おしゃれのセンスを磨き、知性を刺激し、口福を満喫する…私たちが求めるあらゆる“ラグジュアリー”を満たす街、それがパリ! 現在、パリはかつてない勢いでモダンな街へと変貌を遂げています。その一方で、歴史に彩られた美しさ、ゆるぎないエレガンスは守り続けられています。

雑誌『Precious』5月号では、『大人こそ楽しい「パリ」の魅力、再発見!』と題し、あらためて憧れの街・パリについて特集。歳を重ねたからこそわかる、最新の、そしてとっておきの、パリの魅力をお伝えします。

本記事では、案内役であるソフィー・ルノワールさんにパリでの暮らしやエレガントなパリの大人女性のあり方などを伺うとともに、ソフィーさんおすすめのスポットもご紹介します。

自由で、知的で、美しい「パリで生きる」ということ

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オテル・ドゥ・ラ・マリーヌからの眺望を楽しむソフィーさん

「もし幸運にも、若者の頃、パリで暮らすことができたなら、その後の人生をどこですごそうとも、パリはついてくる。パリは移動祝祭日だからだ」

“狂乱の時代”と呼ばれる刺激的な1920年代のパリで、20代を過ごした作家のヘミングウェイはそんな言葉を残しています*。昔からパリには世界中の若き画家や作家、音楽家といったアーティストが集まり、特別な空間を創りながらパリの価値を高め、異邦人の視線によって、その魅力は見出され、語られてきました。

ひとりのアメリカ人作家が見て、感じて、いきいきと描いた1920年代のパリの景色や風情は、1世紀を超えて変わることなく、今も息づいています。

それこそが、異次元の空間に身をおくようなパリの旅の真髄なのです。

旅を諦めていたこの3年の間、パリにはいたるところに新しいムーブメントが生まれ、昔ながらのパリの街に溶け込むように、新たな風が吹き込まれています。

今回のパリ特集ではまず、フランス印象派画家の巨匠、ルノワールの曽孫として印象派絵画の研究に携わり、自身もアーティストとして活動する生粋のパリマダム、ソフィー・ルノワールさんとの幸運な知遇を通して、この成熟した街の新たな魅力に触れ、そこに生きること、旅することの喜びを再発見します!

*アーネスト・ヘミングウェイ著『移動祝祭日』(新潮文庫 高見 浩訳)より
Sophie Renoir(ソフィー・ルノワール)さん
女優・写真家
1964年、パリ近郊ブーローニュ生まれ。13歳でアラン・ドロンと共演し映画デビュー。1988年、エリック・ロメール監督作品『L’Ami de mon amie』で、セザール賞新人女優賞を受賞。独学で写真を学び、'20年に初の個展を開く。
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「パリは絵画のような異次元空間。人は入れ替わっても、街は変わらない」(ソフィーさん)

通い慣れたオルセー美術館への道行き、パリの街を歩くソフィー・ルノワールさん。当然ではあるけれど、街並みに美しく溶け込み、パリの大人の女性を象徴するような、自然で力みのない、小粋な佇まいにため息がもれる。


ソフィー・ルノワールさん|成熟のパリに生きる、大人の女性のあり方

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ブーローニュの自宅で、愛犬マローン君とくつろぐソフィーさん。壁には彼女が撮影したふたりの息子さんの写真が。長男は俳優、次男は美術史を学ぶ。

美しいものを見る力を養うパリの暮らし

パリの素敵な大人の女性が醸し出す空気。それは一人ひとりの“アリュール”(その人自身の気品や魅力)が織りなす、パリの街を輝かせる大きな魅力でもあります。今回のパリの案内役、ソフィー・ルノワールさんも、そんな“アリュール”をもつパリマダムです。

その名前から察するように、印象派画家のピエール=オーギュスト・ルノワールの曽孫にあたり、映画監督ジャン・ルノワールを大叔父に、映画撮影監督のクロード・ルノワールを父にもつ芸術家系の出身。

10代で映画デビューし、現在は女優として舞台に立ち、写真家としても活動するかたわら、近代絵画の研究財団として世界一の権威を誇る「WPI」のルノワール委員会に、ルノワール家からただひとり参加するエキスパートでもあります。

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現像所でプリントの確認をするソフィーさん。

「偉大な曽祖父の存在を意識しないわけではありませんが、家族に代々受け継がれるものは、肩書きではなく、シンプルさのなかに美しいものを見る力や、生きる姿勢でした」(ソフィーさん)

ソフィーさんも繊細な感性を秘めて、体の中に自然に生まれるものを表現するうち写真に出合い、光に導かれるように撮り続けてきました。

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ソフィーさんの作品『無題』凱旋門をラッピングするクリストのインスタレーションを斬新な角度で撮影。(C)Sophie Renoir & CKG Fine Art Tokyo

「パリに暮らして、素敵だと思う瞬間は、視覚や臭覚を刺激されるとき。例えば、夏の雨上がり、庭園の青々とした匂いや、草露に跳ねる光。夕陽が沈む頃、セーヌ川を越えるときの景色は、いつ見ても感動します。パリは、何世紀も前の建物が残るピトレスク(絵画的)な都市で、私たち人間だけが入れ替わる、永遠の異次元空間なのです」

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ソフィーさんの作品『春の印象』雲の瞬間の動きを絵画のように捉えたもの。(C)Sophie Renoir & CKG Fine Art Tokyo

そんな変わらないパリにも今、歴史的建造物の改築が進み、新しい風が吹いています。今回、ソフィーさんはそうした新しいパリも、お気に入りのアドレスに入れています。

【オルセー美術館(Musée d’Orsay)】

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「時計台越しの光の移ろいが美しく、立ち寄るたびに撮影する場所です」(ソフィーさん)

