「アジアのベストレストラン50」は、イギリスのガストロノミーメディア『RESTAURANT』で知られる「ウィリアム リード メディア グループ」が運営するアジア地域の国際的なレストラン・ランキングです。

ランキングは、アジア各地の料理批評家、シェフ、レストラン経営者、美食家など、約300名のスペシャリストによる投票で決定。メンバーは過去18ヶ月間で実際に訪れたレストランだけに投票するため、その時々の料理界の最先端トレンドが反映されます。2013年にスタートし、11回目を迎えた今年は、4年ぶりにリアルなインターナショナル・イベントとして3月28日にシンガポールで盛大に開催されました。

シンガポールでのイベントではランクインしたシェフが一堂に

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シンガポールで開催された「アジアのベストレストラン50」。ステージ上には50以内にランクインしたシェフたちが勢揃い

今回、日本からはベスト50内に10軒(東京7店、大阪、京都、和歌山各1店)がランクインし、タイの同9店(全てバンコク)、シンガポールの同9店を押さえて国・地域別最多でした。昨年1位の『傳』(青山、イノベーティブ日本料理)に代わり、1位はタイの『ル・ドゥ(Le Du)』(バンコク、コンテンポラリー・タイ料理)が獲得しました。

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1位の『ル・ドゥ(Le Du)』のトン・ティティッ・タッサナーカチョン(通称トン)シェフ。

1位は『ル・ドゥ(Le Du)』(バンコク、コンテンポラリー・タイ料理)、トン・ティティッ・タッサナーカチョン(通称トン)シェフが。嬉しい受賞となりました。


ベストレストラン50の日本チェアマンを務める、コラムニストの中村孝則さんに現地でお話を伺いました。

「コロナ禍で、日本よりずっと早く国外からの観光客にオープンしていたタイとシンガポールが有利だと思ってましたが、日本はとても善戦した印象ですね。しかも、東京だけではなくて、大阪や京都、さらに和歌山など各地からも選ばれているのが特徴的です。全体から読み解ける料理界のトレンドとしては《グローバル+ローカル》、そしてSDGsつまりサスティナビリティ(持続性)やダイバシティ(多様性)になると思います。グローバルで言えば、東京にあるイギリス出身シェフの『セザン(SEZANNE)』が日本のベストレストランになったのも象徴的な出来事でしょう」

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SEZANNEのトロフィー贈賞。フォーシーズンズホテル丸の内 東京のシグネチャーフレンチレストランが日本からは受賞。

今回日本からランクインした『SEZANNE』は21年7月の開店から僅か約1年半で2位に大躍進し、大変なセンセーションを巻き起こしています。今回、東京に帰って間もないシェフのダニエル・カルバートさんに、『Precious』の単独インタビューにお答え頂きました。

ダニエル・カルバートさん
フォーシーズンズホテル丸の内 東京の総料理長、『SEZANNE(セザン)』エクゼクティヴシェフ
ロンドン近郊出身で、ニューヨーク、パリ、香港などの名店で腕を磨き、異なる文化に対して偏見のない、そして様々な素材を積極的に取り扱うことができる、オープンマインドなシェフ。日本の旬の素材を大切にした繊細かつイノベーティブなフレンチは、その日の最高の素材を使う和食の「おまかせ」にも通じます。

「私の料理は一言で言えばグローバルかつローカルな料理です。フレンチのテクニックで、どの国でもその日、その場の素材を最大に活かすことを心がけてきました。日本では《旬》は僅か10日間を指すそうですが、日本の季節の素材の変化を理解して、例えば春は山菜、初夏はホタルイカ、冬は蟹など。毎日その日の一番良い食材を使って、その食材にとって一番良い料理を出すことを心がけています」

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香港を代表する建築家アンドレ・フーによるモダンな店内の『SEZANNE(セザン)』
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「ホタルイカ ピペラート バジル アーモンド」(7月までのメニュー)

メニューは基本的に「おまかせ」コース。シェフ自ら、豊洲市場には週に3日くらい行き朝から仕入れをし、またジビエの鹿肉を求めて、釧路のいつも仕入れをお願いしている猟師さんに、撮影も兼ねてわざわざ会いに行かれたそう。日本各地のテロワールに対する深いリスペクトが感じられます。

「毎日毎日が新しいチャレンジです。例えば今年、今まで知らなかった旬の食材を知ったら、次の年の旬にはそれをより上手く料理したいですね。お客様には、何度も何度も、より楽しんで頂きたいのです」

ランチも、もちろんシェフが陣頭指揮を取って供されるので、『Precious』読者の方々には先ずは気軽にいらして頂きたいと、ユーモアたっぷりにお話しくださいました。

 


「バンコク、シンガポール、香港などは以前から外国出身のシェフが多くランクインしてますが、東京や大阪、京都、福岡などの日本の大都市も同じようなグローバルでダイバシティな美食都市になりつつある証拠ですね」ともチェアマンの中村さんは語ります。

「もう一つ《グローバル》という事では、第1回アジア50で1位になり、今年も10位という位置を守っている『ナリサワ(NARISAWA)』が今、シンガポールで期間限定のポップアップ・レストランを開いているのも注目です」

