合っているか、破損などがないかなど、確かめた上で受け取ってほしい旨伝えるときに用いられます。


【「ご査収の程~」とメールが来たときの「返信」は?】

「ご査収の程」という文言が使われたメールを受け取ったら、添付ファイルはそれなりに重要なものであるという認識をもつことが大切です。何より“即レス”を心掛けましょう。

■1:確かに受け取りました。

■2:受領いたしました。

■3:拝受しました。

■NG:査収しました。

メールを受け取ったあと、すぐに内容を精査できない場合は、上記いずれの文言のあとにも「内容を確認次第、改めてご連絡いたします」のひと言を添えて。その後、疑問点や修正点があったらその旨を伝え、何も問題がない場合であっても、「確認いたしました。こちらでお願いいたします」といった返信をお忘れなく。


【ビジネスシーンで「ご査収」を使う際の注意点】

■「ご査収の程」は、口頭では伝わりにくい。

■メールでの添付ファイル等、相手が「確認」して「受け取る」「もの」がない場合、「ご査収の程」は使えない。

■「○○を添付(郵送)しました」のひと言を添えると確実性が上がる。

■「恐縮ですが」などクッション言葉を併用し、相手への配慮を滲ませて。

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取引先などに、重要な書類をきちんと確認してもらいたいとき、メールで「ご確認ください」や「お目通しください」と書くだけでは、あなたの真意は伝わらないかもしれません。「査収」は対面の会話ではあまり使われない、硬い印象の言葉であるぶん、「これは大切なものなので、ちゃんと見てくださいね」という気持ちを相手にスムーズに伝えることができます。磨かれた大人の語彙力は、思わぬトラブルやミスの芽を摘むこともできるというわけです!

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『使い方の分かる 類語例解辞典』(小学館) /『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) /文化審議会答申「敬語の指針」 :