1900年に駅舎兼ホテルとして建設され、1986年に19世紀美術を展示する美術館として開館。曽祖父の絵画を観るため足繁く訪れるソフィーさんは、印象派の部屋にたどり着く前に立ち寄るこの時計台の光の移ろいに心惹かれる。

また、新たに加わったカイユボットの作品はLVMHのアルノー氏が寄贈したもので、フランスの国宝をぜひ見てほしいとも。

〈オルセー美術館〉

パリのカフェは人生の交差点のようなもの──ソフィー・ルノワールさん

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夕日が傾きかけたセーヌ川はソフィーさんが愛する風景のひとつ。ルーブル美術館とフランス学士院をつなぐ「ポン・デ・ザール」は、遠目にも様になる。完成は1804年。

自由とはありのままに心地よく、どう生きるか。

少ししゃがれた声で、ときおり微笑みを浮かべながら、早口で話す。でも仕草はゆったりとリラックスしている…。素顔のソフィーさんは、私たちが思い描いていた素敵なパリの大人の女性そのものです。

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柔らかな日差しを受けて左岸の街を歩くソフィーさん。後ろに見える玉ねぎ頭の広告塔も、パリの街を彩る歴史的名脇役。

パリの女性といえば、自由気ままで、ちょっと理屈っぽくて知的なおしゃべりが好き、猫みたいに自分の欲望に忠実で、少しわがままだけど、甘えん坊で可愛い。そして配色のセンスが抜群! そんな勝手なイメージを伝えたら、大きくうなずいて…。

「そのとおり。確かに自由で、人のことを気にしません。誰もが人生において“心地よさ”を優先するのです。私にとってそれは美しいもの、ポジティブでとてもシンプルなもの。

例えば、パリの人は約束の時間に少しばかり遅れても言い訳はしません。相手も受け入れます。向かっている途中、光がとてもきれいだったら、私はきっと写真を撮ってしまうでしょう。美しい瞬間を大切にしたいから。自由とは、ありのままに、心地よく、どう生きるかという姿勢でもあるのです」(ソフィーさん)

自由を得るためには、相手の自由も受け入れる。とてもしなやかな考え方で、彼女たちの自由は“知性”と表裏一体なのだと気付かされます。

パリの女性はユーモアで心地よい空気をつくる

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狭い路地を抜けて、ふと見上げて思いがけずエッフェル塔を見つけた瞬間、とても晴れ晴れとした気分になるのも、パリ歩きの愉しみ。

パリの人たちは、とにかくよく話します。ソフィーさんは“女友達とのおしゃべりは、パリの女性の日常”とも…。その日常を様になるシーンにするのも、パリのカフェという存在。

「人と会い、ちょっと電話をかけ、トイレを借りて…と、些細な理由でカフェに立ち寄ります。パリにはなくてはならない場所。いろんな人が行き交う、人生の交差点のようなものです。コロナ禍のときはカフェが閉まり、みんな困っていましたね。

実は誰もが自分の住む“区”がいちばんだと思っているので、できれば自分の家や職場のある区のカフェで会いたい。セーヌ川を渡るのさえ嫌な人もいる。だから人と会うときは、お互いの中間地点のカフェになるのです(笑)」(ソフィーさん)

シャイだと言うソフィーさんですが、ときおりこんなふうに笑わせて、空気を和ませます。

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部屋に花を絶やさないパリマダムたち。街角の花屋のよく磨かれたガラス窓に映る瀟洒なアパルトマンが、パリの「アール・ドゥ・ヴィーヴル」を想起させて。

「ユーモアで心地よい雰囲気をつくることは大切。笑いがないところに人生は謳歌できません」(ソフィーさん)

撮影スタッフも、ソフィーさんのそんなところがパリの女性らしい!と声を揃えていました。そしてエレガントであるためにも、ユーモアを交えるゆとりが必要だと。

「パリのエレガントな女性は、自分のクオリティを表現するのが得意ですが、自己表現はあくまで控えめ。シンプルが身上なので、引き算のおしゃれを好みます。話し方から立ち居振舞、装いにいたるまですべて、さりげなくできる人がエレガントだと思うのです。“façon d'être”(ファソン・デートル)――自分がどうあるべきかを知っていて、いつも心地よくいられるように、微笑みを添える女性が素敵ですね」(ソフィーさん)

ソフィーさんにとってパリは“自由、愛、文化、ファンタジー”だと言います。そんなパリの魅力を彩ってきたのが紛れもなく、こうした自由で知的で美しい大人の女性たち。次にパリへ行くなら、まずはカフェで、素敵な女性たちをじっくり観察することから始めてみませんか。

【ル・ソルフェリーノ(Le Solférino)】

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「自由、愛、文化、ファンタジー。それがパリの魅力」(ソフィーさん)

オルセー美術館から徒歩5分。ソフィーさんが撮影時にひと息ついたのは、サンジェルマン大通り沿いの角地にあるブラッスリーカフェ。広々とした店内とテラスが気持ちよく、美術館を訪ねる前後に立ち寄るのにちょうどいい。

〈ル・ソルフェリーノ〉

問い合わせ先

PHOTO :
篠あゆみ
HAIR MAKE :
ヘア/谷口佑輔、メイク/御幸 剛
COOPERATION :
片岡ちがや(CKG Fine Art)
EDIT&WRITING :
藤田由美、喜多容子(Precious)
コーディネート :
鈴木ひろこ