シェフの成澤由浩さんは、日本各地のテロワール(地元ならではの)素材による『イノベーティブ里山キュイジーヌ』で知られますが、東京・青山の本店をリノベーションしている間、4月30日までシンガポールに期間限定レストランをオープン中。世界のベストレストラン50でも15年間続けてランクインしているアジアで唯一のレストランであり、レジェンドとして尊敬されています。現地にオープンしたばかりのお店で、成澤シェフにお話しを伺いました。

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『マンダラクラブ×ナリサワ』のカウンターに立つ成澤シェフ。

「日本とシンガポール、マレーシア、インドネシアなど地元の食材を探し出して使っています。また、〈シンガポール30×30〉と言う、2030年までにシンガポールの食糧自給率を30%にあげるSDGsプランに共感しまして、都市国家シンガポール内で作られた、サスティナブルでオーガニックな食材も多用しています」

シンガポールでも「SATOYAMA」は、ローカルのテロワールを素材とするサスティナブルな料理の代名詞として認知され、大変な話題です。


中村さんは、今後注目して欲しいのは日本のローカルなレストランです、と言います。

「例えば今回14位にランクインした和歌山の『Villa AiDA(ヴィラアイーダ)』は、アグリガストロノミーと呼ばれる自給自足型のレストラン。1日1組のみ最大6人程度のお客様に、小林寛司シェフ夫妻が自家農園で自ら育てた食材を使って料理を供する、いわば究極のサスティナブルレストランです」

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『ヴィラアイーダ』の小林寛司シェフ夫妻

 


「もう1軒、プレシャス読者にお勧めしたいのが、今回60位に初ランクインした富山の『レヴォ(Cuisine régionale L’évo)』です。富山県の利賀村と言う、雪深い地で獲れた鹿肉や熊肉までも食材にしている、ローカル・ガストロノミー、真の地産地消の追求が注目されています」(中村さん)

『レヴォ』は3棟のコテージを持つ、前衛的地方料理のオーベルジュ。自然の懐に静かに抱かれながら、その自然から頂いた食材で生み出される料理を頂きます。シェフの谷口英司さんに、なぜ富山の山奥でイノベーティブ・フレンチを目指すのかを聞きました。

「富山には山菜や野草が満ち溢れていて、熊や鹿などの野生動物も多く生息しています。そういった食材の近くで、トレンドに流されずに自分自身のクリエイションを追求したくて、ここに来ました。自分自身が山奥に暮らして、自然に囲まれているからこそ生まれてくる料理だと思っています。これからもっと自然を深く知り、理解を深めていくことで、どんどん料理も変わっていくと思います」

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富山県南砺市利賀村の自然の中にある『レヴォ』は、1000m級の山々に囲まれ、清流の傍らにあります。

 


中村さんは今後の日本の食のトレンドをこう語りました。

「アジアベストで4年連続1位になったタイの『ガガン』のガガン・アナンド・シェフは昨年末、福岡に地元のシェフ福山豪さんと一緒にレストラン『ゴーガン(GohGan)』をオープンしました。また「世界のベストレストラン50」で5度の世界一に輝いたデンマークの『noma(ノーマ)』は今、京都で日本の食材を使うポップアップ・レストランをオープンしています。
トップシェフが日本にやって来て日本の食材で料理をする、お店を開くのも、もはや当たり前になるでしょう。しかし、日本各地の地方には、四季折々の旬にしか味わえない地元の食材による歴史豊かな食文化が広がっています。アジアの、そして世界の人たちがその魅力に気づく日も近いのかも知れませんね」

◎ベスト50にランクインした日本のレストランは以下の通り。

No.2:日本・東京『セザン(SEZANNE)』フレンチ
No.4:日本・東京『傅(DEN)』イノベーティブ
No.7:日本・東京『フロリレージュ(Florilege)』コンテンポラリー・フレンチ ※Chef’s Choice Award(シェフが選ぶシェフ賞)
No.8:大阪『ラ・シーム(La Cime)』フランス料理
No.10:日本・東京『ナリサワ(NARISAWA)』イノベーティブ
No.12:東京『茶禅華』中国料理
No.14:日本・和歌山『ヴィラ アイーダ(Villa AiDA)』アグリガストロノミー
No.20:東京『ODE(オード)』コンテンポラリーフレンチ
No.32:日本・京都『チェンチ(Cenci)』イタリアン
No.44:日本・東京『L’Effervescence』※生江史伸シェフがアイコン賞(Icon Award)を受賞。

以下は51〜100位。
No.60:日本・富山『L’évo』 ※New Entry
No.64:日本・東京『すぎた』
No.67:日本・東京『Esquisse』 ※New Entry
No.75:日本・東京『日本料理 龍吟』
No.80:日本・東京『The Pizza Bar on 38th』 ※New Entry
No.90:日本・東京『Eté』
No.91:日本・東京『オマージュ(Hommage)』 ※New Entry

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日本チェアマンの中村孝則さん(左)とカーク・ウエスタウェイ・シェフ(右)。

日本チェアマンの中村孝則さん(写真左)。アジアベスト84位のシンガポール『Jaan by Kirk Westaway』にて(右はカーク・ウエスタウェイ・シェフ)。シンガポールはベスト100では最多の15店がランクインした美食都市。

ぜひ、お出かけの際にはレストランの新たな潮流を意識して、話題に花を咲かせてください。新たな食の可能性を親しい方と感じてみる機会にしてはいかがでしょうか。


アジアのベストレストラン50公式サイト

この記事の執筆者
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WRITING :
福田誠